うっかり寿司が握れるようになった
昨年、でかい仕事が流れました。もうだめだ、寿司職人になって外国に行くしかない……。そんなことを思って寿司学校の入学費用を調べていました。軽自動車買えるくらいの金額にマウスポインターが「の」の字を描き続けました。
ちょっと待ちましょう。そもそも寿司が好きなのかどうか、一回握っときましょうと、家で寿司を握ってると自分で食べる分くらいは握れるようになりました。
お寿司ってへんだ
お寿司を自分で握ってみると気づくことはたくさんあります。
「なんてたくさんの種類を食べてたんだろう!」
魚を買ってきて家でさばいて食べると大体1種類か2種類です。なので飽きます。でも飽きたからといって酢飯にのせて海鮮丼にするとそこまで美味しくないんです。
「こんなにも骨を抜くなんて!」
お母さんが幼児に食べさせるように、骨をちまちま抜いているんです。私達はみんな赤ちゃんだったんです。
「われわれはねっちょりを求めていたのか!」
なぜか色んなタイミングで魚から水を抜かせよう抜かせようとするんです。最終的に「ねっちょり」(水っぽさの逆の状態)とさせたら美味しくなります。たしかに。
「白身はだいたい同じ味だなんて!」
成分的には白身魚のおいしさは同じで餌や脂の乗り具合で味に違いが出ると聞きました(鮮度とか雰囲気も大きいでしょうが)。なんてこった、じゃないですか。今まで何してきたんでしょうか。
鯛の昆布締めしかない
そうしてみると鯛の昆布締めというのはとても納得がいきます。昆布で水を抜いて旨味を添加して並み居る白身魚から頭ひとつ存在感を出してるんです。
鯛を昆布締めすべきか。でも面倒そうだし。葛藤というのは右脳と左脳によるものだと最近読んだ本に書いてました。考えてみればお寿司はただの逃避先であるのに一体いつの間に昆布で鯛を挟むことになったんでしょうか。そしてこれはどの脳が言ってるのでしょうか。
昆布と味の素のうまみは一緒??
そんな折、リュウジのバズレシピの料理研究家リュウジさんが今日もSNSで味の素否定派相手に鼻息をふんふ、ふんふと荒らげていました。味の素は昆布のうまみと一緒だとリュウジさんは言います。
味の素のあのインパクトと昆布が一緒だとはにわかには信じがたい部分もありますが、そうであるなら昆布締めもそれでできるのではないかなと思い当たりました。
検索してみるとなにが出てきたと思いますか? そうです、ご明察です。味の素のホームページ味の素パークのAJIテクナンバー473、イカの刺し身に味の素編ですね。
「生臭く無くおいしく食べることが出来ます、刺身が苦手な方にもってこいです」とあり、やはり昆布のようにお刺し身と合わせることは可能なようです。
え? お刺し身に味の素だとお醤油の方じゃないの? と思われた方、さすが慧眼です。それはAJIテクナンバー41番醤油に味の素編のことですよね。
コメントの多さ、その当たり前さからもどうやら刺し身醤油に味の素をかける民たちが一定数存在するようです。醤油皿に3、4振りするようです。
醤油と刺し身が出てきたらもう一声、と思われたあなた。私はあなたに生まれ変わりたい。そうです、AJIテクナンバー68番酢飯に味の素編です。
はっとしました。「もう、寿司の……全部じゃないか!」私は机を拳で叩き、わなわなと震えました。そして男性更年期について考えもしました。
味の素HPによると寿司の全部に味の素が合う
ほんとにお寿司まるごと味の素に合うのでしょうか。もしそうならお寿司を握ったあとに味の素をパラリとかける寿司屋があってもいいんじゃないか。
ゴクリと息を飲みました。見たいのです。私はそこに勝機を感じたというよりは、味の素をふりかけてくる寿司屋の姿を見たいと思ったのです。
味の素寿司、握ろう
味の素寿司、作ります。デイリーポータルの仲間を呼びました。ライターの安藤さんと記事も久しく見てないしライターなのかなんなのかもはやわからない藤原くんです。
魚はスーパーでアトランティックサーモンを買って切ってきました。酢飯とわさびと醤油でできるだけ普通のお寿司を作ります。
久しぶりに握ったお寿司はお米が乾いてしまって、さらに温めることもできなかったものですからものすごく握りにくいものになってしまいました。
でもそのおかげで「手についた米粒を食べる寿司職人」という誰も見たことのない絵が見られました。
まず最初にふつうにサーモンを握りました。「はい、美味しいお寿司です」と安藤さん。ここまでは普通。ここから味の素寿司です。
AJIテクナンバー0068番、酢飯に味の素を混ぜ込みます。これは想像がつきます。ですがこの背徳感はなんなんでしょうか。
ついでAJIテクナンバー0041番お醤油に味の素をふりかけます。これもそう。醤油にああいう味が乗るのだろうなと想像に容易い。
それよりもAJIテクナンバーが4桁なのが気になります。AJIテクとは一体……!!
そして握られた寿司の最後に「ちょっと待ってくださいね」と職人がゆずを一絞りするような雰囲気でパンダの瓶を一振り、二振り、三振りかけて丁寧な仕事をします。
剛速球的なうまさ
まず三種食べてみました。刺身醤油に味の素。これは想像どおり。鰹節や昆布で味付けした土佐醤油で食べさせるお店も多いので違和感ありません。ドギュンと野球漫画の魔球を投げられたようにうまみが上がりました。
うまいがおもしろくない
つづいて酢飯に味の素。これもご飯のうまみパワーがすごい。さっきまでの酢飯でない酢飯2.0になってます。どんな味かというと「酢飯に味の素を入れた味」です。ジョン・レノンに想像させられなくてもそのままの味です。でもうまい。
先程の醤油との味との違いでいうと舌に触れる部分です。米の方が全体から味がしてくるのでうまみのパワーは大きい。でもおもしろみは少ない。口の中での変化が少ないとも言えます。
そして最後にAJIテクの473番目、刺し身部分に味の素パラリ寿司です。こうしたお寿司になんらかの工夫がしてあるものは高級寿司のようで見た目に悪くありません。しかしよく考えると味の素の粒子であるので、考える前に食べるのがよいのでしょう。
食感は悪いが絶対的な美味しさがある
口に入れるとあきらかに舌触りに味の素のとがった粒子があります。歯を入れていくと軽いザクザク感も味わえます。脳裏にあの形が蘇ります。ですが食感の悪さに対して味の良さは確実にあります。
どれも悪くない。そう思って酢飯にも醤油にも刺し身にも味の素を混ぜたオール味の素寿司を食べてみました。
全部使ってるものは一緒なので味の方向性としては一緒です。あとは舌のどこに触れるかの違いでしかない。オール味の素寿司は口に触れたところ全部に味パワーが施されています。
うまい。そしておもしろくない。味のイメージでいうとこういうグラフを思い浮かべます。味のパワーがすごい。
味の素は昆布のうまみと一緒かもしれませんがこんだけドギューン!!とでっかいうまみが乗っかってるのでケミカルな印象を禁じえません。ですがそれは量の問題である可能性も大いにあります。
安藤さんは「うまい醤油がとにかくうまい」「全部うまいお」「ケミカルさもなんにも感じない」ととにかく味パワーにやられてしまっていますから。