いろんな「うまい言い回し」を集める
まずは研究するために、友人やその知人の話から50個ほどの「言い回しだけで乗り切った話」を集めた。
たとえば
「あくまでテストです」
仕事で新規事業を起こしたかったが、企画書や社長プレゼンが面倒だったので「実験でミニマムでトライしてもいいですか?あくまでテストです」とそれっぽく相談し、サラッと大きめの話を通した
のような具合である。「社長、簡単すぎないか?」と思って心配になったが、この一文でいろんな面倒をスキップできている。
「実験」「ミニマム」「トライ」「テスト」めちゃくちゃそれっぽい。なぜかまぁいっかと思ってしまうのもわかる。
しかもこの人はこのあとしっかり成功させていた。まじでかっこいい。私もなるべく楽したい。
みんなで「言い回しのコツ」を研究
集めたセリフを分析し、日常でもっとうまい言い回しができるようコツをつかみたい。しかしひとりだと無力だ。
知ってる人の中でこの感じをわかってくれそうな方はいないか……あ、デイリーポータルZだ!と思い編集部の方にお願いした。
左上が編集の橋田さん、下が編集長の林さんである。事情を話すと「わかります」「なるべく楽したいです」とすでに頼もしい。
ちなみに林さんは月の数字が低い時、積み上げ棒グラフで資料を作って絶対に右肩あがりに見せるほどこの道にマジの人である。
二人に集めたリストをみてもらいつつ、コメントをいただきながらジャンル分けをしていった。
乗り切りエピソードを分析していくと、うまい言い回しは大体8つのカテゴリに分類できることがわかった。
これをレベル1〜3にわけ、難易度別に紹介していきます。
・ただかっこよく言ってぽくする
まずはじめやすいのがこれだ。ただ表現をアッパーにするだけでいい。たとえば
「可及的速やかに」
まったく手を付けてないとき「可及的速やかに着手します」と言って、怒られずにすみました。「フィジビリを確認します」「直ちに関係者に連絡します」もやってるっぽく見えます。
といった具合である。ちなみにこれは
全部林さんのエピソードだった。「かっこいい!ビジネス用語」という記事を書くぐらいで、ほんとうにこのパターンがスイスイ出てくるのですごい。
たしかに「やってません!」と言われるとお前はバカか?となるが「可及的速やかに着手します」と言われたら「おう!頑張ってるな!」と言いたくなる。人間の脳は本当にザルい。
・テンションや大声で乗り切る
次はとにかくテンションで乗り切る方法だ。
「失礼しまーす!!!」
中学の頃、毎日ヤンキーが道をふさいでいる階段があり、みんな怖くて避けていたのですが、カーストの最底辺で失うものがなかったので「失礼しまーす!!」と先輩が並ぶスキマに足を入れて元気よく通過しました。
「生きがいなんです!!!」
部活中、トンボでグラウンドを整備しないと先輩に怒られるのでトンボの奪い合いになるのですが「わたしトンボ大好きなんです!!」「トンボが生きがいなんです!!」と大声と笑顔でせまり毎回勝ち取っていた。
どちらも元気、大声、笑顔でテンションで相手をバグらせて乗り切っている。
「失礼しますは大体なんとかなりそう」「トンボが生きがいなわけないからおかしいですよね」内容はさっぱりしてても、声量やテンションをあげればなんとかなるのだ。
他にも「スナックのバイトなのに会話がうまくできずAKBを一時間踊り続けて乗り切った」や「海外旅行で英語ができなかったので『昇竜拳!波動拳!』と連呼して仲良くなった」など、勢いでどうにかなる場面は数多くあるようだ。
・相手を持ち上げ、距離を取る
ここからはすこし難しくなる。まずは相手を持ち上げて、自分との差をだす方法だ。たとえば
「伝統芸能」
飲み会で、やや古く、見慣れた宴会芸を見せられ怪しい空気になったので「すごーい伝統芸能ー!!!!」って感動した顔で拍手したらうけました。(実際感動はした)
「我々のようなキッズには」
若者向けのサービスをしているのですが、明らかに年配向けの商品タイアップで釣り合わない話がきたので「御社の製品はクオリティが高くて、我々のようなキッズにはまだ早いと思うんです…」とやんわり断った。
どちらも、相手を持ち上げてご機嫌をとりつつ、自分との差を明確にし、壁をつくって逃げている。「怖い人を姐さんと呼び味方につける」などめちゃくちゃ姑息な手段もあった。
ただ、へりくだりすぎるとバカにしているようにも見えるので、本当にそう思ってるか、というのもポイントそうだ。
・「誰か」「何か」のせいにする
これは断り辛い時など、特定の人ではない「それっぽい概念」に代弁してもらう方法である。
「法律に詳しい友達」
香港でパチもん土産を買ってしまい、返品を断られたので「法律に詳しい友達に返してこいと言われた。下で待ってる」と伝えたらすぐ返金してくれた。
私「これみて思い出したんですが、昔『本社がよく思わなくって…』で全てを断っていたことがあります」橋田「わかります!上司がダメだと言ってるとか…」林「逆にいま編集長になってしまいそれが使いにくくてやりにくい」と全員経験があった。
なるべく「本社が」「上層部が」とぼやかした対象にしたほうがいいこともわかってきた。特定の人だとその人に否定されるとバレてしまう。
・シンプルに嘘をつく
これはタイトルのまんまである。だんだん人生これでいいのか、という罪悪感もでてきた。
「パリから」
23時以降業務NGっていうルールが全社であるが、ある日どうしても深夜メールを送らなければならず「現在パリからお届けしてます」と日本からメールをしたことがある。
これでしっかり乗り切れたそうだ。しかし「これ結果やばいやつにみられたのでは?」「パリは疑う」とも話した。嘘の塩梅も注意が必要だ。
「締め切りに関しては、その締め切り日本時間ですか?とか今日中というのは明日の朝まで大丈夫か、とか確認するのもよくありますよね」と編集長がいう。
いよいよ難しいゾーンまできた。ここからは演技力や頭の回転が必要とされてくる。
・悲壮感を出し気まずくさせる
まずは相手の同情をかい、あえて変な空気にする方法だ。
「いろいろです…」
「彼氏いるの?」と聞かれても普通に数年いないので「振ったり振られたり、いろいろです…」って言って伏し目になると相手も「いろいろ人に言えない恋愛してんだな」って思い深く聞いてきません。
橋田「これすごいですよね、否定も肯定もせずに」林「答えずに逃げ切ってますね」私「これ演技力いりますよね…」と全員脱帽である。
他にも
「いま100円しか」
夜の街でキャッチに「今から居酒屋どうですか?」て声かけられて「いま100円しかもってないんすよ…」と言ったら「それは帰ったほうがいいですよ!」って言われて笑顔で見送られた。
これも鮮やかである。たしかに、悲しんでる人をさらに追い立てる人はすくない。ただなりきる演技力と頭の回転が必要だ。
・相手の力を受け流し、跳ね返す
こちらは困らせてきた相手の力を使って、跳ね返す方法である。たとえば
「力を貸してもらえませんか」
役員会で意地悪な質問をされたとき「それは私も問題だと思っていて、解決するために力を貸してもらえませんか」と言って切り抜けたことがあります。
「これは本当に切り抜けられるやつですね」「相手の力を借りる、ほぼ合気道だ」とうますぎてめちゃくちゃ驚いてしまった。
「対立すると意固地になる人が多いので、それはわかっていると肯定し、仲間にすると相手も悪く言えなくなる」とのこと。これはマジだ。みなさん、意地悪された時に使ってください。
他にも「彼氏いる?と雑に聞いてくるうるさい人がいたので『彼氏いないって言ったら口説いてくれます??』と真面目に目を見ていったら照れて逃げた」というものもあった。
これも逆に困らせる合気道だ。この質問はうんざり経験者も多く、もう対応マニュアルも作れそうである。
・短所を長所ととらえる
ラストはとても表現力と発想の転換がいるこのパターン。例えば
「静かだしいいなー」
友人の家にはじめて行ったとき、隣が完全に墓地で少し動揺したんですけど「まわり静かだし多少音出しても大丈夫そうだしいいなー」ってやり過ごしました。
「タイトめに着たいので」
男6人で旅館に泊まったときに、仲居さんが部屋の浴衣の説明をしてくれたが、サイズが小と中しかなくすごく謝られた時「タイトめに着たいので大丈夫です」と先輩がいい、仲居さんから爆笑をとって和ませていた
「どちらもめちゃくちゃ優しい」「浴衣にタイトもくそもないのに」上手すぎて感心してしまう。
相手のミスや短所を目の前にした時は、どうにかよく言えないか…と考えるといいらしい。また優しさ意外では
「なかったわけではなく」
キャンペーンの効果がなかったとき『何も得るものがなかったわけではなく、このやり方が効果がないことがわかりました』とまじめに、相手の目を見て言って乗り切れました
という荒技もあった。これは難しい。私なら笑ってしまいそうだ。ただやっぱり悪いことをよくとらえるのは、前向きで印象もよい気がする。
意外と「型」があった
ざっと集めただけだが、分類してみると8つの「型」が見つかった。もっと調べたらさらに多くのパターンが見つかりそうだ。
「言い回しで乗り切る」コツまとめ
①ただかっこよく言ってぽくする
②テンションや大声で乗り切る
③相手を持ち上げて距離をとる
④シンプルに嘘をつく
⑤「誰か」「何か」のせいにする
⑥悲壮感を出して気まずくさせる
⑦相手の力を受け流し、跳ね返す(合気道型)
⑧短所を長所ととらえる
基本がわかれば今後も使えるような気がしてきた。いける!なるべくショートカットして暮らしたいなという思いを強くしました。
番外編:分けられなかったがうまかったもの
おまけで「まねは難しそうだがうまい乗り切り」を紹介します。
「say!」
カラオケでだいたい知ってるけど熟知してない曲歌ってて、うわ、ここ分からんわ〜って時は「say!」と言い、みんなにマイク向けて歌ってもらって切り抜けている
「I didn't see anything」
トルコに行きホテルのエレベーターに乗ろうとしたら、ドアが開いた瞬間男女がキスしていてちょっと気まずくなったが「I didn't see anything」とわざとらしく言ったらウケて和んだ
これらは「うまいですね」「英語ってすごい」「英語っておしゃれだ」と盛り上がった。マネはできないがどちらも心臓が強すぎる。
やわらかく乗り切るといろいろ楽しい
たくさん見ながら、そういえば「バカのフリしてやってみよう」とかもよい言い回しだと話した。確かに何か全員で煮詰まった時、そういうことを言われると「バカならまあいっか!!」となるからすごい。
逆にこういう言い回しひとつで、みんなの状況が変わるのは効果がありすぎてちょっと怖いな、脳しっかりしてくれ!とも思いました。
あと自分が本当に悪い場合は、言い回しでは厳しそうなこともわかりました。