夏休みの自由研究におすすめ……しません。
以上、東京と大阪の地下鉄路線図を色付き麺で再現してみた。
理科的な自由研究と、社会科的な自由研究の両方を成立させることができるので面白いとは思う。
しかし、ゆでた麺を食べるのがことのほか大変なので、食べきる自信がない場合はおすすめしません……。少しずつ茹でればよかったのか。
紫キャベツの煮汁で焼きそばの麺を煮ると、麺の色が青緑色になる。更に、その青緑色の麺にレモン汁をふりかけると今度はピンク色になるらしい。
この青緑色やピンク色のカラフルな麺の他に、灰色のそばや、色付きのそうめんも総動員すれば「食べられる地下鉄路線図」が作れそうだ。
※2012年8月に掲載された記事の写真画像を大きくして再掲載しました。
紫キャベツの煮汁に焼きそばの麺を入れたりレモン汁をふりかけると色が変わったりするのはリトマス試験紙のあれだ。pHというやつだ。
化学の先生に「昔はペーハーと読んでましたが、今はピーエイチと読んでください」と教えられたことを思い出す。
理科ってやつは、炭酸ガスが二酸化炭素になったり、ミリバールがヘクトパスカルになったりと、いろいろせわしない。
紫キャベツの実験は、pH指示薬となる紫キャベツの煮汁に、アルカリ性のかんすいを含んだ中華麺を入れると麺が緑(青)になり、そこに酸性のレモン汁をかけると麺がピンク(赤)になるというものだ。
この実験は小学生向けの自由研究ガイド本には必ず載っている、自由研究の定番中の定番ともいえる実験だ。
この他、そうめんには赤や黄色の麺が入ってることも多いし、そばは灰色、しかも茶そばは緑色だ。
これだけいろんな色があるならば、それら色付きの麺を集めて食べられる地下鉄路線図が作れるのではないだろうか?
というわけで、さっそく近所のスーパーで材料となる紫キャベツや麺類を買い込んできた。
紫キャベツをざく切りにして、沸騰した水の中に投入。
しばらく煮ると、汁がだんだんと黒っぽくなってきた。
当サイトでは「青くする実験」や「単色弁当」など、食べ物の色について、なみなみならぬ情熱でこだわってきた過去がある。しかし、紫キャベツは意外と注目していなかったのではないか?
普通、紫キャベツなんてキャベツの千切りに色を添えるぐらいで、食い物のメインストリームに踊り出ることなどまずない。せいぜいサラダの中に申し訳程度にあるのものでしかなかった。
ところがどうだ、これだけ大量の紫キャベツを一気に煮ると、魔女が秘薬の鍋の中に投入する薬草といった様相を呈してくる。つまり、有り体に言えばマズそうだということだ。
しかし不思議なもので、目をとじて匂いをかぐとキャベツをゆでた時の匂いがする。こんなにマズそうなのに匂いはキャベツと変わらない。あら素敵、美味しそうな野菜スープの匂いだわ、でも目を開けるとザ・グレート・カブキ。毒霧攻撃である。
ここで煮汁を少しだけ小皿にとりわけてpH指示薬がどれほどのものか、レモン汁を垂らしてみてみた。
レモン汁に触れた部分がたちどころにピンク色になった。
紫キャベツの煮汁「アントシアニン」の噂に違わぬ指示薬っぷりは予想以上で、子供にやらせてみると、ただ色がわかるだけなのにこの喜びよう。
アントシアニンは紫キャベツだけではなく、ナスや赤シソなどにも含まれている物質なので、間違って口にしたとしても害はないので安心だ。
今度は、ピンク色になった指示薬に重曹をふりかけてみると……。
目的を忘れて完全に遊んでいる。
えーと、なんだっけ……そうだ、地下鉄路線図だ。できた指示薬で焼きそばの麺に色を付けて地下鉄路線図を作るんだった。
地下鉄路線図を再現するためには、せめて寒色系と暖色系の色を幾つか準備しておきたいところ。とくに紫キャベツの煮汁につけただけで青っぽく染まる麺は貴重とも言える。
しかし、ここで若干の葛藤が心に芽生える。
いくら食べられるとわかっていても、マズそうな色の煮汁に無垢な中華麺を投入するのは心が痛む。
でも、後で食べるわけだから、食べて供養してやるからと言い聞かせ、成仏してくれ……という心境で麺を投入。
薄い緑色に変化。地下鉄路線で言えば南北線に使えそうな色になった。
せっかくなので味見をしてみる。
色は派手だけど味はない。つい、色がついてると味もあるように錯覚してしまいがちだけれど、そもそも色と味ってそんなに関係ない。
続いてはピンク色の中華麺を作りたい。
ここにレモン汁を惜しげもなく投入。
できた麺は、ピンクというよりも、紫がかった赤といったほうがいいかもしれない。更にレモン汁を追加し、もっと色の濃いピンク色の麺も作る。
これで半蔵門線や都営浅草線に使えそうな色の麺を作ることができた。この調子で麺のカラーバリエをどんどん増やしていきたい。
ところで、化学反応で麺の色を変えられるのは紫キャベツだけではない。実はカレー粉でも色が変わる。
カレー粉のスパイスのひとつ、ウコンの中に含まれるクルクミンはアルカリ性に反応して赤くなるのだ。
しかし、いくらカレー粉を足してもあまり赤くならない。仕方がない、ここはドーピングするしかない。
別に競技するわけでも、オリンピック精神に則っているわけではないから構わないだろう。食用の重曹をちょっとふりかけてみる。するとどうだ。あっという間に麺が赤茶色に変わった。丸ノ内線に使えそうな色になった。
そして最後はそばとそうめんだ。これはもう一気にゆでてしまいたい。ゆで時間が違うものを時間差でまとめてゆでるのだ。
そばとそうめんを一緒にゆでるというのは、別に悪いことではないはずだけれど、妙な後ろめたさはある。
この後ろめたさは一体何なのか?
麺を選り分ける地味な作業。もし江戸時代ならば「そうめんよりわけ節」みたいな民謡のひとつやふたつ生まれてたはずだ。
ついに10種類の色の麺がそろった。これらの麺を使って、地下鉄路線図を再現してみたいと思う。
地下鉄路線の色は、本来ならばしっかりとした色が決まっている。銀座線も黄色ではなく橙色だし、日比谷線は灰色ではなく、銀色だ。
しかし、麺に銀色なんてないので、ありあわせのモノの中から一番近い色を使って作って行きたい。
難しい。
最初の丸ノ内線と銀座線を置いた時点で手が止まってしまった。どこにどういう形で麺を置けばいいのか感覚が掴みづらいのだ。
こんなもん路線図通りにチャチャッと麺を置いて行ったらおしまいだろう。なんてたかをくくっていたぼくが悪かった。
うーむ、どうするか?
色付き麺はすぐ乾くので、下書きなしで描くにはちょっと難しい、あとで位置を修正しようとしても、麺同士がからみ合ってかなりめんどうくさいことになる。
麺を下書きの上に載せるだけなら楽なのに、と考えあぐねた結果「クリアファイルに路線図を挟んでその上に麺を乗せればいい」という結論に到達。
クリアファイルの使い方に「麺で路線図を描くときに使う」という新たな1ページが刻まれた瞬間だ。
路線図の上にひたすら麺を置いていく。
中華麺は縮れているので、なかなかいうことを聞かない。しかし、縮れの部分をうまくカーブに沿わせることができたりするとなんだかちょっと嬉しい。
そうめんの麺は乾いてくるとベタベタしてくる。指先にくっついてなかなかうまく置くことができない。
サラダ油を指に塗って扱えばいくらかは指にくっつかなくなったものの、それでもなかなか難しい。
そうめんは乾きが早いので、水につけたままでも良かったかもしれない。そうめんの麺が水に浸かったまま供されるのはそんな理由があったのだ。
悪戦苦闘しながらも、単純作業がだんだん楽しくなってきた。トレースという行為は、技術的には下手でも、完成品を見るとそれなりの完成度があるところがいい。
黙々と作業すること約30分。ついに色付き麺による「食べられる地下鉄路線図」が完成した。
白い紙に差し替えると……
実際の地下鉄の重なり具合を再現するために、比較的新しい地下鉄路線から置いていき、銀座線を一番最後に置いた。
しかし、よく調べずに置いたので細かい場所で間違ってしまった。
また、山手線を描かなかったので、全体的にしまりが悪い感じはする。路線図のデザインにおける山手線の存在は無視できないほど大きいということに気付かされる。
しかし、銀座周辺などの混雑ぶりはなかなかしっかりと表現できてるのではないだろうか?
ついでに、ぼくのマイフェバリット地下鉄。大阪市営地下鉄も作ってみた。
大阪市営地下鉄は路線数が少ない上、まっすぐな路線が多いので割と簡単にできた。
とはいうものの、本町周辺がグネグネと曲がりすぎてしまっている。
しかし、この本町周辺の、おぼつかない様子でくねくねしているところなんかは、逆に可愛らしささえ出ているのではないだろうか?
しかも、おどろくべきことにこれ、ぜんぶ食べられるのだ。
これは下手をすると、女子高生などに人気が出てしまうかもしれない。
ビッグビジネスの匂いがする。
特に大阪市営地下鉄の路線図で好きなのはこの部分。紫色の谷町線が南森町で一旦堺筋線と交差して、東梅田を経由してまた天神橋筋六丁目駅で堺筋線と交差するところだ。
この遠回りしてまた同じ路線に交差してる感じはたまらない。
大阪市営地下鉄、いいわー。
以上、東京と大阪の地下鉄路線図を色付き麺で再現してみた。
理科的な自由研究と、社会科的な自由研究の両方を成立させることができるので面白いとは思う。
しかし、ゆでた麺を食べるのがことのほか大変なので、食べきる自信がない場合はおすすめしません……。少しずつ茹でればよかったのか。
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