デジタルリマスター 2024年5月13日

50年前のガイドブックに載っている店巡り(デジタルリマスター)

美味しい料理を出しているお店を紹介しているガイドブック。
さまざまな出版社から出版され、本屋に行けばずらりと並んでいる。

そんな本は50年前もキチンと存在している。
「どこどこのお店が美味しい」や「なになにがオススメ」など内容も今と変わらない。違うのは掲載されているお店だ。現在のガイドブックには今の、50年前のガイドブックにはその当時の流行のお店だったり、オススメのお店だったりが載っている。

50年前のガイドブックに載っているお店は今はどうなっているのだろうか。当時のガイドブック片手に出かけてみることにした。

2011年2月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。

1985年福岡生まれ。思い立ったが吉日で行動しています。地味なファッションと言われることが多いので、派手なメガネを買おうと思っています。(動画インタビュー)

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> 個人サイト Web独り者 彼女がいる風の地主恵亮

正確には48年前のガイドブック

古書店で「東京うまい店二00店」というガイドブックを見つけた。内容は書名からも分かる通り、東京で美味しい料理を出しているお店が掲載されている。「そば」や「日本料理」、「天ぷら」などカテゴリー別に載っているあたりも、今のガイドブックとあまり変わらない。

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名前の通りの内容の本
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昭和38年に出版された

出版されたのは昭和38年。今は2011年だから48年前ということになる。約50年前だ。かなり古い。ケネディ大統領が暗殺された年であり、アニメ「鉄腕アトム」の放送が始まった年でもある。僕(25歳)が生まれるずっと前の話だ。

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当時350円(僕は古書店で1400円で買った)

今回はこの本に載っているお店に何件か行ってみようと思う。果たして今も残っているのだろうか。本にはそのお店が出している料理の値段も載っているのだけれど、お店が残っているとすれば、その値段はどのくらい変わっているのだろうか。興味がどんどんと湧いてくる。早速行ってみようと思う。

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まずは渋谷にやって来ました!
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お茶漬け「瓢箪亭」(渋谷)

この本には「寿司」や「とうふ料理」などと並んで「お茶漬け」というカテゴリーがある。現在は「お茶漬け」がメインというお店はないのではないだろうか。

しかし、当時はあったのだ。
しかも場所は若者の街「渋谷」。本には「この店ほどめざましく発展した店はない」とまで書いてある。当時はかなり繁盛していたことがうかがえる。

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お茶漬けがメインのお店
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当時のメニュー
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地図が手書き(三平の横に「瓢箪亭」はあるらしい)

本に載っている地図を見ると、渋谷の顔とも言える「109」がまだない。その場所には、「森永キャンデーストア」なるものがあったようだ。

地図が手書きな上に目印となる建物が少ないのもこの本の特徴だ。「プリンス」とは何なのだ。「三平」とは何なのだ。この地図を頼りに現在の渋谷で「瓢箪亭」を探す。

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こんな場所に今も「お茶漬け屋」はあるのだろうか?
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当然のように迷う
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お茶漬け屋の現在

僕がもともと地図を読めないのもあるがやっぱり迷った。
地図が簡単すぎる気がする。しかし、ウロウロしていたら地図にあった「三平」を発見した。今もなお「三平」は残っているのだ。ちなみに「三平」は居酒屋だった。

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歴史ある居酒屋ということになる

「三平」はこの本では紹介されていない。
地図に名前が残っているだけだ。それなのに今も残っている。ということは「瓢箪亭」もあるのではと期待が高まった。「三平」の隣にお茶漬け屋の「瓢箪亭」はあるはずなのだ。

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ない!(出会いカフェになっていた)

本によれば「瓢箪亭」の入り口は一間あるかないかの狭さだったそうだ。驚くことに、その狭さは今なお健在だった。

問題は、お茶漬け屋ではなく「出会いカフェ」になっていたことだ。やっぱり50年も経てば存在しなくなっているのだ。今では男女が出会う「出会いカフェ」である。

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当時の店構え(お茶漬け屋)
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現在の店構え(出会いカフェ)

「瓢箪亭」は無くなっていたけれど、三平は残っていたし、「瓢箪亭」の前にある「プリンス」も残っていた。「プリンス」はビルの名前らしい。あの地図を見る限り「瓢箪亭」の周辺は実は変わっていないのだ。変わったのは「瓢箪亭」がないこと。変わらなくていい部分が変わっていた。

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プリンスも健在!
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そば「藪蕎麦」(神田)

次はこの本で一番最初に紹介されているお店に行くことにした。それは蕎麦屋で神田にある「藪蕎麦」という店だ。本には立派な門構えの店だと書いてあり、値段を見ると「せいろ」「かけ」は80円となっている。今もあるのだろうか。

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確かに立派な店構えだ
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安いな~
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相変わらず手書きの地図

地図を見ると最寄駅は「須田町」ということになる。
しかし現在は「須田町」という駅はない。これは当時走っていた都電の駅名だ。そして「交通博物館」も「シネマパレス」も今はない。結構変わっているようだ。

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神田駅から向かう
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地図にあった中央社も無かった

中央社があった場所には住友不動産の大きなビルが建っていた。しかし郵便局は今も残っているので、今回は迷わずここまで歩くことができた。さて「藪蕎麦」は残っているのだろうか。

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残ってた!(食後に撮った写真)
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大人気「藪蕎麦」

先の写真は食後に撮ったのだけれど、僕が行った時はものすごい行列ができていた。今なお人気のお店のようだ。しかも若いカップルが多い。蕎麦ブームなのだろうか。さぞ美味しいのだろうと期待も高まる。

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すごい列

やがて門の中に入れた。
周りには高いビルが立ち並んでいるけれど、ここは昔のままの姿で残っている。ここに50年通っているという人に話を聞くと、建物は昔から変わらず、蕎麦も昔から変わらないとのことだった。それを聞いてなんだか嬉しかった。

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昔の「藪蕎麦」
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今の「藪蕎麦」(ほとんど変わっていない)
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店内もいい感じ(満席だった)
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美味しい!

店内も昔のままの感じで趣があって素晴らしい。
早速頼もうとメニューを見る。どれくらい値段は変わっているのかとドキドキする。昔は「せいろ」と「かけ」はそれぞれ80円だった。今もその値段というわけはないだろと思い見てみると共に「700円」だった。約9倍だ。

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許容範囲内の値段だと思う
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昔と変わらぬせいろ

本にオススメは「せいろ」と書いてあったので、せいろを頼んだ。蕎麦はうっすら緑色で他ではあまり見ない蕎麦だった。このガイドブックを見ていた50年前の人もこれを食べたのだと思うと、なんだかロマンを感じる。タイムスリップしたような気分だ。

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ロマンを感じながら食べる
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美味しい!

味は申し分ない。歯切れがよく、これぞ蕎麦という文句の付けようのない素晴らしい味だった。周りを見ると日本酒を頼む人も多いようだ。

先のここに50年通っているという人も、昔からここに来ると日本酒と「天だね」だね、と言っていた。微妙にダジャレだと思ったけれどツッコまなかった。せっかくなので「天だね」も頼んでみたのだけれど、やっぱりものすごく美味しかった。

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天だね
かんだやぶそば
東京都千代田区神田淡路町2-10
TEL:03-3251-0287
営業時間:11:30~20:00

 

釜めし「釜八」(新橋)

次はなんとなく開いたページに載っていた店に行ってみよう思い、パラリと開いてみると、そこには「釜めし」というカテゴリーの「釜八」という店が載っていた。地図を見ると都電が走り、今は無き三和銀行が載っている。お店はその三和銀行の裏らしい。

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釜八
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都電が走っている
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昔の三和銀行の場所はいま「カタログハウス」

今は都電はもちろん走っていないし、三和銀行は「カタログハウス」になっていた。目的のお店は「カタログハウス」の裏で、地図を見る限り角から2番目にあるはずだ。今もあるのかとドキドキしながら角を曲がった。

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車庫!

車庫だった。両隣にお店があるが「釜八」があった場所は車庫だ。お店ですらない。一応両隣のお店を確認したが「釜八」ではなかった。土釜で作った釜飯が好評だったらしいが、今はその跡形すらない。時の流れを感じた。

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やっぱり車庫だ

とんかつ「珍豚美人 梅林」(銀座)

次も適当にページを開くと、そこには「とんかつ」というカテゴリーの「珍豚美人 梅林」というお店が載っていた。なんでも銀座で最初のとんかつ専門店らしい。地図を見ると大変当時は流行っていたらしく、銀座に3店舗もお店を構えている。

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珍豚美人 梅林
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本店に行きます

地図はおそらく間違っていて、地図の上部にある「7丁目梅林」はおそらく6丁目の間違いである。その場所は6丁目だし、地図の通りなら「7丁目梅林」が2つもあることになる。今回向かうのは地図の下部にある「7丁目梅林」だ。こちらが本店のようだ。

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有楽町駅から向かう
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銀座に馴染まない僕

地図にある松坂屋はもちろん今もある。
上の写真の「Tiffany & Co」はその松坂屋の1階にある。ということは、角を曲がればもうそこには「珍豚美人 梅林」があるはずなのだ。少なからず50年前はあった。果たして今もあるのか。

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あった!
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昔はこんな感じ

お店は今もあった。
昔と比べれば些か店構えは大人しくなっているように思えるが、今なお存在している。50年前の人もこの店に入ったのだ。そして、僕も今からこの店に入る。やっぱりロマンを感じる。

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落ち着いた店内

やっぱり美味しい!

店内は落ち着いた感じで居心地が良かった。
問題は銀座のトンカツ屋ということで値段だ。高いのではないかと思うのだ。本によればカツ丼は150円らしい。先の蕎麦屋が当時と比べれば9倍だったので、それと同じだとすれば1350円だ。でも、ここは銀座、高いのだろうとヒヤヒヤする。

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本に書いてある昔の値段(カツ丼が好きなので今回はカツ丼を食べます)
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今の値段

安い。銀座で歴史あるトンカツ屋なのに「980円」。これは嬉しい誤算だ。昔と同じ値段とはもちろんいかないけれど、ぜんぜん許容範囲の値段である。もちろんカツ丼を頼んだ。

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50年前の人も食べたカツ丼
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美味しい!

一口目からわかる美味しさだ。
肉は柔らかくダシのきいた卵がカツに馴染み、ご飯に馴染みで、今まで食べたカツ丼の中で文句なしに一番美味しい。今もお店が残っていることが頷ける。この味ならお店が潰れることは無いだろうと思う。幸せな時間だった。

ちなみに後で調べたら、「梅林」は現在銀座に2店舗あり、ハワイやシンガポールなどにも支店があるそうだ。グローバルだ。

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カツライスも980円だった
とんかつ専門店 銀座梅林
東京都中央区銀座7-8-1
TEL:03-3571-0350
営業時間:11:30~20:45

残っているお店は美味しい

今も残っているお店に行って思うことは、美味しいということだ。
時代がどんなに進もうとも、美味しいからお店は残っているのだと思った。この本に載っていて、今も残っているお店はたぶん全て美味しいと思う。

調べてみると、今も残っているお店が「高級店」になっていることも少なくないようだ。 当時は30円でどじょう汁を出していたお店が、今では5000円も払わなければ食べられないお店になっていたりするのだ。それは高い。今回行ったお店ぐらいの値段のお店にはまた行ってみたいと思う。

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お店にあった電話がレトロなのもプラス
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