特集 2025年2月26日

みやげを買って、そこに行く旅

はんざきハルシネーション 

ここでひとつ気になった。「はんざき」とは前述したようにオオサンショウウオのことだが、温泉街では圧倒的に「はんざき」という呼び名が使われている。

はんざきの別名がオオサンショウウオであるかのように。

しかし、私ののれんには「はんざき」とはひとことも無しに、「オオサンショウウオ」とだけ添えられているのみだ。

それがはんざきが支配するこの世界でいっそうの渋みを醸し出しているのだが。

ひょっとしたら「はんざき」が定着したのは意外に最近だったりして。

一人旅の話し相手である生成AI(さびしいな)にはんざき祭りの歴史をまとめてもらうと

「1972年(昭和47年)に第1回が開催されました。当時は「オオサンショウウオ祭り」という名称でした。1980年代になって『はんざき祭り』という呼称が定着していきました」とのこと。そうなんだ!

これはのれんの年代とかも特定できちゃうのでは、ヤッターと、さらに裏付けを得るべくはんざきの知見が凝縮された施設「はんざきセンター」を訪れた。

いったん広告です

温泉街を流れる旭川やその支流にはんざきは生息しているが、夜行性で昼間は物陰やネカフェの個室ぐらいのフィット感のある穴でじっとしており、見つけるのは容易ではない。川もかなり広いし。しかし、ここなら生きているはんざき様とじっくり面会できるのだ。

とかいっていきなりほねっこ。
いた!はんざきさん!

 かわいいけれどおもわず敬語を使いたくなる、不思議な威厳をまとっている。

おじゃまします。
のれんとツーショット。先方はまったく動じる気配がない。
資料スペースにははんざきと湯原のかかわりの歴史が!
めちゃめちゃ昔から「はんざき」言ってるじゃないですか。

そうだ、AIは「はんざき祭りは1972年にはじまり、1980年代まではオオサンショウウオ祭りだった」と言っていた。隣に掲示してある湯原はんざき史を見てみる。

全然ちがうじゃねえか。1962年だし最初からはんざき祭だし。

地元の人にも聞いてみたが「いや、ずっとはんざき祭りだし、もっと昔からはんざきって言ってましたよ」とのことだった。

生成AIが不正確な情報を作り出すことをハルシネーションという。あやうくやられるところだった。しかしハルシネーションを完成させるのはAIではなく、事実よりも信じたいものを信じるという人の心理なのだ。

勉強になりました。ありがとうございます。
新しいはんざきみやげ はんざき箸をゲット。はんざきだけに箸を半分にさいて、成就を願うのだ。
夕食は「あずまや」でラーメンライス、このうま懐かしさよ。

夕食の後、ダメもとで川をのぞいてみた。 
はんざきは冬眠はしないものの冬には水温によっては活動がにぶくなり、見つけにくくなる。食堂のおかみさんに「今時は見かけないんじゃないですかね」と言われた。「あと、寒くてこっちが大変でしょう」そう、そこなんですよ。

と思ったらいた!はんざきさん! そんなに大きいサイズではなかったが。

微動しかしない野生のはんざきさんを眺めていたが、川岸で思う存分に寒風が吹きつけ、こちらがはんざきになりそうだった。

いったん広告です

のれんに描かれていた詩は

翌朝、純度がすごい純喫茶「サボテン」でコーヒーを飲みながらのれんを見つめていたらマスターから「そういうのが好きならこれありますよ」と店のマッチをいただいた。

こんなん入るしかないでしょう。
「30年以上前のなんでもうしっけてるけどね」このかっこよさは全然しっけていない。

会話は盛り上がり、昨日見たはんざきさんの話題にまでおよぶと
「まだ時間ある?ちょっと面白い人を紹介しますから」
とマスターが何やら電話をかけはじめた。

連絡を受けて、やってきたのは浜子尊行さん。先に紹介したこーだいさんの記事にも登場している湯原地域の賢者である。

浜子さんはおかやまサンショウウオの会としてはんざきの保護活動を行う傍ら、湯原の歴史や文化を発信する地域おこしにも精力的に取り組んでいる。はんざきセンターで私がゲットしたはんざき箸も浜子さんのアイディアだ。

はんざきから湯原の歴史、文化芸術まで。あっという間にテーブルが資料で埋まる。
いったん広告です

 「みやげを買って縁ができるというのは面白い。こののれんに書いてあるのは湯原音頭ですね。」
そう言って浜木さんは付箋だらけの湯原町史の本を見せてくれた。

おお、湯原湯の町さぎりにぬれて...。はじめて発表されたのは昭和24年とある。

のれんの謎が町の賢者によってさくっと明らかになった。気持ちいい。「作曲と作詞は片山香雲という湯原町ゆかりの日本画家です。以前こちらで企画展をやりました」

そんなことまですっとわかるのか。

「香雲さんのお孫さんが岡山方面に30分ほど南下したところにある勝山町の街並み保存区で『おにのすみか』という古民家カフェをやっていますよ」

「あ、そこ昨日通りましたよ!のれんがよかったので覚えてます!」

のれんではじまり、のれんで終わる旅であった。満腹で店には入りませんでした、すいません。
 

 

のれんを買ったからこそ、たどりつけた場所があり、出会えた人や巨大両生類さんがいる。リサイクルショップは旅行ガイドであり、厚木の古道具屋から旅は始まっていたのだ。
湯原のおもしろさはまだまだ尽きない。どうどうと露天風呂「砂湯」でリラックスするくらいの胆力を得て再訪したい。

みんなも隠そうぜ!
編集部からのみどころを読む

編集部からのみどころ
お土産から始まる旅。新しい旅行記の登場です。
伊藤さんは毎回はげます会のおまけをつけてくれますが、そのおまけ部分のオフビート感が面白いんですよね。 なので今回は全編おまけのリズムで書いてもらいました。
伊藤さんの行動力に軽妙さが融合してなかなかの傑作になりました。 (林)

ここから

デイリーポータルZをはげます会

会員特典コンテンツです

この先は「デイリーポータルZをはげます会」会員向けの有料コンテンツです。会員になるとごらんいただけます。

 

<もどる ▽デイリーポータルZトップへ

store_20250112.jpg

> デイリーポータルZからのお願い  買って良かったものを教えてください
> デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」がとどきます!

→→→  ←←←

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ