NHKにでた
ビカビカに光るウィルスがばらまかれたり、クワガタに文明が託されたり、もう全編ブラックジョークみたいなイベントになってしまったが、前述のとおりこの日はNHKが取材に来ていたのだ。
その記事と動画がこちら。
完全に地域のほのぼのイベントとして紹介されていて、公共放送の圧倒的な毒抜き力を思い知った次第である。
昨年から今年にかけて、新型コロナウィルスの影響で多くのイベントが中止になった。
デイリーポータルZが主催しているイベント「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」も同じ状況で、昨年の本大会はオンラインになり、いくつか中止になった大会もあった。
毎年、長野県の佐久市こども未来館で開催している「ヘボコン in 佐久」も今年は中止かなー、と思っていた矢先だ。館長のなおやマンさんより連絡があった。
「コロナ禍だからこそできるイベントをやりましょう。ソーシャルディスタンスヘボコンとかどうですか!」
そうきたか。その気概、買わざるを得ない。
そもそもヘボコンとは何ぞや?という方はこちらをご覧ください。ロボットを作る技術も才能もない人たちが、持ち寄った自称:ロボットで無理やりロボット相撲をするイベントです。
とはいえロボット相撲だ。ぶつかり合ってなんぼの競技である。
ロボット間の距離を保ちつつ、押し相撲を行うなんてことは可能なのだろうか。
これについては検討に検討を重ねた(約15分ほど)末……
最も原始的なソリューションで解決することにした。ロボット間を棒でつなぎ、棒ごしに押し合うのである。綱引きの逆バージョンだ。
これでソーシャルディスタンスを保ち、大切なロボットのウィルス感染を予防することができる。(情報セキュリティの話に聞こえるかもしれませんが感染症対策の話をしています)
ロボットバトルにソーシャルディスタンスの要素を取り入れた、おそらく世界初の大会だったに違いない。
さらに感染予防策としてこんなルールを用意した。
完璧な対策である。かくして「ソーシャルディスタンスヘボコン in 佐久」は開催されたのだ。
ちなみに開催日は昨年12月、緊急事態宣言発令前の話である。あと1か月遅かったらこれも中止になっていたかもしれない。危ない危ない…。
そういうわけで今回は変則ルールで開催された。そのルールはもちろん出場者募集の時点で通知されており、当日急にアナウンスしたわけではない。
しかし、やってきたロボットといえば、こうである。
全体にルールを読んでないのである。イベント名の時点で「ソーシャルディスタンス」を冠しているのに!なんだと思ったんだ!
このように、ヘボコンの出場者は、人間力とか集中力とか、いろんなものが低い。ヘボコンの正式名称は「技術力の低い人限定ロボコン」だが、実際には低いのは技術力だけではない。人間の持ちうるさまざまなな頼りなさを集めた見本市みたいなイベントなのだ。
冗談でアナウンスしていたルール「ロボットの検温をする」だったが、ふたを開けてみると意外な展開を見せた。
まず、体温計ではロボットの温度を測れないのだ。
この手の体温計はおおむね計測可能範囲が32度以上らしく、ロボットは平熱=室温なので測れないのだった。
仕方がないので測定不能を表す「Low」表示が出たら平熱とみなすことにした。今後ロボットの入場を受け付けようと思っている施設職員の方は、留意しておいてほしい教訓である。
また、中にはこんなロボットも登場。
「体温測定しますよ」とアナウンスすれば、しっかりアツアツにして持ってきてくれる出場者。冗談のコール&レスポンスとしては素晴らしかったが、なにぶん出番が一回戦の第一試合だったため、オーディエンスを大いに戸惑わせることになった。
全ロボット中もっとも目立っていたのは、こちらの機体だ。
とにかくでかい。ヘボコンはXY方向には各50cmのサイズ制限があるが、高さ方向には制限がない。そのためたまにこういった高身長のロボが登場する。ただ、今回はでかいだけではなかった。
ベールをはいで現れた、その正体は……
一応説明しておくと、かつては日本四大証券会社の一つであったが、不正会計事件を経て1997年に自主廃業した、あの山一證券である。
なぜいま、2020年にこのチョイスだったのか。
これが対戦したのが新型コロナにちなんだこのロボ。
カラフルなコロナウィルスが満載なのがお分かりいただけるだろうか。ヘボコンにおいて生物をロボットにしてはいけない規制はあるが、発射武器としての生物兵器は禁止されていない。ルールの盲点だった。
しかも、このコロナウィルスがビカビカ光る。
現在進行形の時事ネタと、25年前の時事ネタ。この戦いは筆者とともに司会をつとめた編集部の古賀により『時空を超えたニュース7』と評された。
さてここで、本大会を語るには欠かせない、一台のロボットを紹介しよう。
日の丸に手を載せ、本人はペスト医師のかっこうで登場というこのロボット。一見不気味すぎる見た目だが、これこそが我々、日本国民に差しのべられた救済だったのである。
第1回戦、救世主は昨年政府により全国民に配布されたマスク、通称「アベノマスク」を携えて登場。
試合ではアベノマスクを敵機にぐいぐい押し付ける形で相手を押し出して、勝利。
そして2回戦で再登場。またアベノマスクが登場するかと思いきや…
そう、特別給付金だ。このロボット、日本政府のコロナ対策を体現しているのである!
ちなみに2回戦の対戦相手は100均の材料でできた庶民派ロボ。そこへ10万円をねじ込むことで、政府から庶民に救済が与えられた。
そして3回戦。
昨年の夏から秋ごろにかけて多くの自治体で発行されたプレミアム商品券である。
これまでヘボコンに登場した多くのロボットは、必殺技を携えてやってきた。しかし今回初めて、経済政策を携えたロボットが登場したのである。
そして圧倒的なキャタピラの馬力で敵を押し倒していくのである。何が起きているんだこれは。
そして舞台はいよいよ決勝戦に。いまだやまぬ感染症の脅威に、日本政府が持ち出した切り札とは…!?
ここへきてついに、一時しのぎの経済対策ではなく、抜本的な感染症の殲滅……ワクチン接種がもたらされたのだ。
決勝戦にしてこのドラマチックな展開に、会場は沸いた。沸いた、が、政府の手がワクチンを授けようとしているその相手は……
先の「ルールを聞いていない」のところでも紹介した、クワガタのロボである。
この後、救世主の勝利とともにクワガタにワクチンが授けられ、無事新型コロナとの戦いは終結を迎えたのである。
コロナ対策の名を冠した大会に集まった我々。そこでたどり着いたのは、新型コロナにクワガタが勝利した世界線であった。人間ではなく……。
こうして、感染症により滅ぼされた人類に変わって、クワガタによる新たな文明が築かれることになったのである……。
というのが本大会のおもな見どころであったが、なんといってもロボットバトル大会なのである。試合の様子も見ていただかなくてはなるまい。
今回特に印象的だった3戦をご紹介しよう
YYH(YYH)vs かもつくん(チームラボ)
このロボ、ソーシャルディスタンス棒のことを知らずに直接攻撃に備えてきたわけだが、実は実践においては、それが意外にも功を奏したのだ。
対戦相手はこれである。
シールドをうまく使って棒をコントロールしたのだ。
もし、ちゃんとルールを読んでいたら、こんなシールドは搭載しておらず、相手を追い込むことすらできなかったかもしれない。
ヘボから生まれた奇跡の戦略であった。(結局負けたけど)
他力本願ブラザーズ(信州ヘボラボ2)
vs
クワガタフォーク(チェーンソー)
ヘボコン名物、作戦が功を奏さなかった試合である。
功を奏さなかったのはこのロボット。
このロボット、試合の時はゼンマイを巻いて発射するのではなく、ただフィールドに置かれる。
え、じゃあどうやって走るの?というと、相手に押されることでバックするのでゼンマイが巻かれるという作戦だ。相手の力を自分の推進力に変えて、一気に巻き返すのだ。
さあ、うまくいくのか!?いくのか!?(いかなそー)
完全に予想通りの展開であった。
本人は、「冬の信州なのにノーマルタイヤできちゃったのが敗因」と語る。たしかにグリップ力のあるタイヤで挑めばちょっとはゼンマイが巻けた可能性はある。勝てた可能性はなさそうですが……。
ミスタースクレイパー(スクレイパーシスターズ)
vs
即席ロボ(即席ロボ)
最後に、ソーシャルディスタンスヘボコンの根源を覆す、「密」の発生した危険な試合についても。
こちらのエアクッションを使った長身のロボと、すくいあげタイプのロボの対決。
全身にアルコールを浴びながら突進し、密着そして濃厚接触を経て敵をなぎ倒す。ロボットバトル的にも感染症的にも、すごいパワープレーを見た気がした。
最後に、各賞に輝いたロボットを紹介してレポートを締めくくりたい。
準優勝 クワガタフォーク(チェーンソー)
優勝 救世主(日本)
審査員賞:DPZ賞
他力本願ブラザーズ(信州ヘボラボ2)
審査員賞:なおやマン賞(館長賞)1
メカ浅間山2号(伊賀屋)
審査員賞:なおやマン賞(館長賞)2
みかんくん(チームみかん)
最ヘボ賞
茅場町タワー旧山一證券本社ビル&ギャバンの車
ビカビカに光るウィルスがばらまかれたり、クワガタに文明が託されたり、もう全編ブラックジョークみたいなイベントになってしまったが、前述のとおりこの日はNHKが取材に来ていたのだ。
その記事と動画がこちら。
完全に地域のほのぼのイベントとして紹介されていて、公共放送の圧倒的な毒抜き力を思い知った次第である。
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