国際雪ハネ選手権とは
2月10日、北海道士別市にて、第9回国際雪ハネ選手権は行われた。「雪ハネ」というのは北海道の方言で雪かきのこと。ここでは1等50万円目指して、一般部門だけで29チームが雪ハネする。全員日本人チーム、しかも僕ら以外はみんな北海道なのに、国際選手権を名乗っているあたり気が利いている。
気軽な気持ちでエントリーしてみたものの、実は僕は腕力には全く自信がない。どのくらい非力かというと、未開封のペットボトルのフタがたまに開けられないくらいだ。そしてあとで紹介する同行の2人も、お世辞にも腕っ節が強そうな感じではない。それでも全員「意外と50万円いけちゃうんじゃない?」みたいな気分で北海道まできた。ビギナーズラックなんて言葉もあることだし。
そんな甘っちょろい気分でヘラヘラやってきた僕たちだったが、いざ会場に着いてみると、テントの下に控えているのは屈強な男達。ここでまずひるむ。みんな厚着だからなおさら体格がよく見えるのだろうか。しかし僕たちも厚着なのは同じ。差は歴然…。
これがデイリーポータルZチームだ
我らがデイリーポータルZチームは、火曜ライターのざんはわこと石川&大北、それにゲームの荻原さん(※)を加えたざんはわ3での参戦となる。しかし、ルールによると1チームのメンバーは4人。ウェブマスター林さんも同行しているが、今回はカメラ役で競技には不参加。あれ、あと一人は?
※日曜のおぎわら遊技場担当。ラジオでうっかり「ざんはわに入りたい」なんて口を滑らせたために連れてこられるはめになった。
実は、今回は強力な助っ人がいる。事前の参加申し込みの時に、実行委員会の方に「3人しか集まらなかったのでどなたかお手伝いして下さい!」とお願いしておいたのだ。そこで助っ人としてきてくれたのが、地元の写真館勤務の平本さん。
助っ人で来てくれるくらいだ、きっと雪国うまれ雪国育ちの雪ハネ達人に違いない。大会開始前なのに早くも腰が引けまくっているライター3人にとって、平本さんは唯一の頼みの綱だった。しかも気のいい若者で、話しているうちにこちらの緊張も和らいでいく。と同時に、なんだかよけいな情報まで聞いてしまった。
「出身は横浜なんですよ」
「雪ハネ選手権には出たことないんですよね」
「士別に引っ越してきたのは去年の夏からなんです」
ええっ!完全に平本さん頼みだったライター3人に衝撃が走る。しかしよくよくきくと北海道には5年くらい住んでいるそうだ。日常的に雪ハネは経験しているはず。しかもボクシングの経験があるのだという。いける、いけるぞ。平本さん、がんばってください!(完全に他力本願なスタンス)
ルール説明でルールより雪の量に驚く
受付をすませて、開会式が終わると、代表者が集められてルールの説明を受ける。
- 制限時間は6分
- 180cm四方の箱にびっしり詰まった雪を、スコップを使ってかき出す。
- スコップを持てるのは同時に2人までで、残りの2人は待機エリアで待っていなければいけない。
- 雪をかき出すと底に2枚の板があり、その板をめくると下に旗が入っている
- 旗をもってゴールラインまで走る。早くゴールしたら勝ち!
要は雪を早くかき出して、下にある旗を持って走ればいいのだ。
と、そんなルールがだんだんわかってくるのは実は他のチームの競技を見てからであって、説明の時点では僕は完全に上の空。ルールを覚えるどころではなかった。目の前にバーンと出てきた雪の箱があまりにでかかったからだ。「箱」と聞いて大きめの段ボールみたいなのを想像していた僕だが、目の前に出てきたのは箱というよりコンテナみたいなサイズ。この巨大な容量に、重機でゴゴゴゴーと雪を詰めていくのだ。
説明中、他の選手から質問があがる。「2枚の板の重なり方は掘ってみるまでわからないんですか?」なに?板の重なり方?僕にはなぜそれが競技に関係あるのかがわからない。重なり方がわかると早くなるの??そういうもんなの!?ハンデは体力だけではないと悟り、焦燥感ばかりが、まさに雪のようにしんしんと胸に積もる。
いよいよ予選開始
そして予選が始まる。予選は1試合5~6チームで、5組行われる。全29チームのうち、タイムが早かった6チームが準決勝に進出だ。
もうなんというか、一言で言い表すなら「迫力」。これに尽きる。みんなひとかきですごい量の雪を、しかも高々と跳ね上げていく。まさに「雪ハネ」だ。
同時に箱に入るのは2人で、他の2人と交代しながら掘り進めていく。最初どんなに元気に掘っていたひとでも、交代する頃にはフラフラだ。平本さんによると「息もしないで一気に掘って、倒れそうになったら交代するらしいです」だそうだ。死者が出るのでは!ととっさに思ったが、この会場の中で一人死ぬとしたらたぶん自分だ。
1組6チームのうち、まだゴールしていないのが残り1、2チームになるあたりで、実況席から励ましの声が聞こえ始める。「予選の結果はタイムで決まりますから、組の中で最下位になってもあきらめないで掘り続けて下さい!」。それを聞いた林さんが、「どう見ても負けてるのに、『最後まであきらめないで』とか言われるのって辛いですよね」と言う。僕らはどう見ても「最後まであきらめないで」って言われるチームなのに、そんなこと言わないでほしい、と思った。
いよいよ出番です
前の組の競技が中盤に差しかかると、無策では勝ち目がないと悟ったデイリーチームは、作戦会議に入った。しかし腕力の差をくつがえせるほどのいいアイデアなどあるはずもなく、チームの目標を考えるだけにとどまった。
出発前、東京では「優勝して50万円!」だった目標だが、この場で話し合ううちに「優勝して50万円!」→「失格しない(6分を越えない)」→「けがをしない」とどんどん下方修正されていき、しまいには「楽しくやる」で下げ止まる。現実路線です。
そして前の組が終わり、いよいよ4人はスタート地点へ。