富士山は良い
「あ、富士山だ」
スッと一筋の光が射し込み、あなたの心はじんわりと温かな空気で満たされる。富士山には、そんな不思議な力がある。仕事の忙しさで心が死にかけていた昨年末。たまたま寄った海ほたるから綺麗な富士山が見えて、思わず笑みがこぼれた。
ああ、私も富士山みたいな人間になりたい。どんな事態にも動じず、ドンと構えていられる大陸的な人間。その場にただいるだけで、何となく周囲の人達が安心感を抱いてしまうような人間。
なれる
でも、私みたいに器の小さな男には無理だ。今日も奮発して買ったイクラを我が子が多めに取っただけで、思わずカッとなってしまった。「おい、ずるいぞ!」。たっぷり食べさせてやれよ、イクラくらい。可愛い我が子だろ?富士山なんて夢のまた夢だ。
よし、心は諦めて見た目から入ろう。「あれ?あの人、富士山みたいじゃない?」。そんな風に言われるにはどうすれば良いだろう?
~どこでも富士山スカートの作り方~
①青い布と白い布を用意します
②ギザギザに切った白い布を、青い布に縫い合わせて完成
スカートと書いたが、別にショールでもひざ掛けでも何でも良い。
とにかく「あ!今、富士山になりたいかも」と思ったら、すぐさま腰に巻いて足を開き、前方に屈むのだ。
これは完全に富士山に見えるぞ。ちなみに横から見るとこうだ。
試しに近所の公園でやってみる。
ベンチのカップルが訝しむ雰囲気、撮影を頼んだ妻が早く帰りたがっている気配をビンビンに感じる。だがどうだろう?富士山になった私は、そんなのまったく気にならない。「見た目だけでも…」とスカートを作ったのに、心も大きくなっているじゃないか。
なれた。富士山のような人間に、私はなれたんだ。
みんな、見て!
人間として成長した私を、みんなにも見てもらいたい。ちょうど代々木公園でDPZの撮影があったので、富士山スカートを持ち込む。
遠くで見守るみんな達から歓声が上がる。嬉しい。富士山は見ても、見られても心地良いものなのだ。「みんなにも是非体験してもらいたいな」。自然とシェアの心が芽生えてきた。やっぱり人間として確実に成長してる。今なら子供にたんまりイクラを食べさせてやれる。
見よ、この雄大な景色。富嶽三十六景の北斎が生きていたら、間違いなくこの連富士も描いていただろう。良いぞ。これは良い。もっと色んな場所で富士山をやってみよう。