特集 2025年4月10日

製麺機をヒントにシュレッダーを生んだ会社でシュレッダーのことを全部聞く

「最大100枚細断」「粉雪みたいな紙くず」

歴史を振り返ってきたところで、では現状のシュレッダーはどんな感じなのかというと、思った以上にラインナップが多いのだ。

オフィス向けだけで大小合わせて25機種ほどあるのだけど、高橋さんは「これでも半分くらいに減ったんですよ」という。そんなに。

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いただいたカタログ。機種ごとにどんな違いが……?

高橋さん 本体のサイズ、一度に投入できる紙の量、細断の細かさなどによって、ラインナップが細かく分かれているんです。「大量に細断したい」「セキュリティを重視したい」など、ご要望に合わせてご提案しています。

たとえばセキュリティを重視するなら、めちゃくちゃ細かく紙を切り刻んでおきたいもの。

それならと一番細かく細断できるものを選ぶと、特注で幅1ミリ×長さ5ミリまで細断できるものがある。お米より小さい。「ほぼ粉雪です」と高橋さんは笑う。

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ほぼ粉雪。マイナンバー制度施行で需要が高まったそう(画像提供:明光商会)
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細断の方式にもいろいろあると教えていただきました。

先ほどの”粉雪”は、「ワンカットクロス」という方式で細断したもの。手裏剣状のカッターを組み合わせて、縦切りと横切りを一度に行う。

動画を見ると、紙がガガガと飲み込まれていく。ずっと見ちゃう映像だ。トランスである。

現行機種のうち、最も売れ筋なのはA4用紙70枚~80枚を一気に細断できるパワータイプだそう。最大で100枚を細断できる機種もあるという。

100枚……。プリンターに用紙を補充するときくらいの量が、一気に粉々になると考えるとすごさがわかるでしょうか。なんというパワー。

で、そのパワーを実現するのが「パワークロスカット」という細断方式。円柱状の特殊鋼を削り出したカッターで、一気に紙を引きちぎる。

高橋さん 硬いものを細断する場合は、それ以上に硬いもので破砕すれば済みます。でも紙はやわらかくてコシがないため、ひきちぎるか、切り刻むかしなくてはなりません。実は、これが非常に難しいんです。紙はしなるので、カッターの噛み合わせに紙全体をうまく入れ込ませるのも簡単ではないんですね。 

確かに、入れた紙がしなって「右半分だけめっちゃ細かく切れる」みたいなムラがあったらいけないですもんね。

細断する紙の量によって硬さも変わってしまうし、そのうえで「寸法通りに細かく刻む」といった条件もクリアしなくてはならない。紙の細断は単純なようで、かなりのノウハウが必要なのだ。

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ちなみにパワー系では、データメディア専用機もある。CD/DVDはもちろん、IDカード、ビデオテープ、フロッピーディスク、MOも粉砕。MOなんて久しぶりに聞きましたね……(カタログより抜粋)

細断方式はまだまだある。開発当初の製麺機みたいな縦切りは「ストレートカット」

これはセキュリティ的に弱いので、現在オフィスでの利用は少ないそう。ただ、リサイクルには向いているため、緩衝材などに使われることもあるという。

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先ほどの「さきもり」「明峰」にもストレートカットのくずが。

そして最後、4つめの細断方式は「スパイラルカット」

縦切りのカッターと横切りのカッターがそれぞれあり、二段階に分けてカットするというもの。

ガガガと紙を食べてるみたいな「ワンカットクロス」に比べると、「スパイラルカット」はスーッと紙が吸い込まれて気持ちいい。

いやでも、「ワンカットクロス」や「パワークロスカット」は、いっぺんに縦横切っちゃうじゃないですか。二段階に分けて切るのって、二度手間じゃないですか……?

高橋さん 「スパイラルカット」は縦にスパッ、横にスパッと順番に切るので、くずが紙吹雪みたいな形になるんですよ。他の方式よりかさばらないので、くずの収容力が高いんです。

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「ワンカットクロス」と「スパイラルカット」のくずの比較。ワンカットクロスやパワークロスカットは紙がねじれてしまうので、くずがかさばるのだ(カタログより抜粋)

かさばらないのはいいですね。シュレッダーって、くずが溜まると止まっちゃうから、くずの山をギュウギュウに押し込んで、もう一回セットしたりするじゃないですか……。

小川さん うちもやります(笑)。自分の番で捨てたくないんですよね。オフィスに何台かあるので、こっちがいっぱいならあっちに……って移動したり。

高橋さん 誰が捨てるのか、黒ひげ危機一髪みたいになってることがありますよね(笑)

くずを捨てる悩み、明光商会さんでも同じなんだ……! ちょっと安心しました。

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ペーパーレス化の影響は?

さっき「シュレッダーの歴史はオフィスの歴史」みたいなことを言ったのだけど、その流れでどうしても気になることがある。

最近、DXだなんだで、オフィスのペーパーレス化が進んでるじゃないですか。紙が減るということは、シュレッダー業界にも影響があったりするのでは……?

高橋さん 実は、出荷台数にはそんなに影響がないんですよ。全体的な紙の量は減っているんでしょうけど、シュレッダーが必要になるような重要書類の量は、ほとんど変わっていないんでしょうね。

小川さん 「パソコンでは見づらい」と紙に出力されるお客様も一定数いらっしゃいますし、「紙で何年間保存すること」みたいなルールがあると、1年ごとに古いものを捨てる機会もありますから。

むしろ「一般家庭や在宅勤務向けのパーソナルシュレッダーが伸びている」のだそう。そうなんだ! 勝手に心配してしまった。

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明光商会のキャッチコピーは「国家機密から心の秘密まで。」
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最強シュレッダーVS最強プログラム

そうそう、明光商会のシュレッダーは、実はテレビや映画にも「美術協力」として数多く登場しているのだ。

前クールのドラマだと、『まどか26歳、研修医やってます!』の病院、『クジャクのダンス、誰が見た?』の弁護士事務所、『御上先生』の進路指導室に置いてあったりする。確かに、どこもシュレッダーが必要な場所!

小川さん テレビ局や仲介業者の方から依頼をいただいて、お貸し出ししています。番組側からサイズや用途の要望があって、それに合った機種を選んでいるんです。『半沢直樹』にも出ましたよ。

ちらりと映り込むだけだとしても「弁護士事務所に置くならセキュリティ重視のタイプ」とか、ちゃんと選んでいるのだ。そんな細かいところまで。

そして明光商会の社員はドラマを見ていると「うちのだ」と反応してしまうのだそう。

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小川さん「音を聞いただけでどのカッターかわかったり、くずを見ただけでどの機種か当てたりする社員もいるんですよ」特殊能力だ……!

ちなみに……ドラマのワンシーンとかで、シュレッダーのくずをジグソーパズルみたいに組み合わせて、処分された証拠を復元する……みたいなものがあったりするじゃないですか。

あれはその……御社としては、どうなんでしょう……?

小川さん それはもう、やってほしくないです(笑)。ただ、現実的には「1枚ずつ投入してその都度くずを捨てる」という運用は考えにくいですよね。まとめて細断して、くずが溜まったら処分するというケースがほとんどでしょうし、大量の紙が混在した細断くずから紙1枚を復元させるのは不可能だと思います。

高橋さん 昔『ほこ×たて』に出たことはありましたね。

小川さん ありましたね! あの”粉雪”のくずを復元して、文字を読み取れるかっていう勝負だったんですけど。

調べました。放送は2013年4月。対決内容は「絶対に復元できない細かさに裁断するシュレッダー」 VS 「どんなに細かく裁断した紙でも復元できるプログラム」

番組が用意したポストカード1枚を、明光商会のシュレッダー(幅1ミリ×長さ5ミリの極小細断)にかける。これをアメリカの最強プログラマー集団が復元し、書かれた文字が読み取れるかというもの。制限時間は72時間。

最強プログラマー集団って?と思うが、彼らは翻訳アプリ「Word Lens」の開発者。カメラに映った文字を翻訳してくれるアプリで、のちにGoogleに買収されている。Google翻訳のカメラ機能は彼らの技術がベースなのだ。

そんな最強プログラマー集団は、粉々になったポストカードをピンセットで拾い上げ、手作業でひとつずつスキャン。極小のパーツに苦戦しながらモニタ上で組み合わせていく。果たして結果は……。

高橋さん 勝ちました(笑)。結果的に良かったですけど、よく引き受けたなと思います。

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高橋さん「いろいろあった番組でしたけど、あのときは本当にガチの勝負でしたね……」

一度に1000枚いけるタイプもある

今回はオフィス用のシュレッダーを中心に話を聞いたのだけど、もっと大型のシュレッダーもあるという。

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既製品で最もハイパワーなのがこの「MSO-1600」。一度に最大1000枚を投入でき、1時間あたり紙1.3トンを処理できる。もう単位がおかしい。


官公庁や金融機関などでは、各フロアで出た紙を地下に集め、定期的に一括細断するのだという。それでこんなに大きなものが必要なのだ。

紙を安全に処分する。ただそれだけでこんなにも歴史があり、技術と工夫が凝らされている。紙あるところにシュレッダーありだ。

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古い機種に描かれていたイラスト。机の下に産業スパイの脅威が迫る
編集部からのみどころを読む

編集部からのみどころ
井上さんの企業取材シリーズ、今回はシュレッダーです。
ルーツは「立ち食いそば屋のうどんの製麺機」とのことで、人に言いたくなるようなエピソードですね。
デスクと一体化したもの、木目調のものなど、今では見られないシュレッダーの写真も味わいがあります。(橋田)

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