たまたま見つけた「日本一」
静岡県の川根本町、大井川の近くの奥大井と呼ばれる地域を通過しているとき、たまたま「日本一短いトンネル」という看板を見つけた。
まわりは茶畑である。確かに山が近いのでトンネルがあってもおかしくはないのだけれど、まさかこんな場所に日本一があるとは思ってもみなかった。
看板に沿って行ってみると駅があった。大井川鉄道の駅らしい。
地名駅は無人だった。
僕は愛知に住んでいた頃に武豊線という路線を使っていたことがあるが、あれに通じる良さである。鉄道には詳しくないのだけれど、地元のローカル線には全人類に共感されるタイプの良さがある。
そんなことより地名駅は「じな駅」と読むらしいですよみなさん!
ジナーというカメラがあってかつて憧れたものだが、この地名(じな)という駅名を見てあの頃の気持ちがよみがえってきた。発端はたまたま見つけた「日本一短いトンネル」の看板一つである。こういうのが旅だなーと思う(今回は本当に通りかかっただけなので旅のつもりでもなかったのだけれど)。
日本一短いトンネル?
地名駅には誰もいなかった。調べてみると2022年の台風被害で大井川鉄道は一部区間が運休となっているらしく、ここ地名駅にも以来列車が入っていないのだとか。
そんな地名駅のホームにも日本一短いトンネルの表示があった。
日本一長い鉄道トンネルはなんといっても青函トンネルだろう。調べたら50キロ以上あるらしい。対して日本一短いトンネルは、なんと静岡県の山の中にあったのだ。同じ日本一なら青函トンネルくらい有名になってもいいんじゃないだろうか(鉄道好きの間ではすでに有名なのかもしれませんが)。
ホームから山の方を見ると、確かに遠くにトンネルが見える。あれだろうか
先にも書いたとおり、大井川鉄道のこの区間は現在運休となっているらしく、つまりここで列車を待っていてもしばらく鉄道は来ないのである。
ならばしかたがない、駅を出て線路沿いの道をトンネルまで歩いてみることにした。
看板によるとこのトンネルは、かつて線路上を横切る貨物ケーブルから線路を守るためのものだったのだとか。貨物ケーブル自体はとっくに廃止になったそうで、そうなるとこのトンネルもすでに不要なわけだけれど、なぜか取り壊されずにそのまま残り続け、いまでは「日本一短いトンネル」として存在しているのだという。
運休中とはいえ線路に降りるのはよくないと思い、裏手からトンネルに近づいてみた。まあ確かに短いが、ここからだと全体の長さがよくわからない。
一度駅にもどり、逆側からトンネルに近づいてみたところ、その短さがよくわかった。
線路の逆側には静岡らしくお茶畑が広がっていて、夏の強い日差しをもりもり吸って育っていた。その後ろに「日本一短いトンネル」はある。全長約11メートル。
これ、なんだか見たことがない風景だった。そもそもトンネルって山の中を通過するためのものであって、こうして単独で外に存在するものではないからだろう。
帰ってから調べたところによると、案内板に「日本一短いトンネル?」と「?」がついて語尾を濁していたのは、他にも日本一短いと言われるトンネルがあるかららしい。この地名駅近くのトンネルは正確には土木建築物なのでトンネルとしてカウントされないようだ(日本一短いトンネルは広島県呉市にあるそうです)。なるほどー。
日本一短いトンネルは日本一いいトンネルでした
たまたま見つけた「日本一短いトンネル?」はその成り立ちや姿も含め、ものすごく良いトンネルだった。長さとか定義でいくと日本一ではないのかもしれないけど、鉄道趣味でない僕が見ても(これはいいものですね)と思えるくらいよかった。
いつか大井川鉄道の運行が再開されたら鉄道に乗ってこのトンネルをくぐってみたいと思う。きっと一瞬なんだろうな。


