まずは木軸ペンの美しさをまず語りたい
そういえば数年前には、夏休みの宿題で文房具図鑑を1冊書き上げた小学生健太郎くんにインタビューしたこともあった。(あの当時小5だった健太郎くんも、昨春から美大生だ)
実は文房具って、子どもの頃から触っていられるツールだけに、本当にスゴい人は年齢関係なくいきなり頭角を現してしまうジャンルなのである。
いやしかしそれにしても、自分で旋盤を使って木軸を削りだしているってのは、少しスゴさの方向性が違うような気もするんだけど。
ちなみにこれが、そのウワサの中学生ことDRAGONWOODくんが手ずから削りだしたという木軸のボールペン(きだて私物)。うーん、何度見てもマジかっこいいわ。
木軸ペンというのは文字通り、木材から軸を削りだしたペンのこと。筆記具の中でも特別なファンがいるジャンルだ。(筆記具大手メーカーからもたまに発売されている)
樹脂や金属軸と違ってしっとりと手に馴染みやすく、温かみがある。木材によってツルツルしてたりサラサラしてたり…という感触の違いも楽しいし、なにより重厚感があって美しい。じっくり使い込んで我がペンならではの経年変化まで加わっちゃうと、もう大事すぎて手放せなくなるのである。
そもそも材質が木なもんで、木目まで含めて1本たりとも同じものが存在しないし、なにより木軸を削る職人さんのセンスや技量によって軸の形状や雰囲気がかなり違う。
そんな中で、かっこいい木軸を削る職人さんには多くのファンがついているのだ。例えば有名どころだと、野原工芸や工房 楔あたりはもうレジェンド級と呼ばれているクラス。
ちなみに僕は昨年秋から「文具マーケット」(文房具に関するものならなんでも販売可能な物販イベント)というのを主催しているんだけど、その第1回にDRAGONWOODくんの木軸が委託販売(本人はお呼びできなかった)され、開場からものの数分で10本が売り切れてしまったのだ。(しかも、これ目当てで開場待ち行列すらできていた)
つまりこれ、すでにDRAGONWOODくんにもかなりのファンがついている、というわけで。すげぇ。
中学生職人の仕事を見せてもらう
ということで、改めてやってきました京都へ。そしてこちらがDRAGONWOODくんご本人である。
万が一にもイカつい職人タイプだったら話しかけづらいな…とか想像していたんだけど、実際にお会いしてみると、非常にシャイで優しげ。めっちゃ普通の中学二年生男子って感じ。
で、実際にお邪魔してみて驚いたのが、その製作環境だ。
いや、さすがに「普通のご家庭に旋盤ねぇだろ」と思っていたんだけど、やはり普通ではなかった。
というのもDRAGONWOODくんちは京都で150年続く漆塗師(ぬし)のお家で、代々仏像の修復や仏具の製作をされているのだ。
なので工房に入れていただくと、おー、修復中の仏様や、作ってる途中の常花(仏様の脇にお供えされてる木製の蓮華)などがいっぱい。
僕は京都の仏教系の大学に行ってたので、お寺さんなんかはわりと見慣れているんだけど、しかし修復中の仏様なんてのはそうお目にかかる機会もない。あと、あの木製の花ってこんな感じで作ってるんだー!という驚きも。
この工房の2階に旋盤があって、それをDRAGONWOODくんが使っている、ということらしい。
で、もういきなりだけど、実際に木を削ってるところを見せてもらうことに。
軸の長さに切り出された角材を旋盤にセットたら、回転させつつノミを当てていく。するとヂュゥゥゥゥゥゥゥゥ……という音と共に削れていき、次第に形になっていくのだ。うーん、見てて楽しいな。
きだて なんかすごい気軽にザックリ削ってる感じなんすけど、形とかどうやって決めてるんですか?
DRAGONWOODくん(以下、DRA) えー…だいたいの感じで…なんとなく
DRAGONWOODくんのお父さん(以下、DRA父) 昔は木材に線とか引いてたんやけどね。
これまですでに相当数を削っているDRAGONWOODくん。もはや自分の作るペンの形はほぼ手に染み込んでいるようで、製品をいくつか見せてもらっても、その形状にズレは感じられない。
やっぱり職人なのだ。
DRA でも、軸の端っこを削るのは未だに気ぃ遣いますね…。なんで、そのときだけは旋盤の回転速度も落としたり。
角材の中心には真ちゅうのパイプがはめ込まれてる(後からそこに口金やノックパーツなどをはめていく)んだけど、うっかり軸端を欠いてしまうとそのパイプが露出してしまう。つまり失敗だ。
だけどパーツを合わせる関係上、できるだけ端は薄く削りたい。でも削りすぎると欠ける。そこをうまく擦り合わせていくのが、技術というわけだ。
作業に集中してるところでこれ以上お話を聞くのも申し訳ないなー、と見ていると、さっきまで角材だったものが、もうほとんど「あ、ほぼペンだ」というところまで出来上がっている。
細かくノミを当てて形状を仕上げたら、ペーパーやコンパウンドスポンジで表面を整え、最後にオイルで拭き上げてフィニッシュだ。
旋盤を回し始めてからここまでの時間は、時計を見ると15分ほど。しかし、わーすげー、ひゃー削れてるー、と見ていた側の体感としては3分とかかってない感じ。
確実に興奮しすぎである。