特集 2023年1月20日

ジャガイモの自家製フリーズドライ「チューニョ」が食べてみたい

チューニョで作った肉じゃがあらため肉チュニョ、果たしてどんな味なのか。

とあるテレビの海外ロケ番組を見ていたら、ペルーで伝統的に食べられている「チューニョ」という保存食が紹介されていた。

ジャガイモを冷凍→解凍と繰り返すことで水分を抜いて乾燥させたもので、数年は保存が利くらしい。で、実は日本にもほぼ同じ過程で作った「しばれ芋」や「凍み芋」といったものがあるらしいんだけど、これ、どんな味なんだろう。

とりあえず自作して食べてみるか。

1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

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自家製フリーズドライで作る保存食「チューニョ」とはなにか

ジャガイモといえばアンデス山脈の辺りが原産で、そこで代々伝わっているのが「チューニョ」。

日本のジャガイモ生産量の3割を占める北海道の十勝地方で作られているのが「しばれ芋」。

つまりはジャガイモの大産地で伝わっている食べ方なんだから、保存食とはいえかなり美味しいんじゃないだろうか?というのが、この企画の始点である。あと、どっちも妙に名前がかわいいのもポイントだ。

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お前たちをこれからかわいい名前の食べ物にしてやろう。

で、作り方なんだけど、ざっくりネットで見たところ基本的には

① ジャガイモをまるごと凍らせる
② 中まで凍ったら解凍する
③ ①と②を何回か繰り返す
④ 絞って水気を抜きつつ皮を剥き、乾燥させる

……ということらしい。「だいたい何回凍らせたらいいのか」「そもそもジャガイモを絞るとはどういうことか」など気になる部分はあるんだけど、これはまぁやってるうちに分かるんじゃなかろうか。

世の中だいたいのことは、やってみないと分からないもんだ。

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泥を落としたら、水気を拭かずにそのまま冷凍するらしい。
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病気の猫の流動食とかで冷凍庫がパンパンなので、今回のためにだいぶ冷凍食品を食べて庫内整理した。

まずはジャガイモの表面を洗ってドロを落としたら、そのまま冷凍させる。

寒冷地の食い物なので、本来は屋外に放置して勝手に凍らせるようなものらしいんだけど、都内では夜間でもマイナス気温まではいかない。

なので、トレーに乗せて冷凍庫に放り込んでおこう。

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こちらが冷凍ジャガイモ。鈍器として使えそうなぐらいにはカチカチに硬い。

ひとまず12時間ほど冷凍すると、なんとなく中まで凍ったんじゃないかな?という雰囲気になったので、今度は解凍フェイズに移る。

こちらも本来は外気に晒しつつの解凍(乾燥も平行して進むのか?)がいいらしいんだけど、今は我が家の真ん前で大がかりな建築工事の最中なので、土埃がかかるのを避けて屋内解凍とした。

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こちらが解凍後。トレーに溜まった謎の汁にかなり驚いた。

で、室温21度の部屋で10時間ほど放置したのがこちら。うーん、なんだこの茶色い汁。

そもそも「チューニョ」「しばれ芋」の仕組みは、ジャガイモを凍らせることで細胞壁を破壊し、水分を染み出させて乾燥させる、というもの。大まかにいうと、ご家庭版のフリーズドライ製法である。

なので、この茶色い汁はジャガイモの細胞から出てきたもので間違いはないはずだけど…なんだろう、「これで合ってる?」と聞きたくなるような色は。

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とくにアンモニアや腐敗臭といったヤバめの匂いはない。大丈夫だとは思うんだけど。
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スプーンですくって舐めてみる。ん、甘いな。

ちなみにこの汁、嗅いでみるとほのかに土臭さがあって、あと、なんかちょっと甘い匂いもするような。

試しに舐めてみると、確かにうっすらと甘い。もしかしたら、ジャガイモの中の糖分が一緒に染み出しているんだろうか。

ひとまずこの汁は捨てて、再度の冷凍フェイズへと戻る。

ジャガイモ絞りの快感を伝えたい

……で、最終的にこの冷凍→解凍を5ターンやったのが、こちらの写真である。

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冷解凍を繰り返し、ここまで変わり果てた姿に。

今までは毎回のように染み出ていた茶色汁が、いよいよ出なくなってきた。うーん、これが次に進む頃合いなんだろうか。

ジャガイモ自体もかなりシワシワのヨレヨレで、指で押すとぶよんと沈み込む状態に。

元々の硬さは完全に失われて、手触りとしては、ウレタン製のスクイーズ(握ってぶよぶよの手触りを楽しむおもちゃ)にわりと近い。なんか楽しくてクセになる触り心地だ。

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汁気が出てだいぶぶよぶよになったジャガイモ。正直「これ食えんの?」とは思う。

ともかくこれが最終フェイズに進むタイミングと判断したので、次はこのシワシワぶよぶよのジャガイモを絞って水気を抜いていこう。

凍らせる前のカチカチでゴロゴロしていた状態からは想像も付かないが、今のジャガイモは軽く握るだけで絞れそうだ。


手に芋を持ってギュッと握ると、まず芽の辺りから水分がぴゅー!と噴水のように飛び出し、さらには全体からボタボタボタ…!とかなりの量がしたたり落ちてくる。これが自分がものすごい怪力になった気分で、端的にめちゃくちゃ楽しいのだ。

うるさい新聞記者の顔の前で「アップルジュースをおごるから口をあけな」とリンゴを握り潰してみせたプロレスラー、“鉄の爪”ことフリッツ・フォン・エリックも、たぶん同じように楽しかったはず。

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勢いよく噴出するジャガ汁。これもカップに貯めて飲んでみたが、最初の茶色汁よりもでんぷん臭が強く、正直ウェッとなる味だった。
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絞ったあとはこんな感じ。もうお堅いイモだった頃の面影はない。

水分を絞ったあとに皮を剥くのかと思っていたんだけど、ここは並行して作業する。

というか、絞ってるうちに皮が勝手にペリッと裂けてくるので、そこをつまんで引っ張るだけで簡単にペリペリと剥けてしまうのだ。

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本来なら足で踏みつぶして作るんだけど、今回は日和って手作業で。

ちなみに「チューニョ」は、ぶよぶよの解凍ジャガイモを素足でグニグニと踏みつけることで、脱水・皮剥きをするらしい。

ううむ。もしかしたらそこでチューニならではの旨味が生まれる機序があるのかもしれないんだけど、今回はその勇気が出なかった。

なので今回作ったのは正確には「チューニョ」ではないんだけど、語感がすごくかわいいので、「チューニョ」呼びで通させていただきたい。

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乾燥しやすいようにギュッと押し潰して平べったくなったところへ、強風をガンガン当てていく。

あとは冬の乾いた外気で乾燥を……と思ったが、先述の工事中というのに加えて、ドンピシャで20日ぶりの雨に当たるという間の悪さである。仕方ないので扇風機を引っ張り出してきて、強制風乾に。

結局、最初から最後まで一度も外に出ずに作りきってしまった。

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で、果たしてチューニョは美味いのか

扇風機乾燥を施すこと26時間。持ち上げるとかなり軽く、打ち合わせるとカンカンという硬い音がする。だいぶ乾いたようなので、ひとまずここで完成としよう。

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あれ、しいたけ干してたんだっけ?としか思えない雰囲気。

第一印象としては「これ、しいたけじゃね?」だ。

色もテクスチャも、しいたけ激似。

乾かしている間に白→ピンク→赤→茶色→黒と変色していったんだけど、これはどうやらジャガイモに含まれるチロシンというアミノ酸が酸化することでメラニン色素を生成した、ということらしい(味に問題はないっぽい)。

へー、今までも調理中にジャガイモの断面が赤くなるのは見たことあったんだけど、そういう仕組みだったのか。

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つまんでみると、乾物らしい硬さと軽さ。

重さはだいたい35g〜25gなので、冷凍前の20%ぐらい。ジャガイモの水分量は重量の80〜90%らしいので、わりと計算通りって感じだ。

で、調理なんだけど、このままではカチカチで食べられないので、「チューニョ」も「しばれ芋」も水で戻して煮込むのが基本のようだ。まぁフリーズドライ芋だしな。

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ジャガイモに「水分たっぷり」のイメージは無かったけど、こうやって比較するとほぼ水分だな。
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水を出し切ってカチカチなので、調理する際は叩いて砕くか、ノコギリで割るのが正解らしい。
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カットしてぬるま湯へ。中はちゃんと白いままだったので、ちょっとホッとする。

まずは水戻しをしてみよう。

さすがに硬くて包丁だと切るのがキツいので、ノコギリでゴリゴリと切断したら、ぬるま湯につけて放置する。

1時間ほどで、平べったかったのが、だいぶジャガイモらしい輪郭を取り戻してきた。

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おっ、そこそこジャガイモらしさを取り戻してきたか。
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さらに茹でる。わーだいぶ水を吸ったな。あと、ゆで汁にでんぷんが溶け出したのか、ものすごいとろみが付いた。
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これをすりこぎで潰して味付けすると……

ここからお湯で数分茹でたら、ゴリゴリと潰して塩・胡椒・酢・マヨネーズで和えると、チューニョサラダ、略して「チュニョサラ」の完成である。

わー色合いがひどい。

メラニン色素で黒ずんだ表面と中の白が混じり合うことで、あまりにも食欲をそそらない灰色のサラダになってしまった。

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ポテサラならぬチュニョサラの出来上がり。どう見ても美味しそうではないよな。

さて、味はと言うと……うーん、マヨネーズ味のついたモソモソしたなにか、という感じ。ジャガイモの風味とホクホク食感が大幅に減っているせいか、正体不明さがすごい。

とはいえ、食べられないほどマズい!というレベルでもなくて。なんというか、すっごい微妙なラインだ。

あと、土臭さとデンプン臭さは元からわりとアップしているので、この匂いがダメな人にはキツいだろう。

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「美味しくはないんだけど、全否定するほどひどくもない…どう判断すればいいのやら」の顔。

ここで改めて「チューニョ」「しばれ芋」が主に煮込み料理に使われる理由を考えてみよう。

水分を絞り出して乾燥させているわけだから、逆に生のジャガイモよりもダシを吸うのではないだろうか。つまりフリーズドライだからこその価値が出るのではないか。

もとからマヨあえのサラダなんかじゃ駄目だったのだ。

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煮込みこそが真のチューニョ調理法のはず…!さあダシを吸え!

であれば煮るしかない。タマネギ、ニンジン、牛肉と合わせて甘辛く煮る。肉じゃが改め「肉チュニョ」である。もう「チュニョ」って言いたいだけな気もしてきたけど。

見た感じ、想定通りにめちゃくちゃダシを吸い込んでいるようだ。これはいけるのではないだろうか。

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肉チュニョ、たっぷりダシを吸い込んだっぽいビジュアルだぞ。さぁどうだ。
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キュッと眉間に寄ったシワが味を物語る。

あ、また微妙なとこ来たな。

確かに煮汁の吸収率はかなり高いんだけど、その分だけジャガイモの味は消えている。要するに、うっすらジャガイモっぽい風味のする土臭いウレタンをかじってる、という感じ。ぶっちゃけ、しょっぱい。食感もホクホクではなく、微妙にムニャムニャとして噛み切りづらい。

食えるけど……食えるんだけど、他に食べるものがあるならこれじゃなくていいかな、というプライオリティ低めな印象だ。

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普通の肉じゃがと並べてみた。水分の抜けてないジャガイモ、存在感あるなぁ。

ちなみに、比較用に普通の生のジャガイモでも肉じゃがを作ってみたが、これがどうして、クワッ!と目を見開くほどにジャガイモが美味い。

なんせジャガイモ自体の味がしっかりしてるし、ホクホクして口の中が幸せ。あと、今までジャガイモにこういう表現を使ったことなかったけど、フレッシュで爽やかな風味がする!

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あー、ジャガイモってこんな美味かったっけか。ホクホクしてて最高だな。

実のところ、ジャガイモから染み出た汁が甘かった時点でうっすらと「あー、これ糖がどんどん出ちゃうんだから、まずくなる一方だよな」という気はしてたのである。

ただ、もしかしたら単に作り方が悪かっただけで、糖を逃がさず水分を絞り出すやり方はあったのかも知れない。あと足で踏むのも必要な工程だったのかも。

もしそういう製法が見つかったら改めてリベンジするかもだけど、とりあえずはもういいかなーという気分だ。普通にジャガイモのままで美味しいし。


ちなみに、山形県で食べられている同様のフリーズドライ・ジャガイモ「凍み芋」は、粉にして小麦粉や米粉を混ぜた団子にして汁物に入れる、という食べ方をするらしい。

念のためにそっちもやってみたんだけど、土臭さとでんぷん臭が際立った「もっちりした泥」を食べてる感じだった。

さすがにこれだけ不味いと、やはり製法に不備があった気がするな。もし正しい作り方をご存知の方がおられたら、ご教示ください。

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おろし金ですりおろして、チューニョを粉に。つなぎと水でこねたら団子になるぞ。
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またしてもとんでもない灰色に。味も残念ながら美味しくはない。
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