ショックですらあるこの椎茸っぽさ
椎茸みたいなパンを探して店を練り歩き始める前に、まずはもう一度じっくりと母の焼いたパンの椎茸っぽさを感じておきたい。
どう見ても椎茸だ。
唐突に目覚めたパンの椎茸性(俺の野性、みたいな語感で読んで欲しい)。
驚くと同時に、ショッキングでもあった。だって、スライスする前まではごくごく普通のパンだったのだ。これが椎茸になるとは夢にも思わなかった(その証拠というか、スライスする前の写真は無い)。
むしろパンの椎茸のほうがキノコの椎茸よりもキノコの椎茸らしいように見える。
どういうことなんだ。
ちまたのパンの椎茸性を探る
いてもたってもいられず街に飛び出した。
パンが椎茸なのだ。ほうぼうの店でも同じようなパンがもし見つかれば、これは大変なニュースだと思う。
新宿伊勢丹へやってきた。
母のパンはいわゆるクープ(切れ目)の入ったプチパンだ。
パンにクープを入れるのは街のパン屋さんよりもデパ地下にあるようなパンの店に多いのではと思ったのだ。
「キノコ」と呼ばれるパンの存在
あとで調べて知ったのだが、パン界にはそもそも「キノコ」と呼ばれているパンがある。「シャンピニオン」である。
店ごとに形は微妙に違うもののコロッとした形に平べったい円形の傘が乗っかっているのが普通。
シャンピニオンとはフランス語でまんま「キノコ」の意味らしい。
フランスの方にはピンとくるのかもしれないが、私としてはこれがキノコだといわれると正直「?」だ。
開き直ってわが心の椎茸みたいなパンを今日は探したい。
パンじゃない、椎茸を探しいているんだ
伊勢丹でパンを眺めていると丁寧に店員さんが接客してくれる。
「こちらは天然酵母で国産の小麦粉を使って焼き上げておりまして……」
しかし今日わたしが求めているのは良いパンではない。椎茸みたいなパンなのだ。
なんとなく説明を聞くふりをしながら、より椎茸っぽいパンを探した。
新宿伊勢丹の椎茸っぽいパン
メゾンカイザー「キュルキュマ」285円
ヘーゼルナッツとくるみが練りこまれている、ターメリック(ウコン)のパン。
切れ目はいい感じだが、ターメリックの黄色が椎茸っぽさを削いだ。もう一息か。
三越アルコットの椎茸っぽいパン
ジョアン「ノアレザン」252円
自家製の発酵種を使っているそう。レーズンとくるみが練りこまれいてる。
今度は先ほどの黄色と違って茶色いのが椎茸らしい。かなり期待できるぞと購入時は思っていたのだが、自宅でスライスしてみたら、衝撃を受けるほどの椎茸感ではなかった。
あしらわれた白い粉が災いしたか。クープ部分の焼き色が濃いのもよくなかった。
なかなか椎茸感を出すのはむつかしいようだ。
あらたな可能性
店を巡るうち、当初目をつけていたハード系の固いパンではなくブリオッシュや、バターロールのようなソフトタイプのプチパンにも「これなら椎茸になるかもしれないな」と思われるものがいくつか見つかった。
小田急本店の椎茸っぽいパン
トロワグロ オレンジパンズ 170円
オレンジピールを練りこんだ甘めのパン
クープが山になってかなり盛りあがっているタイプ。包丁ではなく、はさみで切れ目を入れているらしい。
スライスするとかなりいい感じに椎茸だ……!
小田急本店の椎茸っぽいパン2
ルビアン 「バターロール」84円
丸い形がバターロールとしてはちょっと珍しいテーブルパン
テカテカした光沢がどちらかというとナメコのようだ……!
椎茸だけではない。ナメコという方向性もまさかあった。
見失う
順調に椎茸への道を登っているようにも見えるのだが、ここへきてなんだか、丸いパン全部がキノコに見えてきた。
完全にパンはキノコに見える眼鏡がかかってしまった。
これもキノコ? あ、これもキノコ! と椎茸とはいえないようなパンを「キノコっぽいから」と買っていた。
小田急ハルク店の椎茸っぽいパン
ポンパドウル 73円
「ハイジの白パン」と呼ばれるようなふわふわのパン。かかってるのは粉砂糖だった
京王百貨店の椎茸っぽいパン
ポール「シュケット」63円
シュー記事にあられ糖をまぶして焼いたもの。これがまたえらく美味しい(そして小さくて高い)
京王百貨店の椎茸っぽいパン
フォション
丸いプチパンにチーズが練りこまれつつふりかけてある。ああ、美味しいなあ
椎茸というよりも毒キノコみたいなパンが集まってきている。
ついに、「パン」というくくりからもはみ出した
椎茸のことを忘れて、何を毒キノコに夢中になっているんだよ! と早く軌道修正したいところだが、デパ地下にいた時点での私はまだ自分が脱線していることには気づいていない。
そしてついに「あ、これ、もしかして最高にきのこなんじゃない?」と思って買ってしまったのだ、肉まんを。
この肉まん、しばらくは「これはいいキノコを買ったぞ」と思っていた。本気で思っていた。
……あれ? 私、何してるんだっけ?
キノコに見えるパン……を探してるんだよな?
キノコ……そうだ、椎茸に見えるキノコを探してたんだったわ。
椎茸だよ。なんか今買ってるの、みんな毒キノコじゃん!
椎茸はなかなかない
新宿を後にして渋谷へ。
しかし、毒キノコやナメコは除外して椎茸に的をしぼるとなかなかコレというパンは見当たらない。
結局、渋谷で8軒を巡って買ったパンは1つだった。
フードショーの椎茸っぽいパン
サンジェルマン タンドレス「ブリオッシュ」
牛乳、バター、卵をふんだんに使ったケーキのスポンジのような味のあまパン。美味しい。
クープの部分が盛り上がりすぎているせいで椎茸っぽさが薄い。より椎茸っぽくするために、ハサミではなくぜひ一度包丁で切れ込みを入れもらいたい。
望みをパンの街へつなぐ
デパ地下にやや限界を感じてきたので、最後にもう少しエッジィなお店に椎茸がないか、賭けてみたい。
やってきたのは東急目黒線と大井町線が交差する大岡山駅。
東京都外の方々には「?」という地名かと思う。普通の私鉄の沿線駅だ。
椎茸への道、やはり遠し……
残念ながら丸いプチパンで、×型にクープのある、茶色いパン(できればクープの内側は白)は大岡山でも見つからなかった。
イトキトもショーマッカーも店員さんがとても親切で、撮影をお願いしたところわざわざ店のパンを集めて並べてくれた。
それでたくさんパンがあるように見えるが、売り切れのもののも多かったのだ。行った時間が悪かったというのもある。
ショーマッカーの椎茸っぽいパン
プレッツェル 200円
おつまみにされることが多いパン。表面の岩塩がおいしい
イトキトの椎茸っぽいパン
マンゴーとホワイトチョコのセーグル」250円
ライ麦入りのパンにドライマンゴーとホワイトチョコとアーモンドが入っている!!
食べたいパンを買って魔法がとけました
実は椎茸っぽいパンが見つからなかったので大岡山の2店では食べたいパンを買ったのだ。
そうしたらなんだかパン屋さんに行く喜びを思い出して、今日一日椎茸(やキノコ)のことだけを考えてパン屋さんを巡っていたのはなんだったんだろうと、ぽかんとしてしまった。
あ、魔法がとけた。
けれどライフワークの予感
魔法はとけたものの、思い出してみると、椎茸としてかなり惜しいところまでいっていたパンもいくつかあった。
ちゃっかりきっちり椎茸パンの手ごたえはがっちりつかんだ今回だったのだ。
探そうと思って椎茸パンを探すと、全部キノコに見えてきちゃったりパンが好きすぎて集中できなくなっちゃっうことも分かった。
が、食べたいパンを買うついでにちょっと椎茸性を確かめるというのは今後もやっていきたいと思う。
※この記事は2009年5月に掲載された「椎茸みたいなパン探し」の写真画像を大きくし加筆修正して再掲載したものです。お店や商品の情報は古い可能性があります