バッテリーが上がると車は動かない
自動車はエンジンを始動するときに電力を使うので、たとえガソリンが満タンでもバッテリーが上がっていると全く動かなくなってしまう。
バッテリーが上がる主な理由のひとつはライトや室内灯の消し忘れで、気づかず放置すると次に乗るときにエンジンがかからないのだ。
今回もそういったようなことが原因で身内が車のバッテリーを上げてしまい、朝にドタバタしながら結局はタクシーで仕事に行ったそうだ。社長か。このまま放置すれば彼は破産待ったなしだろう。
幸いにしてわたしは仕事が休みだったので道具を買いに行った。バッテリー上がりの救援といえば大人の嗜みである。現代の通過儀礼のようなものだ。
道具を買うところまでは使命感に燃えていたのだが、方法を調べてみると失敗したら車が燃えますみたいなことが書いてあって気絶した。おれの命日は今日だ。
ジャンプスタートはドキドキまみれ
それではやっていこう。救援車と故障車のバッテリーを繋いで電気を分けてあげるのだ。いわゆるジャンプスタートというやつである。
まずは救援車を故障車に寄せなければならない。車に乗り始めて約10年、運転が下手すぎて未だにバック駐車ができないレベルなので緊張する。そのかわり公道で脱輪したことが3回くらいあるので経験は豊富だ。
ちゃんと車を寄せられて内なる両親も喜んでいます。
次は互いの車のボンネットを開ける。
ボンネットはたまに開けるのだが、あまりのむき出し加減に毎回卒倒しそうになる。素人が触っていいものじゃないだろう。
やること自体は単純で、ケーブルを両車両のバッテリーにつなぐだけなのだが、怖い。つなぎ方を間違えたら燃えるって知恵袋に書いてあったから。
やりたくなさが顔の陰影としてくっきりと現れていて、普段の表情もこんなに分かりやすかったら恥ずかしいなと思った。
ブースターケーブルをつなぐ
ここまできたら逃げられない。ケーブルをバッテリーにつないでいこう。プラスマイナス、それぞれ同じ極同士を繋ぐらしい。
2本のケーブルの両端には1から4までの番号が振られていて、つなぐ順番と箇所が親切に書いてある。たぶん間違える人がいるのだろう。
普通にやれば間違えようがないのだが、間違ったときのことを考えてしまい心臓がバクバクする。
いっそのこと逆に繋いで己もろとも爆発してやろうかと思う。ボカーン。さぞスカッとすることだろうよ。爆発しておくべきじゃないか。
車はそう簡単に爆発しないようにできているようで、ひとつめの端子を繋いでしまえばあとはトントン拍子だった。なんだ、簡単じゃないか。最後の端子をつなごう。
最後の端子を繋いだときに火花が出た。よくあることらしいのだが、よくあってたまるか。あーん!こわいー!しぬー!と一連の流れで声に出して言った。
仕上げに救援車のエンジンを始動させて電力を供給する。
読者諸氏のご期待に添えず申し訳ないが、このあともつつがなく事は進み、今こうして文章を書けている。爆発が見られず残念だが、しっかりと大人の階段を登れた。
肝試しとどっちが怖いのか
実は救援作業中の心拍数をアップルウォッチで測っていた。
これがどういう数字なのかはわからないが、ひとつの基準にはなるだろう。折しも季節は夏、丑三つ時に外に出て肝試しをしてみようじゃないか。それで心拍数を測って比較するのだ。
ビビりではあるものの、心霊的な怖さは苦手じゃないのでジャンプスタートといい勝負になるはずだ。
外に出てみるとあたり一帯は霧がかっていた。
周囲の風景を撮ろうとしたらインカメになっていて、ぼや~っと自分の顔が画面に映りこんだ。
……すみません!それがめちゃくちゃ怖かったです!iPhoneに自分の顔が出てきただけで。もう我慢できる怖さの限界を超えました。
計画では深夜2時に屋外で怖い動画を見てドキドキする予定だったが、動画のサムネイルだけで漏らしそうなほど怖い。
もう帰ろう。心拍数を無理に上げることもないじゃないか。身体に悪そうだし。
そういった次第で、家から出て数十歩で肝試しは終わった。どうやら心霊的なほうの怖さも苦手だったようだ。それもかなり。
ほうほうの体で部屋に戻るとラップトップが血で赤く染まっていた。
血かと思ったらゲーミングノートPCだからキーボードが光っていただけだった。よかった。
そして心拍数はジャンプスタートと肝試しでそう大差はなかった。やっぱりバッテリー上がりの対処はオバケくらい怖いのだ。
みなさん、夏場のバッテリー上がりとオバケとゲーミングノートPCには気をつけましょう。

