特集 2023年4月11日

海外旅行のメインコンテンツ、それは散歩〜雨のザルツブルクでファイアサラマンダーに出会った

霧雨を 集めてゆくぞ サラマンダー

剥製コンテストに参加するために訪れたオーストリア・ザルツブルクにて、散歩中に珍しい生き物を見つけた。黒と黄色のまだら模様が毒々しくも美しい、その名もファイアサラマンダーだ!野外で不意に見かけたその前衛芸術のような姿に、まさしく電流が流れるような衝撃を受けたのである。

変わった生き物や珍妙な風習など、気がついたら絶えてなくなってしまっていそうなものたちを愛す。アルコールより糖分が好き。

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出会いは偶然に

ファイアサラマンダーに出会ったのは、まったくの幸運によるものだった。半日ほど暇な時間ができたので、小雨が降っているにも関わらず散歩に出たときのことである。

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森の中を歩いていると
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ん?なんかいるな。
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おわー!!これ、話には聞いていたファイアサラマンダーだ!

こうなるともう、頭の中はお祭り騒ぎである。

ついさっきまで雨の中を傘も持たずに出かけてきたことを後悔していたのに、そんなじめじめした気分は一瞬にして全部ふっとんでしまった。

ザルツブルクの街中にポツンと残されたこの小さな丘にいるファイアサラマンダーは100匹だろうか?1000匹だろうか?たいした数ではないはずだ。今日はじめてここを通る私が偶然見つけるなんて。神が、はるばる日本からヨーロッパまでやってきて雨の中をうろついている私を不憫に思って遣わしてくださったとしか思えない。神様ありがとう。ファイアサラマンダーもありがとう。

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ファイアサラマンダーはヨーロッパに広く生息しているのだが、その派手なカラーリングはどちらかというと熱帯の生き物みたいだ。みたいというか、南米のヤドクガエルにそっくり。ヤドクガエルとファイアサラマンダーはいずれも毒をもった生き物で、派手な色は捕食者に危険性をアピールするための警告色である。
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まだまだ寒いというのに、ファイアサラマンダーは意外にも活発に動いていた。湿った場所を好むイモリの仲間だから、雨が降ったのがうれしくてつい出てきてしまったのかもしれない。であればこちらとしても雨の中わざわざ出かけてきた甲斐があったというものだ。

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恰幅がいいですね。カメラを向けると顔をそらそうとする。ちゃんとこちらのことを警戒しているみたい。
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顔のアップ。鼻の穴までくっきり。

はいつくばって夢中で撮影していると、散歩中の地元民が「なんだ、こいつ?」という感じで見てきたが、私の手元の覗き込んで

「オー、フォイアーザラマンダー!」

と言ってさっさと去って行った。ちなみに、彼女も傘をさしておらず私と同様ずぶぬれだった。

ヨーロッパでは少々の雨であれば傘をささずにすませてしまう人が多いのだが、想定よりも激しく降り始めたので焦っているさまが見て取れた。

「わかる、さっきまで僕もそう思ってたよ。でも、ずぶぬれで散歩してるといいこともあるよ」

私は内心でそう語りかけながら、ファイアサラマンダー、ドイツ語でフォイアーザラマンダー(Feuersalamandar)の観察に戻った。

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草間彌生先生の作品を彷彿とさせるデザイン。
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目が大きくてかわいい顔!
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大きさはこんな感じ。
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手を近づけると、驚いて顔をそらしてしまった。悪かったよ。
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しつこく付きまとわれて鬱陶しくなったようで、枯れ葉の下にもぐろうとする。
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歩き方はノタ、ノタ......という感じだ。

枯れ葉をかき分けて去って行くファイアサラマンダーを見送ってスマホの時計を見ると、なんと15分以上たっていた。ともあれ大満足で丘を下りたのだった。

ところで、私が参加した剥製コンテストの会場の横では野生動物保護の取り組みについてのポスターが展示されていた。そこに、なんとファイアサラマンダーも紹介されていたのである。

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ファイアサラマンダーの生息地は開発によって減少している。さらに、道路に迷い出てきたところを車に轢かれて死んでしまうことも多いのだ。

わたしが今住んでいる京都のアパートは庭に小さな池があり、そこにはかつての住人が放流したと思われるアカハライモリたちがいる。

人畜無害そうなこいつらだが、一つ問題がある。雨に乗じてよく池から逃げ出すのだ。とくに梅雨の季節はひどい。そのままにしておくと車道に出て轢かれたり、新天地と思い込んで下水にダイブしたりするので、夏の間は頻繁に見回りをしてそういう血気盛んな冒険者たちを池に戻すようにしている。「イモリ戻し」と命名したこの行為が、うちの夏の風物詩なのである。

そんなわけだから、ファイアサラマンダーの保護に取り組む人たちのことも他人事とは思われなかった。こちらの気持ちなど知らずに隙あらば脱走しようとするイモリの天真爛漫なふるまいに腹が立つこともあろうが、ぐっとこらえて頑張ってほしいものだ。

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