特集 2020年8月17日

酒蒸し法・ザ・ファイナル

ふらりと入った場末の酒場で物珍しさから頼んだ「鶏の酒蒸し」。その意外な美味しさに衝撃を受けて研究し、自分のなかに定着した「酒蒸し法」。

僕がデイリーポータルZに記事を発表したのが昨年の2月。さらにその発展形を掘り下げたのが同年7月。酒蒸し法にはいまだによくお世話になっているし、その間に、新しい発見や応用技術にも出会いました。

そして思った。ここらでそろそろ、酒蒸し法の可能性を徹底的に掘り下げ、体系立てて後世に残しておきたい。

「酒蒸し法・ザ・ファイナル」です。

1978年東京生まれ。酒場ライター、他。酒カルチャー雑誌「酒場人」監修をはじめ、いろいろとやらせてもらってます。(インタビュー動画)

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酒蒸し法のおさらい

「酒蒸し法」とは、メジャーなアサリに限らず、さまざまな食材を酒蒸しにして食べてみると、食材にふっくらと火が通り、しかも日本酒の効果で旨味がたっぷり増すという便利な調理法。

やりかたは簡単で、フライパンに塩をふった食材を入れ、そこに、食材の6ぶんめくらいまでが浸る量の日本酒(安いパックの酒でじゅうぶん)を注ぎ、フタをして中火で、水気がなくなるまでほっておくだけ。

自分で言うのもなんですが、これがなかなかに汎用性高く、その割に斬新なアイデアだったようで、デイリーポータルZで発表したあともいくつかの雑誌やWEB媒体などで取材を受け、紹介させてもらったりしました。そして、そういう機会に、まだやったことのない新しい食材やお酒、蒸しかたを試してみると、まだまだ新しい発見があるんですよね。

そこで、ここらでその技術を体系立ててまとめ、酒蒸し法に決着をつけてやりたいと思ったのです。

具体的には、

・日本酒以外に酒蒸しに使って美味しいお酒は?
・酒蒸し法のベストな火加減は?

この2点をじっくりと検証してみようかと。

というわけで、酒蒸し法、いよいよ最終章です。

いろんなお酒で蒸し比べ

まずは「日本酒以外に酒蒸しに使って美味しいお酒は?」の件。

世の中には無数のお酒があり、それをかたっぱしから検証していくには時間が必要すぎます。そこでまず、コンビニやスーパーでも比較的手に入りやすい9種類のお酒を買ってきてみました。

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紹興酒 / ビール / ストゼロ / 大吟醸酒 / 甲類焼酎 / 芋焼酎 / 赤ワイン / 白ワイン / ウイスキー
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準備完了

1:鶏の大吟醸蒸し

公正を期すため、検証はすべて同じ条件で行います。

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こんな感じで

小さめのフライパンに塩をふった鶏もも肉2片を入れ、6ぶんめくらいまでのお酒を注ぐ

中火で酒を沸騰させ、水分量が半分くらいになったら肉の上下をひっくりかえす

水分がおよそなくなったら完成

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「鶏の大吟醸蒸し」

さっき前提で「日本酒以外に」と書きましたが、その前にひとつ試してみたかったのが、普通酒じゃなくて、もっといい酒だったらどうなんだろう? ということ。そこで吟醸酒を用意。蒸す前にちょっぴり試飲してみたところ、フルーティーさもあるけど決して甘すぎず、どっしりとした旨味もある僕好みの酒。

で、これを使って調理してみたところ、やっぱりうまいな~、酒蒸しは! ふんわりと柔らかくて、旨味が濃くて。個人的な好み度合いは、文句なしの満点星5つです。

ただ、これまでに何度も作ってきた安酒を使った酒蒸しも、同じくらい美味しかった気がする。いい肉を使う意味があることは以前に実証されていますが、いい酒を使う意味は、あんまりないのかもしれないなー。

好み度 ★★★★★

2:鶏の甲類焼酎蒸し 

実はですね、以前これを試してみたら、仕上がりが、日本酒以上にものすご~く柔らかくなったんですよ。それをあらためて確認しておきたかった。使ったのは、クセがないので割りものなどによく使われる甲類焼酎のスタンダード、宝焼酎の25度です。

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「鶏の甲類焼酎蒸し」

うわ、やっぱりだ! めっちゃくちゃ柔らかい。極端な話、肉を乗せた皿をゆするとプリンのようにぷるぷる揺れます。これは一度体験してみてほしい物珍しさ。慎重に口に運ぶと、ほろっと崩れて繊維に沿って分解されていく感じで、もはや「歯」なんて一切いりません。

ただ、旨味自体は鶏のままというか、かなりあっさりしてるんだよな。日本酒のような味のブースト感がまったくない。とくれば、次は芋焼酎を試してみますか。

好み度:★★★★☆

3:鶏の芋焼酎蒸し 

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「鶏の芋焼酎蒸し」

蒸してる最中、部屋中に芋焼酎のお湯割りの香りが充満してたまらない気持ちになりました。

で、食感はやっぱりふわっふわ。どうやら、焼酎のほうが肉を柔らかくする力は強いようですね。専門的なことはわかんないけど。

味は、甲類焼酎と比べ、ほのかな芋くささがきちんとアクセントになっている。嫌いじゃない。けど、クセは強いので、人によって好き嫌いがはっきりしそう。となるとですよ? もしかして、酒蒸しには「米焼酎」が最適って可能性ある?(後半、試します!)

好み度:★★★★☆

4:鶏のビール蒸し

肉の煮汁にビールを加えて煮込むカルチャーってありますよね? 期待値高いです。が、ビールだけで肉を蒸すと、

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とりあえずすごい泡が出る

やむなく途中で火加減の調整が必要になり、ちょっと面倒でした。もっと深いフライパンや鍋なら問題ないのかもですが。

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そして最後、麦芽やホップの成分のせいか、勝手に照り焼き風に
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「鶏のビール蒸し」

これが意外にも、そこまでグンと柔らかさが増すって感じはない。そして、コクがあって大人好みの味だとは思うんですが、はっきりと苦い。あまり酒蒸し向きではないお酒な気がするな。ビールは。

好み度★★★☆☆

5:鶏のストゼロ蒸し

昨今、我々庶民にとってもっとも身近なお酒ともいえる缶チューハイも、ひとつくらいは試しておきましょうか。となれば、世界で一番売れててギネスにも載ったらしい「ストロングゼロ」を。味はプレーンな「ドライ」を選びましたが、ストゼロのドライって、レモン、ライム、グレープフルーツと、実はけっこう柑橘系の味が入ってるんですよね。そのあたりの影響がどう出るか?

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一見、ちょっとダメなキッチンドリンカーの日常

しかし、その写真の真実を知ったあなたは戦慄を覚えることとなるだろう……。

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なんとこの男、鶏肉をストロングゼロで蒸していた!

ギャー!!!

なんて茶番を繰り広げてるのはなぜかというと、理由はまったくわからないんですが、他のお酒に比べて、このストゼロ蒸しだけやたらと時間がかかるんです。これまでの他のお酒の蒸し時間は、示し合わせたように6:40前後だったのですが、ストゼロは、水気が飛ぶまで10:30かかりました。

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このジュワジュワがなかなか消えない

なぜ?

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「鶏のストゼロ蒸し」

甘味料が煮詰まって焦げたせいか、見た目はこれまででいちばん美味しそう。気になるお味のほうはというと、あれ? 肉が柔らかくない。むしろちょっと硬い。で、やっぱりどこか科学的な香りや、後味に妙なすっぱさを感じます。まぁ、レモンをかけたから揚げを思い出せば食べられないこともないですが、またやることはないかなぁ……。

好み度★☆☆☆☆

6:鶏の紹興酒蒸し

紹興酒を料理に使うのは中華の定番ですし、これは間違いないでしょう!

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途中経過が完全に料理

火にかけるとすぐに香ばしい香りがただよいはじめ、絶対にうまいと予感させます。瓶の原材料を見てみると、「もち米、麦麹(小麦を含む)、カラメル色素」と、よけいなものが入ってないのも安心感ある。

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「鶏の紹興酒蒸し」

見てくださいこの、時間と手間ひまを惜しみなくかけて作られた料理のような見た目。火にかけて酒をかけて、ただほっといただけですからね?

香ばしくて、味に深みがあって、紹興酒の香りが大人っぽいアクセントになっています。ご飯がもりもりすすむというよりは、お酒のつまみ的な味。うまい!

ただこれは、酒蒸しっていうかもはや、「紹興酒蒸し」という料理ですね。

好み度★★★★★

7:鶏のウイスキー蒸し

お次は仕上がりが予想できなすぎるウイスキー。ウイスキー自体にさまざまな方向性の味のものがあるんですが、今回は、お手頃でありながらスモーキーな風味がきちんとあるブレンデッド「ティーチャーズ」を使ってみました。

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「鶏のウイスキー蒸し」

これは、う、う、うまいー!!!

さっきの紹興酒ほど主張は強くないんですが、ほんのりとした穀物の香りとスモーキーさがたまらない。そして、その香りのその余韻が長い。すごく酒くさいかというと、ぜんぜんそんなことない。とんでもないごちそう!

これも好き嫌いはわかれるのかもしれませんが、僕は好きすぎました。必ずまた作る。

好み度★★★★★ + ★(←すみません、気持ちが星5つにおさまりませんでした)
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お酒の種類を追加します

さて、次のワインにとりかかろうとしたところ、問題が発覚。何気なく買ったこの「Rela」というワイン、ものすご~く甘くて、まるでジュースのようです。調べてみたら、アサヒビールさんが、そういうライトで飲みやすい味わいになるよう開発した商品のようで、お酒としてはもちろん美味しいんですが、これを一般的なワインとすのはちょっと違う。

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糖分が高いためか、てりってりになった鶏の「Rela白」蒸し

そこで、赤白のワインを買いなおし、かつ、さっき新たに試したくなった「米焼酎」も買ってきてみました。あと、火加減による違いも確かめたいので、パックの日本酒も。

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家の酒ストックが潤沢になって嬉しい

では引き続き、蒸し比べていきましょ~!

8:鶏の米焼酎蒸し

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「鶏の米焼酎蒸し」

米焼酎ってそんなに飲む機会多くないんですが、ピリッとした焼酎感のあとに、米由来の旨味が広がるような、美味しいお酒ですね。

で、これで鶏を蒸してみたところ、やっぱりめちゃくちゃ柔らかくて、ぷりっぷりになります。米っぽい旨味もある気がする。あと、鶏本来の旨味をすごくしっかりと感じる。じゃあ日本酒酒と比べてどうだ? ……正直、もうあんまり厳密な差がわからなくなってきました。とにかく、うまい!

米焼酎をなんらかの理由で早めに消費してしまいたい方にはおすすめですが、普段使いならば安い日本酒でじゅうぶん、って感じでしょうか。

好み度★★★★★

9:鶏の赤ワイン蒸し

続いて赤ワイン。鶏肉を入れて火にかけはじめてすぐ、

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不穏な色に……
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独特すぎる見た目……

実は僕、前に日清の「カレーメシ」をいろんな液体で作ってみるっていう実験を思いつき、いきなり赤ワインで試してみたところ、マズすぎてトラウマになったという思い出があるんですよね。あ、その件ならもちろん、どこにも発表せずお蔵入りですよ。

この色、あの記憶がよみがえってきて不安になるな~。

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「鶏の赤ワイン蒸し」

ところが完成してみると、ものすっごく手のこんだ肉料理のような、とてもいい香りがします。よし、思いきって食べてみるか……。もぐもぐもぐ……あれ? うまい! 肉は柔らかく、適度な甘酸っぱさがあり、主張しすぎない程度に良いブドウの香りがする。若干のタンニン由来の渋みのようなものは好き嫌いがわかれるポイントになりそうですが、僕は好き。

これは星4か5で迷うところですね。限りなく5寄りの4かなぁ。厳密にいえば4.5だな。ただ、ここにバターとか足したらいきなり8くらいになる気もしますね。もはや星5つの概念崩壊してるけど。

好み度★★★★☆

10:鶏の白ワイン蒸し 

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「鶏の白ワイン蒸し」

赤ワインと比べると途中経過になんの不安もなく、ただただ美味しそう。そして実際に美味しい。肉はかなり柔らかくなりますね。そして鶏の旨味がきちんと引き出されている。ここまでは普通の酒蒸しと同じですが、白ワインの、お酢とはまた違った爽やかな酸味がとてもいいアクセント。赤よりさらにほんの少し好きかも。厳密には4.75かな。

好み度★★★★★

同じ日本酒でも、火加減の違いによって驚きの結果が! 

以前、とある雑誌の企画で酒蒸しをあれこれ検証してみていたところ、同じ日本酒でも、火加減を最初から最後まで弱火にするか、それとも強火にするかで、仕上がりがまったく変わることがわかったんですよね。その結果もあらためてまとめておきたい。

というわけでここからは、火加減による蒸しあがりの違いを検証していきます。

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「鶏の酒蒸し ~強火~」

鶏に塩をふって6ぶんめくらいまで日本酒を注ぐという基本形。それを、水気が飛ぶまで最初から最後まで強火にかける。かかった時間は5分。

いつもの中火に比べ、肉にぷりぷりと弾力がありますね。それから、火力のせいでどうしてもフライパンの周囲が焦げることにより、ちょっと照り焼きっぽい見た目になってます。全体的にちょっと荒々しいと言うか、若い味に感じるかな。いや、じゅうぶん美味しいんですけども。

好み度★★★☆☆
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「鶏の酒蒸し ~中火~」

いっつもやってる方法です。きっちり平均値の、6:40で蒸しあがりました。

やっぱり旨味がぐっと持ち上がっていて、明らかに強火のときと違う。食感も、ふわふわとぷりぷりのいいとこどりというか、ちょうどよく絶妙。

そして今気がついたんですが、アサリの酒蒸しにちょっと味が似てる。つまり、酒蒸しの魅力って、シンプルに「素材×酒」の旨味の相乗効果なんですよね。それが貝か鶏かの違いなだけであって、そのことがよくわかる。

好み度★★★★★
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「鶏の酒蒸し ~弱火~」

実はですね、これが別次元! 見た目からしてすでに違いません? この、CGのようなてり!

今まであんなに満足していたオーソドックス酒蒸し。そこから、ただ火加減を変えただけで、こんなにも飛躍するのびしろがあったのかっていう衝撃度です。

旨味のなかになぜか麹のような深みが感じられるし、食感は柔らかいを通り越して、とろっとろ。もはや家庭料理の域を超えた、高級料亭の味。時間をかけただけある、官能的なまでの美味しさです。

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ちなみに約20分かかりました

って、よく考えたら20分ほっとくだけって、大した手間でもないか。ちょっと気持ちに余裕がある日にぜひ、お試しいただきたい一品です。

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最後に寄っときますか
好み度★★★★★ + ★

これにて長く続けてきた酒蒸し法の研究もひと段落。

と、思ってたんですけど、じゃあ他の食材を弱火蒸しするとどうなのか? 焼酎蒸しにあれこれ調味料を足すとどうなのか? 奮発してシングルモルトで蒸したらどうなのか? 赤ワイン蒸しにバターを足したらどうなのか? 試せば試すほどその深淵が見えなくなる、酒蒸し道。

忘れた頃に「シン・酒蒸し」の記事でまた、お会いしましょう。

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