新しい風景もすぐ日常になる
「新しい建物ができてしまうとあっけなくその風景が日常になる。前まで何だったのかを忘れてしまうぐらい。」と以前の記事で書いた。
実際に「その後」を見に行くと、新しい建物は風景になじんでいて、以前の風景と同じ場所ということが信じられないくらいだった。「慣れる力」みたいなものを感じた。
再開発直前の独特の風景の町をめぐる「早くしないと再開発されちゃう町めぐり」という記事を以前書いた。あれから8年たち、予定では再開発は終わったらしい。現在はどうなっているのか、当時のようすと比べてみた。
8年前、中央区の湊では「湊二丁目東地区第一種市街地再開発事業」という名前の再開発が行われていた。
その工事が始まる直前のようすが印象的だった。建物は少しづつ歯抜けになり、古びた建物が一人ぼっちで立っているようにみえる。
その工事が一昨年くらいに終わったという。再開発というのは、いったん工事が終わってしまうと前のようすを忘れてしまいがちだ。現在のようすを見に行って、再開発前の景色と比べてみることにした。
(これ以降、分かりやすいように昔の写真は周りをオレンジ色で囲みます。)
まずここは再開発地区の入口だ。当時と同じ位置から同じアングルで写真を撮ってみた。
左奥に見える地区の景色がすっかり変わっているのがここからもう分かる。
当時は駐車場のようになっていた場所が、いまではマンションになっていた。
風景が様変わりしていて、当時と同じ場所を見つけるのが本当に難しかった。唯一、画面右端のマンションが変わらず残っていて助かった。各階についた赤い点が特徴的で、前後の写真で同じ場所にあるのが分かると思う。その他はまったく変わっている。
目の前のマンションは「再開発前」の写真の3年後に着工し、2年前から入居開始だそうだ。出来立て。
ここも印象的な場所だった。ぽつんと建物が残り、さみしさを醸し出していた。
それがいまでは立派なマンションに変わった。本当は右端に止まっている車のあたりが当時の写真の位置のようで、若干間違えました。
ここも様変わりしているが、左下のトリコロールのようなお店が変わらず残っていて、かろうじて同じ場所だと分かる。以前はツタが建物に自然に巻きついていたが、現在では設えられた植栽が同じ場所にある。
写真の右半分だけを見て、同じ場所だと思うのは無理だろう。
これも同じ場所と信じるのが難しい。前後の写真でどこかが同じなのだ。見つかるだろうか。
正解は奥にある瓦屋根の茶色い家。
こういうきっかけがない限り、景色からでは同じ場所を同定することはほとんどできない。新しくできた建物自体が目隠しとなって、遠景を比べることも難しくなる。「間違い探し」の逆で、「同じもの探し」が必要だ。
とはいえあれから8年経っているわけだし、親戚の子が急に中学生になるようなもので、順当な変化なのかもしれない。本当か?
当時、日本橋の高島屋の裏では、一本の風情あふれる道が廃道になろうとしていた。そのときのようすだ。
中央通りという派手な大通りの脇にこういう道が残っていて驚いたものだが、ここも「日本橋二丁目地区第一種市街地再開発事業」によって、道と建物を含む一帯が再開発されることになった。現在はどうなっただろうか。
現地を見に行くとこんなふうになっており、渋い道のあった場所は高島屋の新館になっていた。これは相当キラキラなことになっているだろう。
なるほどなるほどー。
昭和の飲み屋街はデパートの通路になり、奥のほうに見えていたビルもすっかり完成していた。ここも様変わりというほかない。
当時、この道を潰さないでという意味の「廃道、再開発反対」という看板がよく見られた。ここに住む人たち、働く人たちにとっては便利な道だったのだろう。
この場所はどうなったか。
むちゃくちゃきれいになった。以前からこうでしたよ、という風格だ。
どこを見ても日本橋のデパートという風情で、たいへんきれいだ。この通路を歩いている人に昔の風景を見せたらきっと驚くに違いない。
ここでは、もともと車道だった道が歩行者専用の道になった。屋根もできていい感じ。歩道が増えるのは純粋にうれしい。
古いものを壊して新しいものを作るからにはいいものにしたいと、作っている人も思っているに違いない。
8年前の記事では、オリンピックのために取り壊されるという団地も見に行った。都営霞ヶ丘アパートという。
花壇に住民の手が入り、小さな林のようになっていた。ここが競技場の関連施設になるという。現在のようすを見に行った。
なんとまだ工事中だった。オリンピックは去年の予定だったのに。
おそらく開催の延期が決まったあと、工事自体も延期されていたのだろう。よくみると関係者と思われる人がたくさん中にいる。情勢を見つつ進めているのだろうか。
オリンピックのために団地を追い出されてしまった住人の人たちも大変だし、正直どうなるか分からない状況の中でも予定どおり進めるしかない工事関係者の人たちも大変だろうと思う。
「新しい建物ができてしまうとあっけなくその風景が日常になる。前まで何だったのかを忘れてしまうぐらい。」と以前の記事で書いた。
実際に「その後」を見に行くと、新しい建物は風景になじんでいて、以前の風景と同じ場所ということが信じられないくらいだった。「慣れる力」みたいなものを感じた。
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