特集 2018年12月10日

路線図をゼロから作り直してデザインを学ぶ授業

作った路線図を貼りだして発表します

路線図マニアなので、「高輪ゲートウェイ駅」が今の路線図にどう組み込まれるか気が気でない。

駅や路線など、いろいろな制限なのなかで、わかりやすくデザインするのって大変だ。どこかで教えてたりするのかな。

あるのだ。教えているところが。千葉大学に路線図でデザインを学ぶ講義があるという。

その講義では、路線図を教材として扱うだけでなく、既存の路線図を自分の手で作り替えるという。ネットでよく言うところの「オレの考えた最強の路線図」ではないか。

路線図好きとしてぜひ見てみたい。講義におじゃました。

1975年宮城県生まれ。元SEでフリーライターというインドア経歴だが、人前でしゃべる場面で緊張しない生態を持つ。主な賞罰はケータイ大喜利レジェンド。路線図が好き。

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路線図で「コミュニケーションデザイン」を学ぶ

というわけで千葉大学にやってきた。正確には千葉大学工学部。最寄りはJR西千葉駅である。

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門の前で待っていたら歩道をテレビクルーが通り過ぎていった。『月曜からよふかし』の総武線ロケだろうか。
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「コミュニケーションデザインⅣ」講義を担当する大森正樹さん。大学教授ではなく、鉄道会社JR西日本の方である。なぜ鉄道会社JRの人が大学で?というのは後ほど。

ひとくちに「デザイン」と言ってもいろいろある。

図形とか模様とかに限らず、建築も衣服もWebも工業製品もみんなデザインだ。「私もサザエさん、あなたもサザエさん」みたいなものである。

で、この講義で学ぶのは「コミュニケーションデザイン」。ははぁコミュニケーションのデザインですね……と、うっかり知ったかぶりしてしまうが、ちゃんと聞いてみよう。なんですかコミュニケーションデザインって。

「そうですね……たとえば、1985年に阪神タイガースがリーグ優勝しましたよね」

大森さんは熱狂的な阪神タイガースファンである。野球をよく知らないちびっ子たちもここは黙ってうなずいておこう。

「道頓堀にカーネル・サンダースの人形が投げ込まれたりして、それはもう大騒ぎでした。それから7年後、阪神は1992年に再び優勝争いに加わります。すると、大阪中の看板や人形たちが足かせをはめられ、地面や店舗にしっかり固定されたんです」

「うちのもんまで道頓堀に投げ込まれてはかなわん」ってことですね。

「でも、あの有名な『食いだおれ人形』は固定せず、代わりに吹き出しをつけて一言しゃべらせたんです。なんて言わせたと思います?」

なんでしょう。「やめてください」的な……?

「『わて泳げまへんねん』って言わせたんです。泳げへんならしゃあないわ、と投げ込まれず済んだんですね。一方的にダメですと言うのではなく、相手に心からの納得感があるかたちで伝える、それが理想的なコミュニケーションデザインです。相手の立場に立ってわかりやすく伝えることにより、デザインで問題を解決できる。これは路線図のデザインにも言えるんです」

電車に乗るのに、路線網が複雑だったり、乗換がわかりにくかったりすることもあるだろう。じゃぁわかりやすくするために、駅や路線を一旦壊して作り直します! というシムシティみたいな力業は普通やらない。

駅のサインや路線図など、デザインの力でわかりやすくする=問題を解決する、というわけだ。路線図を教材にコミュニケーションデザインを学ぶ意味がここにある。

なんとかしたい路線図をなんとかしてみる

この日は全6回ある講義の最終日。学生さんたちによる最終プレゼンが行われた。

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学ぶんでいるのはデザイン学科3年生を中心としたのみなさん。全部で40名ほど。

講義では、交通デザインの基礎を学ぶほかに、課題も出る。

課題はざっくり言うと、「好きな路線図と、なんとかしたい路線図を見つける」、「なぜそう思ったのか分析する」、そして「なんとかしたい路線図をデザインの力でなんとかする」。

つまり、最終プレゼンのこの日は、みんなが「なんとかした路線図」を持ち寄る日なのだ。オンリーワンの路線図である。路線図マニアとしてこんなに興奮することはあるまい。

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申し遅れましたが、同じ路線図好きのライター西村さんももちろん取材に同行しています。
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教室の後ろに貼り出して発表するスタイル。遠目から見て「あれはミラノ地下鉄……」とか静かに興奮していました。

学生さんのひとりが取り上げたのは、埼玉県を走る秩父鉄道の路線図。

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秩父鉄道の路線図。水色の線が秩父鉄道で、白黒の線がJRなどの他社の路線。

確かになんとかしたくなる気持ちはわかる。路線図マニア的には味があっていいのだけど、ちょっと見づらいところもある。路線図マニア的には味があっていいのだけど(2回目)

この路線図を学生さんがデザインし直したものがこちら。

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ニュー秩父鉄道路線図。

めちゃくちゃスタイリッシュ……! このまま採用されてもおかしくないクオリティ。ずいぶん変わるものである。街ですれ違っても気がつかないだろう。同窓会で再会してハッとするレベルだ。

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「どうしてこういうデザインにしたのか」もちゃんと説明します。スマホに書いたメモをカンペにしてしゃべっている人がいて「時代…!」と思った。

デザインし直すといっても、勝手気ままに作っていいわけではない。事前に大森さんが設けたガイドラインがある。「線の角度を統一する」「ラインと文字を重ねない」「線路の配線通りに表現する」など、わかりやすくするためのポリシーがあるのだ。

さっきの秩父鉄道もスタイリッシュなだけじゃなくて、斜線の角度が45度で揃っていたり、秩父鉄道を実際の地形に沿って曲げたりしている。なるほどわかりやすい。

学生さんの手にかかると、東京と神奈川を結ぶ東急電鉄の路線図もこうなってしまう。

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ビフォー。言われてみれば線の角度が統一されてなかったり、ラインに文字がかかっていたりする。
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アフター。線が細くなってすっきり!

渋谷を中心に、放射状&同心円状に路線が広がっている。こういう観点からの「角度の統一」もあるのだ。東急グループ的にも渋谷が中心なのは理にかなっている気もする(ヒカリエとか)

大森さんによると「東急電鉄と名古屋地下鉄は取り上げる人が多い」という。なんとかしたい気持ちを高ぶらせるなにかがあるのだろう。別の学生さんが描いた東急電鉄を見てみると……

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原作に近い形を保ちつつ、駅名の角度を揃えたタイプ
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他社線もきっちり縦・横・斜め45度に揃えたタイプ

地味な変化ではあるが、学生さんそれぞれで「こうすればわかりやすい」という視点が異なるため、違った路線図がどんどん出てくる。

どれも同じ路線のことを描いているのに、デザインのアプローチはひとつじゃない。同じ話を演じているのに落語家によって演出が違う、みたいなものである。

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4つとも学生さんが作った名古屋地下鉄の路線図(右下は私鉄含む)。川を足したり傾けたり、全然アプローチが違う。
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どんどん見ていこう。京都市交通局。左がビフォー、右がアフター。地下鉄の駅名を太字にして目立たせている。山や川、ランドマークの情報は、地形との位置関係をつかみやすくする工夫。
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多摩モノレール。多摩センター駅(オレンジ)から、上北台駅(緑)への特徴的なグラデーションはそのままに、装飾を削ぎ下ろしてフラットに。JR立川駅からの乗り換えもわかりやすい。
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りんかい線。左のビフォーは、スペースの都合からか埼京線の池袋-板橋間がぐるっと迂回して異常に空いている。そこで右のアフターは視点を斜め上からにし、川を使って遠近感をつけることで解決!西村さんと「いいですねぇ……」と讃えていました。

ずっと眺めていたいが、そろそろあの疑問に戻ろう。鉄道会社の方が、どうして千葉大学で教鞭を執っているのか? しかも大森さんのお仕事は、車両の設計が専門なのだ。

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「大阪から通うのも大変なんですよー」「ですよねー」

 

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