特集 2023年6月22日

駅の構内図は全国の主婦の皆さんの力で生み出されている

駅の改札で待ち合わせをした。でも、あとから「あの駅って改札ひとつだっけ……?」となった。

そんなとき駅名で検索すると、鉄道会社が駅の構内図を用意してくれていることがある。やばい南改札だって伝えなきゃ、って気づけてありがたい。

あの構内図を、全国2000駅以上手がけている会社がある。

1975年宮城県生まれ。元SEでフリーライターというインドア経歴だが、人前でしゃべる場面で緊張しない生態を持つ。主な賞罰はケータイ大喜利レジェンド。路線図が好き。(動画インタビュー)

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駅構内図の最大の目的とは

駅の構内図ってどんなのだっけ?という人もいるかもしれない。でも絶対見たことあると思うんですよ。こういうやつです。

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こんな感じで、立体的に駅の構造を教えてくれる図があるじゃないですか。ちなみにこれは小田急電鉄の参宮橋駅

この駅構内図を、JR各社はじめ東京メトロに都営地下鉄、小田急、京王、西武、東武、京成、名鉄、近鉄、南海ほかもろもろ手がけているのが株式会社ナビットである。

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取締役の岡崎さん(右)、デザイナー課 課長の田中さん(左)にお話をうかがいました。

僕は路線図が好きで、鉄道会社のサイトを見る機会がそこそこあるのだけど、駅構内図もなかなかに見どころ満載だなぁと常々思っていた。斜め上から見下ろす構図で、複雑な構内を立体的に整理するなんてすごい。カッコいい。

でも、鉄道会社各社が駅構内図を作るのは、「駅をカッコよく見せるため」ではない。最大の目的は「バリアフリーのため」である。

岡崎さん 私たちは、主に鉄道会社のサイトに掲載する駅構内図を制作しています。障がい者の方や、ベビーカーで出かける方が、事前にホームまでの順路を確認できるように描いているんです。
 

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西武鉄道 桜台駅。「赤い点線がバリアフリーのルートです。これをたどれば、車いすの方でもホームまでたどりつけるように作図しています」(岡崎さん)

バリアフリーが最大の目的なため、駅構内図はどんな人にも分かりやい存在でないといけない。

たとえば、トイレやエレベーターなどを示すアイコン。鉄道各社でバラバラのものを使うと「これなんだ?」というのも出てきちゃう。

なので、一般的な設備のアイコンについては、標準案内用図記号ガイドライン(交通エコロジー・モビリティ財団)というのが決まっていたりする。トイレのアイコンで個性を出す必要ないですもんね。

田中さん どの情報を載せのるかは鉄道会社によって異なるので、「こどもトイレ」などサービスによってはアイコンを新規で作ることもあります。コンビニや宅配ボックスなどは、その会社からロゴを提供してもらうこともありますね。

そして、「見た目のデフォルメ」も駅構内図の大事なノウハウなのだという。たとえばこちら。

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東武鉄道 下板橋駅。ホームが2つありますが……

田中さん これをリアルに描くと、ものすごくホームが長くなるんです(笑)。お客様が知りたいのは改札近辺の情報なので、あえてホームを省略しています。こうしたデフォルメは結構やってますね。

駅の階層が分かれている場合、フロアを離して描くために、あえて階段やエスカレーターを伸ばすこともあるそう。言われてみれば「めっちゃ急で長い階段だなぁ」っていうのある!

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京成電鉄 青砥駅。階段やエスカレーターがものすごく長い……けど、これもデフォルメ。フロア同士が重ならないように、駅ごとに階層の高さを調整している。

駅構内図は必ずしもリアルである必要はなく、「こことここがつながっているよ」という概念を示すためのもの。

どうすれば分かりやすくなるかは、駅の構造によって毎回異なる。駅の構造が複雑になるほど、デフォルメの腕の見せどころだ。

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近鉄電車 大阪阿部野橋駅。ピンクの部分がホームだけど、本当はここまでホーム同士の間隔はあいていない。下のフロアが見えるように、あえて間隔を広げて描いているそう。
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南海電鉄 極楽橋駅。ケーブルカーでつながっている高野山駅も含めて1枚に納める! これも概念のマジック。

「どんな人にも」分かりやすくするためには、さらなる配慮が必要になることも。

田中さん 横浜市営地下鉄などは、「カラーユニバーサルデザイン」に対応しています。色弱者の方でも色の見分けがつけられるような配色にしてるんですよ。

岡崎さん 京成電鉄や東京モノレールなど、空港とつながる路線は早くから英語版、韓国語版、中国語版といった多言語対応をしていますね。特に英語版は文字数が増えてしまうので、デザインそのものを調整することも多いです。

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横浜市営地下鉄ブルーライン 上大岡駅。ピンクや青の配色はユニバーサルデザイン対応のため。横浜市営地下鉄は路線図もカラーユニバーサルデザイン対応しています。
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先ほども登場した京成電鉄 青砥駅の英語版。確かに文字数が多くて大変。

ちなみに、ナビットは多言語対応のために、Adobe Illustratorのプラグインを自社開発し、特許まで取得したそう。「精度を上げるためですね」と岡崎さんは言う。もうそこまでやっちゃうのだ。

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三次元→二次元→三次元→二次元

さて、こうした駅構内図はどうやって作っているのか。

やっぱり鉄道会社から図面をもらったりするんですか?と聞いてみると「新駅などは図面を提供してもらうこともありますが、ほとんど現地調査ですね」という

田中さん 図面で階段やエスカレーターの位置はわかりますが、どんな設備がどこにあるかまではわかりません。実際の駅の情報を得るため、主婦の皆さんに実際に駅を調査してもらっています。

駅は一回完成したら終わりではない。トイレが移設したり、コインロッカーができたり、売店がなくなったり、年月が経つとその姿を変えていく。

だから「今どうなっているか」が大事なのだという。図はデフォルメだけど、情報はリアルじゃないといけない。

田中さん 時代とともに駅の設備も変わっていくんですね。最近だと、公衆電話や券売機の数が減ったり、逆にAEDや授乳室の数が増えていたり。なので、年1回はアップデートのためにすべての駅を調査し直しています。

現地調査の際は、さまざまな角度から駅構内の写真を撮るのだとか。

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こんな感じの写真をいっぱい撮る(これは僕が九段下駅で撮ったもの)

田中さん 乗車位置やエレベーターなど、全体の位置関係がわかるように、引いたアングルで何枚も写真を撮るんです。そのあと「この写真はどこからどの向きで撮った」という情報を加えた調査書を作り、デザイナーに渡します。

岡崎さん ターミナル駅になると調査も大変ですね。東京駅クラスになると、調査に1ヵ月ほどかかりますから。渋谷駅なんかは工事の期間が長くて、調査が終わるころにまた変わってましたし(笑)

社内には4人のデザイナーがおり、デザインは全て内製。調査書の情報を突き合わせ、さっきのデフォルメも加えながら、駅構内図を仕上げていく。

つまり、三次元(駅)のものを二次元(調査書)にして、そこから三次元(駅)を想像し、二次元(駅構内図)で描くわけである。た、大変だ。

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ちなみに岡崎さんはデザイナー出身。「デザインチームが忙しいときは、たまにヘルプに入ってますよ(笑)」

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