特集 2023年6月22日

駅の構内図は全国の主婦の皆さんの力で生み出されている

全国の駅を調査するネットワーク

こうやって全国の駅構内図ができているんですね……って、あれ? そういえばさっき「主婦のみなさんに駅を調査してもらう」って言ってませんでした?

岡崎さん はい。ナビットは「Sohos-Style」という、主婦のネットワークを全国に持っています。ここで協力をお願いして、撮影マニュアルに従って調査をしてもらっているんです。

「Sohos-Style」の会員数は63,400人(2021年11月現在)。東京ドームを主婦で満杯にしても余っちゃうほどの方々の力で、全国の駅構内図ができている。ありがとうございます。

それにしても、なんでそんなに広大な主婦ネットワークがあるのか。そのきっかけは、ナビット代表の福井さんが発明した「のりかえ便利マップ」にある。

ekikounaizu_111.jpg
これですよ「のりかえ便利マップ」。ホームの壁によく貼ってあるアレ!
ekikounaizu_112.jpg
駅ごとに「どの車両で降りたら出口やトイレが近いか」がひと目でわかるようになっている。我が家も子どもが小さいころは、ベビーカーの移動で大変お世話になりました……!
photo.jpg
ここでナビット代表の福井さんが取材に合流。「のりかえ便利マップ」の誕生についてうかがいます。

福井さん きっかけは、駅でベビーカーを押しながら、エレベーターを求めてさまよった経験からなんです。そのときは夏の暑さで子どももぐったりしてしまって、「こういうものがあったらいいのに」と。

当時は専業主婦だった福井さん。このアイデアを形にしようと、なんと営団地下鉄の256駅(当時)を5ヵ月かけて1人で調べあげた。

ekikounaizu_114.JPG
実際に調査で使ったノート。駅出口の情報を写真に撮り、すべて手書きで書き写した。「これを本にしてもらおうと出版社に売り込んだんですが、全然ダメで」(福井さん)
ekikounaizu_115.JPG
「もっと分かりやすいものにしたら話を聞いてくれるというので、縦軸を駅、横軸を車両番号にして、方眼紙に色鉛筆でまとめたのが最初です」(福井さん)。これが「のりかえ便利マップ」のオリジナル……!

こうして「のりかえ便利マップ」はアルバイト情報誌や『ぴあマップ』で採用され、手帳にも掲載が決まる。取引相手に「法人じゃないと……」と言われたので、自宅の2階で起業。ここまで約1年。すごいスピード感。

で、最初は名古屋や大阪の駅も1人で調査してきた福井さんだったが、さすがにそろそろ限界がきた。そんなときである。

福井さん 手帳を作っているとき、地下鉄にパンタグラフがついた、かわいいイラストを表紙にしたんです。そうしたら「地下鉄にパンタグラフはない」と会社に乗りこんできた人がいて。

聞けば、某大学の鉄道研究会の学生さんだという。あれこれ話しても、なかなか帰ってもらえない。困ったな。

あ!そうだ。こんなに詳しいなら、この人に鉄道の調査をお願いしたらいいんじゃない?

福井さん お願いしたら、すごいクオリティのものを作ってくれたんですよ。これだ!と思って、全国の大学に片っぱしから電話をして、鉄道研究会があるか聞いて、部室宛てに「調査しませんか」と案内を出して……。必要なら部室にも行きましたね。

ekikounaizu_116.JPG
「会社に乗りこんできた人に仕事を依頼するなんてスゴすぎませんか」「この人を敵に回したら怖いなって思ったんですよね……」

こうして福井さんは、たった1人で全国の鉄道マニアのネットワークを作ってしまった。

乗り換えも駅構内図も、鉄ちゃん情報なら安心である。1998年には営団地下鉄で「のりかえ便利マップ」が採用され、「全国の鉄道調査ができるらしいぞ」と仕事もどんどん増えてきた。だが……。

福井さん 出版社からデパ地下の調査を頼まれたんですけど、興味が無いからやってくれないんですよ(笑)。それなら主婦の方にお願いしようと思って。

こうしてできたのが「Sohos-Style」なのであった。

今や「Sohos-Style」は駅の情報だけでなく、生活情報や1000人アンケートなど、主婦パワーでさまざまなデータを提供するビジネスに成長している。これもすべて「乗り換えが不便だな」というスタートから。世の中なにがどうなるかわからない。

いったん広告です

「誰かが調べないといけないんです」

「Sohos-Style」では、さまざまな現地調査を請け負っている。そこで得たデータ、実はめちゃくちゃ身近なところで使われているのだ。

たとえばGoogleマップに乗換案内があるじゃないですか。あれもナビットのデータを使っているんですって。

岡崎さん 乗車位置などは「のりかえ便利マップ」のデータをそのまま提供していますね。ホームに降りてから階段まで、歩いて何秒かかるのかも乗車位置ごとにデータ化しています。現地調査は結構大変なんですけど(笑)

ekikounaizu_122.png
ナビットでは駅出口の座標データも提供している。「何番出口から出て……」と目的地にたどり着けるのも、現地調査に携わった主婦のみなさんのおかげ……!

データだけでなく、駅構内図も鉄道会社に限らず幅広く提供。大学が発行するマップや、珍しいところでは「国会手帳」にも採用されている。

ekikounaizu_118.jpg
国会議員などが持つ国会手帳。「溜池山王駅」「国会議事堂前駅」「永田町駅」の3駅の構内図が載っている。もちろんバリアフリールートも記載(画像提供 ナビット)

こんなにデータを持っていて、これから先どうするんですかと聞いてみると「いまはバスですね」という答えが返ってきた。

岡崎さん バス停の位置情報、系統名、停車順なども~データを提供しています。全国の整備はもう少し駅の数十倍の労力がかかります…。

福井さん 終わりがないんですよ。1年のうち限られた期間しか運行していなかったり、朝と夜しか走ってなかったり……。

岡崎さん 自治体のコミュニティバスだと「鈴木家前」みたいなバス停までありますから。

福井さん だから、やっぱり誰かが現地に行って調べないといけないんです。アナログですけどね。


「見てきた人」がいてくれるから

僕らが生きている現実世界の情報は、そのままネットの世界に反映されているわけではない。営業時間を信じてラーメンを食べに行ったら閉店してたりして、「実際と違うぞ」みたいなことはよくある。

僕がラーメンを食べられないくらいならまだいい。バリアフリーの情報なんて、もっと大事だ。「エレベーターがあるって書いてあったのになかった」なんて一大事だろう、

そんなことがないように、現実とネットのあいだの「バリア」も取り払おうとしてくれる人たちがいる。これから乗り換えを調べたり、駅構内図を見るたびに、そのことが頭をよぎると思うのだ。

ekikounaizu_119.JPG
ナビットさんは路線図も作っているので、取材では「高輪ゲートウェイが追加されたときは大変だった」という話で盛り上がりました。


取材協力:株式会社ナビット

<もどる ▽デイリーポータルZトップへ
20240626banner.jpg
傑作選!シャツ!袋状の便利な布(取っ手付き)買って応援してよう

 

デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」がとどきます!

→→→  ←←←

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ