「事故って撮影むりです」
後転の練習をする記事が書きたくなって同僚に撮影役を依頼した。
動きのある記事のときは自撮りや三脚撮りだといい写真が撮れない。デイリーポータルZの記事はライター周囲の善意で成立しているのだ。
同僚は車で外出していて帰るまでしばらくかかるとのことだった。それまでのんびり過ごせる。
ところが、急に同僚から電話がかかってきた。曰く「あのー!すみません!事故って撮影いけなくなりました!じゃあ、ほんとすみません!」
困った。
……困った、じゃなくて、同僚は大丈夫だろうか。第一報からしばらく経ったあと、迎えに来てほしいというメッセージが届いた。
聞くところによると自損事故で怪我はなく、なんとか自走でホームセンターに車を停めたらしい。高千穂まで帰る足が必要だそうだ。
いいとも、迎えに行きましょう!
そしてぼくはそれをネタにしてロードムービーの記事を書くだろう。いや、ロードサービスムービーといったほうが適切かな。わっはっは。
まともに事故ってた
家から現場までは45分ほど。車を走らせながら道路脇に目をやると、軽めに雪が積もっている。路面凍結によるスリップかもしれないな。
道中では何も起きず、無事に現場近くにたどり着いた。
同僚はうなだれていて、車を見るとバチボコにヘコんでいる。まあまあ。生きててよかったすよ。
詳しく話を聞く
車はアレだけども怪我人はおらず、本人の命もある。これは笑ってあげよう。そのほうがみんなにとっていい。
なにが起きたのか聞いてみたところ、事故の顛末はだいたい以下の通りである。
人生で一度あるかないかの豪快なドライビングである。たまたま前後を走る車がなかったこともあって大事に至らなかったそうだ。
そして車はドナドナのように
駐車しているホームセンターの人が車の様子を見て、修理代にこれくらいかかるかもねと言いながら片手をパーの形に開いた。その手の開きっぷりがテレビショッピングかのように自信たっぷりでおかしい。
薄々気づいていたが、ぼくは他者の不幸がツボかもしれない。
そうこうしているうちにレッカー車の用意が済んで、同僚のN-BOXが運ばれていくことになった。
荷台が持ち上げられるとき、ピーッ!ピーッ!という警告音とベルトコンベアのガタゴト音がポリリズムを奏でた。
ピーッ!ガタ!ピーッ!ゴト!ピーッ!ガタ。
風情のないドナドナである。
焼き肉をおごって終了
そんな可哀想な同僚に、夕食でも奢りますよと声をかけた。
同僚は「コントロールが効かないままガードレールにぶつかって走馬灯を見たとき、日本人として最後は米を食べたいなと思ったんですよ」などという。
なるほど、そんなもんかねと思って車を走らせていると「マックか丸亀製麺がいいですねえ」と同僚がつぶやいた。どっちも小麦粉じゃねえか。
同僚は喜んで肉を食べていた。いいですか、肉はすべてを解決します。そして後転をするつもりだったので私はジャージを着ています。華麗な伏線回収でした。
そういうわけで、冬は車もスリップしやすくなるので気を付けて安全運転でお過ごしください。