信じてもらえたらそれだけで
正直、ここまで読んでもまだ「え〜なんか抵抗あるな」という方が大半だと思うんです。そしてまた、騙されたと思ってぜひやってみて! とも言いません。
が、個人的には、ただおもしろいだけではなくてちゃんと美味しかったので、家に刺身とパンがあったらきっとまた作ってしまうことでしょう。それだけは信じてほしい。
あれこれ材料を持ち寄って、パン寿司パーティーを開催してみるのもいいかもしれないな。誰も参加してくれないかな。
生の魚介類とパン。あんまり聞いたことがない組み合わせだけど、合うんだろうか? 合わないんだろうか?
気になったので、一度先入観をとっぱらい、食べてみたいと思います。パン寿司を作って。
生の魚介類をおかずに主食を食べる場合、日本人になじみ深いのは、握った酢飯にネタをのせた寿司、次点で海鮮丼や刺身定食あたりになるでしょう。お刺身をパンにのっけて食べるなんて、あんまり聞いたことがないですよね。
ただ、本当に合わないんでしょうか? 地元のサンドイッチ屋さんで僕がいちばん好きなメニュー、スモークサーモンとクリームチーズだったりしますし、カルパッチョや、うにとかいくら類や、まぐろのタルタルなどとバゲットの組み合わせならば違和感もないでしょう。そもそも、パンってそんなにクセのある食材じゃないし。
一度気になったら試してみないと気のすまないたちなもんで、今から作って食べてみようと思います。“パン寿司”をコース仕立てで。
スーパーで買ってきました。内容は、まぐろの赤身、鯛、ぶり、サーモン、いか。実にうまそうですね。このままわさび醤油につけて酒のつまみにしたい。
けれども今日は、のせていきます。
その前に、全体の方針を決めておきましょう。
先述したように、サーモンとクリームチーズの組み合わせあたりは鉄板ですよね。また、オリーブオイルやバジル、ドレッシング系なんかと合わせるのも間違いない気がする。だけど、それでは意外性が薄い。
なので、なるべく「和の食材」だけを使うというルールでいってみましょうかね。基本的にはわさび醤油。あとは使って、塩とレモン(お寿司屋さんでも珍しくない食べかたですし)くらい。ハーブは大葉オンリー。
じゃあいってみよー。
1品目はとにかく基本バージョンということで、適度な大きさに切っただけの食パンに、よく醤油をまとわせたまぐろの赤身をそのままのせてみました。
で、そこにわさびをのせたら、
完成!
いや〜、いい違和感。
ただし! ですよ。ここからが重要で、はたしてちゃんと美味しいのかどうか。絶対に「食べもので遊んでしまった」という結果にはしたくない。もしもこの1品目が美味しくなかったら、残りは素直にごはんにのせて食べ、原稿締め切りはぎりぎりであるけれども、なにか別のネタに取りかかるしかない。
という覚悟で、いざ実食。
どうだどうだ……。
感想をなるべく正直に述べますと、まず、見た目から感じるような違和感は、味に関してはまったくないです。今までなんでこういう食べかたをしてこなかったんだろうってくらい、自然。
で、最初にやってくるのは、バカみたいな話なんですが、まぐろの美味しさとパンの美味しさ。その両方が同時に味わえて、けんかもしていない。特に、あ、そういえばパンってこんな味だったな〜、かなりしっかりと香りや甘みがあってうまいな〜という、寿司の土台が酢飯であることが常識だからこその、新鮮な感動があります。パン寿司、いいんじゃないだろうか。
ならばどんどんいっちゃいましょう。続いては、鯛。これは、塩レモンでどうだ!?
するとこれがびっくりの美味しさ! レモンの爽やかさと塩味が鯛の旨味をよ〜く感じさせてくれ、ふわりとしたパンがそれを引き立てる。
ここで完全に確信しました。パン寿司、超ありだ!
続いてのぶりは、脂が強いので大葉を合わせてみました。また、パンの種類もいくつか試してみたく、とろりとした食感と対比させてみようかと、硬めのバゲットと合わせて。
あ、それと、僕としたことが、これまで魚とパンの相性に興味がありすぎて、横にお酒を添えるのをすっかり忘れてしまってましたよ。
これがまたいい。大葉もバゲットも狙いどおりで、大好物のぶりを今までにない感覚で味わうことができ、もちろんお酒ともばっちり合う。味がしっかりしているので、サンドイッチにしてもいいかもしれないですね。ぶり刺しサンド。
続いてのサーモンですが、ここらでひとつ試しておきたいことがあります。それは、土台のパンをトーストしてみたらどうなるんだろうか? というもの。
そこで、パンを簡易的に、
するとですね。これまたちゃんと美味しいんです。けれども思わず笑っちゃったのが、その美味しさの方向性が、完全に“朝ごはん”的なんですよね。さっきまでと同じ食パンを焼いただけなのに、脳がかたくなに、朝ごはん味と認識してしまう。トーストの力ってすごいな。
なので、あくまで個人的な好みとして、「パン寿司のパンは焼かないほうが好き」という結論になりました。「パン寿司のパンは」っていう日本語の時点で、もはやなにを言ってるんだかわからなくなってきてますが。
刺し盛りの最後は、いか。これが食感的にもっとも手強そう。ただ食パンにのせただけだと早々にパンがなくなって、いかが残ってしまいそうな気がする。
そこで、またまたバゲットにご登場いただき、さらに、添えてあったツマなどの力も借りてみる方向性でいってみますか。
おお、これまた大正解だ! いかだけでなく、バゲットやその他の食材も食感が豊かだから口のなかが楽しいし、きっちりとまとまりも感じます。大葉や野菜の香りもいいし、すごく満足度が高いパン寿司だな〜、これは。
さて、もうじゅうぶんすぎるほどに堪能できたのですが、実は念のため、もう少しだけ食材を買ってあるんですよね。そこで、あと2品ほど作ってシメとしましょうか。
なんと豪華に、本まぐろのとろっぽい部分入りの切り落としパックです。これの特に脂ののったところを、大葉ありとなしバージョン、それぞれ食パンにのせれば完成。
これはすごい……。まぐろがとろけるのは当然として、一般的な寿司ではありえない、まぐろと一緒に土台もとろけるという予想外の現象が発生。これはパン寿司ならではでしょう。
味の感想メモには「銀座の寿司屋の味」と書いてありましたが、僕がしかるべき銀座の寿司屋に行ったことがないという部分に目をつぶれば、まさにそのレベルの味わいです。
さて、最後は大好物の「とろたく」いってみましょう。
これを海苔で巻いてちびちびつまみにするのが至福なんですよね。もちろん、軍艦や巻き寿司にしてもうまい。
これまた味わいがこってりした食材ですが、最後はあえて、パンもそちらの方向に寄せてみるのはどうかな。
信じられないかもしれないけど、信じてほしいんです。今回何気なく買ってきたクロワッサンが、クリームを練り込んだ甘めのものだったことに、食べてから気づいたんですが、
これが、めちゃくちゃ合うんです!
まったりとしたねぎとろと、たくあんの食感、海苔の風味と、ふんわりクリームの甘さが広がるクロワッサン。正直、さすがに気持ち悪そうでしょう? ところが、な〜んの問題もなく絶品! 信じて!
正直、ここまで読んでもまだ「え〜なんか抵抗あるな」という方が大半だと思うんです。そしてまた、騙されたと思ってぜひやってみて! とも言いません。
が、個人的には、ただおもしろいだけではなくてちゃんと美味しかったので、家に刺身とパンがあったらきっとまた作ってしまうことでしょう。それだけは信じてほしい。
あれこれ材料を持ち寄って、パン寿司パーティーを開催してみるのもいいかもしれないな。誰も参加してくれないかな。
▽デイリーポータルZトップへ | ||
▲デイリーポータルZトップへ | バックナンバーいちらんへ |