思ったまま言ってよかったのか
「痛みは人それぞれじゃないの?」という子どものときの疑問の答えは、「人それぞれだから自分なりに伝えよう」ということだった。
やはり自分だけが気にしすぎていたのではないか(同行した編集部の橋田さんは「気にしたことなかった〜」と言っていた)。
が、他に気にしすぎの人がいたら参考にしてもらえれば幸いである。
それにしてもはげます会の方の幅の広さよ。僕はもう足を向けて寝られないだろう。
河野さん、お話を聞かせていただきありがとうございました。
ズキズキ痛い、チクチク痛い、シクシク痛い…痛みの表現方法は色々なパターンがある。
ただ、その表現は本当に合っているのか。「胸がズキズキ痛くて…」と病院の先生に言ってもちゃんと伝わっているのか、ずっと不安に思っていた。
「どう痛いですか?」という質問にはどう答えたらいいんだろう。
有識者に聞いてみた。
子どものころ、具合が悪くなりお腹が痛くなると母から「どう痛いの?」とよく聞かれていた。
今にして思えば病院の先生に息子の病状を伝えるためだったのだろう。
しかし、当時の僕は「どう痛い…?なんて言い表したら…?」と戸惑うばかりだった。
面倒な子どもである。
でも、「痛み」という測れないものをどうやって伝えたらいいのかわからなかったのだ。
それから20年経ち、成長した今も結局もやもやしたままだ。
病院に行くと「どういう風に痛みますか?」と聞かれて、うーんと…と悩んでしまう。
せっかくなのでどう答えたらいいか、教えてくれそうな人に聞いてみよう。
斎藤さんは指圧師の専門学校に通って国家資格を取っただけあって、ちゃんとした医療系の知識を持っているので安心だ。
ー そもそもで「痛み」って主観なので、人によって感じ方や程度が違うんじゃないかな…と思ってしまって。
「どう痛いですか?」という質問にどうやって答えるのがいいのかがあんまり良く分からないんですよね…。
斎藤:大体言いたいことはわかります。そうですよね。
僕は医師ではないのですが、医療従事者の1人として一般的な話をしてみますね。
なぜ「どう痛いか」を聞くかというと、診察ではまず患者さんの感じ方を聞くのが大事だからなんですね。
初めのうちから「こういう風に痛いですか?」ってこちらから聞いちゃうと、「そうなのかな…」と思ってしまうのでそういう聞き方は最初にはあまりしないと思います。
まずは「どうしましたか?」といった、あえてざっくりした聞き方をして話してもらうんです。
ー 確かに病院で先生から先に「こうですか?」って聞かれたら無意識にその通りかもと思ってしまうかもしれない…。
斎藤:爲房さんだったら、パソコンの調子が悪くなったから見てくれと言われたときを想像するとわかりやすいんじゃないですか?
どういう操作をしたのかとか、いつから調子が悪くなったかを聞いて、状況を確認しながら原因を探っていくような。
ー あー!そうですね。
斎藤:それと同じなのかなと。だから、「どう痛いか」は状況を聞き出す一部でしかないので自分の思った通りに言ってもらうのでいいと思いますよ。
編集部橋田:正確に伝えなきゃ!って気負わなくていいってことですね。
ー 自分だけが面倒に考えすぎていただけでは…という気が急速にしてきました。
こういう伝え方だとわかりやすいといったコツはありますか?僕のように伝えるのが下手くそな人が他にもいるかもしれないので…。
斎藤:例えば「ズキズキ」とか「ピリピリ」とかって表現するのが難しいんだったら、「腕をつねられたときの痛み」と「お腹が痛いときの痛み」って明確に違うじゃないですか。
その2つだとどっちに近いかなー、というところから言ってみるのはどうですか。
ー 自分の中でこれとこれは違う種類の痛みだな、と思えるものを見つけて近い方を探すってことですね。それなら言えそうな気がします…!
橋田:逆にこういう痛みじゃなくて…、という説明も出来ますね。
斎藤:「お腹が痛いときの痛みに近いけど、完璧に同じというわけでもなくて…」という曖昧な説明でも、聞いている側には手掛かりになると思いますねー。
最初に「痛みは主観なので」という話がありましたけど、VASという痛みの評価尺度があって。
どのくらいの痛さかを聞くときに普通に使うやつなんですけど…。
ー めっちゃ主観ですね!
斎藤:そうそう。だから患者さんがどのくらい痛いと感じているかは主観という前提で色々成り立っていると。
僕の指圧の仕事だと、「痛いです」と言っていた患者さんが施術後に「痛くなくなりました」と言ってくれることがよくあるんですけど、それも主観ですよね。だから身体が本当に良くなっているかどうかは、ちょっと別の話かと思って聞いています。
もっというと、施術後に「まだ痛いな」って思っていても「良くなりました」って言っちゃうケースもあるかもしれないじゃないですか。
ー 確かに施術してくれた指圧師に「いや…良くなってないですね」って言いづらいですね…。
斎藤:言ってもらっても全然いいんですけどねー。
なので「良くなりました!」という感想は本当じゃないかもしれない。
なるほどの連続だ。医者側も痛みは主観だという前提のもとで色々と手立てを考えている。
「どう痛いですか」の質問に対して、自分の中のハードルがどんどん下がってきた感じがするぞ。
斎藤さんに教えてもらい、思った通りの痛みを伝えてしまっていいことがなんとなくわかった。
わがままを言うと、指圧以外のもうちょっと内臓寄りの場合も聞いてみたくなった。内科とか。
そう思い、「デイリーポータルZをはげます会」で募集を掛けることにした。
そうしたら、なんと本当に協力していただける方が!
ここが飛行機の中であれば拍手喝采の場面だ。
はげましスト(はげます会会員のことだ)で救急の現場にいたことのある河野さんにお話をうかがってみた。
ー 実際の診察のときに、患者側が話した痛みの表現で病気を判断することってあるんでしょうか?
河野さん:患者さんが話した内容だけで判断することはもちろんないですが…参考にすることはありますね。
例えば胸が痛いとして、「チクチク痛む」という表現なら心筋梗塞の可能性は高くはなさそうかな、とか。
心筋梗塞の典型的には「締め付けられる、押されるような痛み」なことが多いので。
ー へー!病気によっては典型的な痛さがある、ということなんですね。
河野さん:もちろん例外はありますが。
痛みの表現がどのくらい参考になるかと言われると全く役に立たないわけではない、くらいかな。
痛みの表現だと、むしろ医者向けの説明の方が特徴的かもしれませんね。
心筋梗塞でよくある言い方だと、「象に踏まれたような痛み」とか。
ー 象!!
河野さん:まぁ、さすがに患者さんの方からいきなり「象に踏まれたように痛いです」と言われることはないですよね。
僕ら側から「例えるなら象に踏まれるような重苦しい痛さですか」と聞くとか。
あとは、くも膜下出血だと「後ろからバットで殴られたような痛み」がよくある表現ですね。
ー めちゃくちゃこわい…。それほど一瞬で激痛が来るんですね。
河野さん:象に踏まれるよりかはこちらの方が患者さんも言うかもしれませんね。
ただ、バットも象も医者側が痛みのイメージを伝えやすくするための表現という印象はあります。
それを伝えることで患者さんの状況を引き出すための言い方というか。
ー 「そういえばそうだわ」と思うような。
河野さん:「針で刺されるような痛みですか」「あるいは正座したときのピリピリしたような痛みですか」といった聞き方をすることで、痛みの種類を分けたいときがあったりするので。
だからある程度はどのような痛みかはわかっておきたいけれども、あんまり細かい違いまで聞いても仕方ないかなというところですね。
まぁ、あんまり考えすぎずに自分の思うままに言うでいいですよ。それを聞いて判断するのも医者の仕事なので。
ー かっこいい…!なんだかすっきりしました!
「痛みは人それぞれじゃないの?」という子どものときの疑問の答えは、「人それぞれだから自分なりに伝えよう」ということだった。
やはり自分だけが気にしすぎていたのではないか(同行した編集部の橋田さんは「気にしたことなかった〜」と言っていた)。
が、他に気にしすぎの人がいたら参考にしてもらえれば幸いである。
それにしてもはげます会の方の幅の広さよ。僕はもう足を向けて寝られないだろう。
河野さん、お話を聞かせていただきありがとうございました。
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