宝塚市内の受験生のみなさんへ
この記事を書いて思った。宝塚市内の公立高校を受験しようとしている中学生にしか有用ではない。
もし各高校を受験するつもりの人がいたら、登山の参考にしてほしい。
そして全国各地で同じように通学のために山登りをしなくてはならなくなった人がいたら教えてほしい。
一緒に登山の思い出を分かち合いましょう。
高校生のころ、地元の市内にある高校の立地が変わっていた。
私立高校だけが平地にあって、公立高校は全部山の上にあったのだ。
公立高校に通っていた僕は3年間徒歩で坂を登って登校していたのだ。文字通り「登校」である。
卒業してからも僕の頭に浮かんでいたのは、「市内の他の公立高校は徒歩で登れるのかな…?」という疑問だった。
そして今回、15年来の疑問を解き明かすときが来た。
山の上の公立高校、全部登ろう。
僕が当時住んでいたのは兵庫県の宝塚市というところだ。
全国的には「歌劇の街」として知られているだろう。
宝塚歌劇は中学校の行事で見に行ったし、街なかには宝塚音楽学校の生徒が制服姿でよく歩いていたので、その認識は間違ってないだろう。
ただ、普通に住んでいる分には大阪も神戸も行きやすい、ちょうどいいベッドタウンである。
阪急電鉄創業者の小林十三が作った街なので、関東でいうと西武鉄道における所沢がイメージに近いだろうか(人口は10万人くらい負けているが)。
それなりに住みやすい街なのだが、例外があった。
公立高校が全部山の上にあるのだ。
市内の高校をプロットした。
青が公立高校、緑が私立高校である。
私立高校の駅の近さよ!一方公立高校の追いやられっぷりがすごい。
地図だと少しわかりづらいが、宝塚市は西に六甲山地、北に長尾連山で囲まれているので、見回すと必ず視界に山が入ってくる。
そして公立高校はその山々に設置されているのである。
市内の公立高校は全部で4校ある。
平地が広がる南側には高校がないのがポイントだ。
隣の西宮市にも山の上にある高校はあったが、平地にも公立高校はあった。
部活の試合で平地にある高校に行くと、まず立地をうらやんだものだ。
僕が通っていた北高は徒歩で通うことが出来た。
他の高校も同じように登山出来るのだろうか。
たまたま帰省したので、奮起して登ってみよう。
初めは自分が通っていた宝塚北高校から登ろう。
宝塚駅まで電車で来て、そこから徒歩で登るのが僕の通学路だった。
バスで行くことも出来たが、混むのがいやだったので雨の日以外は使わなかったのだ。
この辺りは山の上に住宅地やマンションがたくさん造成されている。
僕が子どものころから現在まで、至るところに建設され続けているのだ。
そして北高は先ほどの写真に写っていたマンションの辺りにある。そこまで登って行くのである。
ここの坂が一番急だった。朝に半分寝ながら登るにはつらかった思い出が蘇った。
斜度を測ったら11.7度だった。スキー場の初〜中級者コースくらいか。
ちなみにここから自転車はまったく見かけなくなる。植生限界があるように、自転車限界もあるのだ。
ちなみに左側は中国自動車道が走っている。関西で悪名高い渋滞スポットだった、宝塚東・西トンネルのすぐそばだ。
新名神高速道路が開通して、だいぶ渋滞は減ったようで何よりである。閑話休題。
いよいよ山らしさが出てきたところで、特徴がありすぎる道があったことを思い出した。
そこは伝統的に「けもの道」と呼ばれていた。
けもの道の場所。
赤線で引いたところがけもの道である。普通はぐるっと回っていかないといけないところを直線的にショートカット出来る道だった。
けもの道の名の通り、まったく道ではないところを歴代の北高生が踏みしめて無理に通れるようにしていたのだ。
入り口がふさがれていた!どう見てもただ草が生い茂っているだけだが、ここから入っていたのだ。
思い出の道がなくなってショックである。岩場を登っていかないと行けなかったので、これは通学する上で危ないと冷静に判断されたのかもしれない。
雨が降ったあとの帰り道、岩場で足を滑らせて縦に一回転したことがあるのでそれも納得ではある。
私有地につき進入禁止とばっちり書かれていた。
ここ私有地だったのか!という15年越しの驚きがあった。知らぬが仏とはこのことだ。
けもの道がなくなって悲しいが、ついに宝塚北高校に到着である。
所要時間は20分。高校時代とほぼ変わらないタイムで来られたのが満足だ。
高度計は128メートルで、90メートルくらい登ったことになる。
久しぶりに来たら、部活に励む後輩たちの声が聞こえた。がんばれ!
ふくらはぎが早速張っているが、次の高校に行ってみよう。
続いてやってきたのは宝塚駅から3駅隣の中山観音駅だ。
目指すは宝塚東高校だ。余談だが母の母校でもある。
学校のサイトによると、駐輪場が用意されており途中まで自転車で行くことが可能なようだ。北高にはなかったのでうらやましい!
通学路の地図では、徒歩で通う道に「生徒を鍛えてくれる坂道」と注釈が書いてあった。けもの道と違って学校オフィシャルなのが安心だ。
この先にある駐輪場へ自転車を停め、徒歩で高校を目指すようだ。
東高生と思しき高校生たちが降りてきている。
模試だったのか、問題用紙にペンを引きながら歩いている。わー、学生生活だ!
鳥のさえずりが聞こえてきて、登山らしさを感じる。
登っている道が住宅地のはずれなので、家が見当たらず不安になった。
ダム!こんなところにダムがあったのか。
発見が多くてうれしい。
思ったより楽な道のりで安心した。
高度は中山駅が62メートル、東高が169メートルだったので北高より登ったようだが、自転車との併用を考えるとそこまで大変ではないかもしれない。
数年後にはまだ見ぬ住宅地が現れることを考えると震える。高校への通学路はどうなるのだろうか。
さていよいよ残り2校である。が、未踏破の県宝と西高はなぜか隣り合っている。
設置時に誰も疑問を抱かなかったのか。もやもやが残るが、こちらとしては連続でアタック可能なので好都合だ。
しかしここからが本当の戦いなのだ。
なぜなら、この両校への道のりが最も厳しいからである。
学校のサイトにもバスでしか案内が載っていない。
消失点が見えそうな登り坂に目まいがした。
先制パンチを浴びた気分である。
確かに電動自転車なら大丈夫だな~と思った矢先、ママチャリに乗ったおばちゃんが猛スピードで駆け下りていった。
マジか。帰りはどうするんだろうか。
傾斜がきつくなって、自転車はもちろん徒歩で移動している人がいなくなった。
車がないと大変なゾーンに到達したようだ。
やはり徒歩で通学する高校ではなかった。身にしみた。
この時点で駅との標高差は115メートルになった。
しかしこの状態から西高を目指さないといけない。
絶望感がすごい。ランニングが終わったと思ったら追加で3周させられるのと同じ気分である。
北摂(摂津の北にあるのでこの辺りをこう呼ぶ)にある里山一帯を博物館として整備する取り組みらしい。
高校に向かっていたら里山の範疇に入っていたようだ。
「やった!」の言葉が無意識に口をついて出てきた。
全部の高校に徒歩で行くという、長年やりたかった願望がいま達成されたのだ。
15年前の僕には「徒歩で行けるけど、県宝と西高は止めておいた方がいいよ」と伝えたい。
この記事を書いて思った。宝塚市内の公立高校を受験しようとしている中学生にしか有用ではない。
もし各高校を受験するつもりの人がいたら、登山の参考にしてほしい。
そして全国各地で同じように通学のために山登りをしなくてはならなくなった人がいたら教えてほしい。
一緒に登山の思い出を分かち合いましょう。
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