オンラインマラソン大会、面白い
初めてのオンラインマラソン大会だった。結果としてはとてもよかった。自分のペースで走ることができる。もちろんリアルな大会に参加して、景色を楽しみながらなどもいいけれど、これはこれでありという感じ。何より朝早くないのがよかった。
フルマラソンというものがある。42.195kmを走るものだ。夏が終わると例年ならば各地でマラソン大会が開かれる。どこかに集まり一斉に42.195kmを走るのだ。全員が決まったコースで42.195km先のゴールを目指す。
しかし、今はコロナでいろいろあるので、マラソン大会がオンラインで行われている。バーチャルと言ったりもする。アプリで管理して、各々が決められた時間内に自分の好きなコースで42.195kmを走るのだ。ぜひ参加してみたいと思う。
毎年、9月の終わりに北海道の網走で「オホーツク網走マラソン」が行われる。網走刑務所からスタートして、能取岬などを通り、オホーツク海の風を感じながら42.195kmを走るわけだ。アップダウンの激しいコースではあるが美しいコースでもある。
私は普段、全く運動しない。家が大好きなのだ。しかし、2018年に「オホーツク網走マラソン」に参加した。生まれて初めてフルマラソンを走ったのだ。キツかった。とんでもなくキツかった。もう二度と走らないと思っていた。
人は忘れる生き物だ。あんなにキツかったのに、すっかり忘れてエントリーしてしまった。しかし、2018年と違い2021年の「オホーツク網走マラソン」はオンラインで行われる。2021年9月25日(土)0:00ー26日(日)15:15までの間に、自分の好きなところでフルマラソンを走ればいいのだ。
参加したのにはもう一つ理由がある。当サイトの編集部安藤さんが、オンラインでのマラソン大会は今だけかもしれないと言っていたからだ。そういうのはぜひ参加したいタイプなのだ。近所でオホーツク網走マラソンを走るのだ。
2018年の時は4月から毎日走り、走りすぎて膝を壊すくらい練習に励んだ。ただ今回はオンラインだからだろうか、全く練習しなかった。マラソン大会は時間制限があり(6時間以内など)、決まった時間内に走らないと完走にならない。しかし、今回はオンラインで時間制限はあるが、1日と15時間15分もある。さすがに走れると思うのだ。
マラソン大会の朝は早い。8時45分スタートとかだった。集合はもっと早かった。私にとっては8時は早朝である。あと泊まっていたホテルの枕が合わなくてほぼ寝ずに走ることになった。でも、今回はオンラインだから、ゆっくりである。
試験勉強をしなきゃいけないのに、部屋の掃除をしちゃうとかあるけれど、そんな感じで9月26日15時15分までに走ればいい、という安心感からか9月25日の私はウダウダしていた。史上最強のウダウダ。走らない。
これからフルマラソンを走る感じがしてこない。それくらいいつもと変わらぬ時間を過ごした。近所を走ればいいからね。ゆったりとした時間をめちゃくちゃ過ごした。特に何をするわけでもない、あとで考えると無駄という時間を。
今回は私の家の近所を走る。多摩川の土手だ。計画はこうだ。5キロ走って5キロ戻る。これで10キロ。次に6キロ走って6キロ戻る。これで22キロ。あとは5キロ走って5キロ戻るを2回繰り返せばほぼ42.195kmになる。要は同じ道を行ったり来たりするのだ。
私の場合は止まらずに走れるのは10キロ、頑張れば12キロだと思っている。これで私の体力は全てなくなる。ちなみに歩く場合は20キロまでは楽しく、40キロまでは頑張れて、その後は地獄という感じ。走っても歩いても42.195kmはキツいということだ。
10キロをほぼ1時間というペースで走ることができた。今回は全く練習をしていない。2021年に10キロを走ったのはこれが2回目。久々にしてはいいタイムなのではないだろうか。ここでちょっと休憩だ。オンラインだから自分の好きなタイミングで休憩できるのだ。
優雅である。正確にはソイラテを作った。クリーミーソイラテ。好きなのだ。マラソン大会ではおそらくソイラテは出てこないだろう。オンラインでは自分で作ればいいのだ。私はこのようなティータイムを大切にするタイプの人間なのだ。
優雅ではあったけれど、マラソン大会でソイラテが出ない理由もわかった。スポーツドリンクの方が美味しいのだ。体に染みる感じがする。やってみないとわからないことだ。オンラインマラソンは新たな発見の場でもあるのだ、たぶん。
ソイラテを作ったりしたら20分も時間を使ってしまった。ただタイムリミットは明日の15時過ぎだ。まだ余裕はある。もう一つ分かったのは20分も体を止めていると、もう一度走り出すのがすごくキツいということだ。
今回のオンラインマラソンは途中で時間を止めてもいいことになっている。今日20キロ走って、明日20キロを走ってもいいのだ。そして、上記のような休憩中は時間を止めて、走り出したら再開ということもできる。
ただ私はそんなことをしなかった。休憩中も時計を止めることはしない。ソイラテタイムも、この後のいろいろも全てが私のマラソン大会なのだ。それと初めてのアプリで、変に触ってよくわからないことになると怖いから、というのもある。
この辺りから時間が遅くなり始める。先に書いたように私の体力はすでに0なのだ。10キロを走り終えた時点であとはゾンビみたい感じ。どうにか右足を出して、左足を出してを繰り返しているだけ。本来は家で寝たいぐらいなのだ。
マラソン大会ではエイドで飲み物だけではなく、バナナなどを配っていることがある。オホーツク網走マラソンでは蟹汁があったりもする。今回はオンラインなので私の好みでピザをチョイスしてみた。ピザが好きなのだ。
食べて分かった。さすがに口がパサつく。チーズの塩辛さは心地よいが、ちょっとパサつく。それはピザが悪いのではなくて、走っているため通常状態とは口の中の様子が違うからだ。これも実際にやってわかることだ。ただこのピザ、美味しくはある。
ピザを切って食べるのに20分以上かかった。マラソン中に自分で切るのは時間を取るのであまり向かないということだ。そして、また走り始めると体が冷えているのか、日頃の運動不足かあちこち痛い。大変だ。マラソン大会は準備してくれているので、その尊さを再確認できた。
ウルトラマラソンならわかるが、フルマラソンでこんなに日が暮れている状態で走ることはそんなにはないと思う。ただ知りすぎている風景なので走っていても特に楽しみはない。あと今「走っていると」と書いたけれど、ほぼ歩いている。歩いている時間が長い。
あと残り10キロではあるが、ここで書道をしたいと思う。私は以前からこれをやってみたかったのだ。キツい状況である。だって普段運動していないのに32キロも走ったのだから。そんなキツい状況で書道がしたかったのだ。
何を書くかを決めていない。この状況で私から出る言葉を書きたいのだ。32キロを走り、まだ10キロも残っている。これは私に人生を思わせる。ゴール後に書いたのでは、本当の言葉は出てこない。この後も続くということがポイントなのだ。
受験、結婚、出産など人生にはチェックポイントのようなものがある。全てはゴールではない。その先も営みは継続される。受験に成功しても人生は続き、結婚しても人生は続く。ゴールではない。それが32キロ地点ということ。この後も続く。そのような状況で私からはどんな言葉が出るのだろうか。その言葉こそが私が本当に思っている、心の言葉なのだ。
心を落ち着かせて言葉を探すわけではない。時間は刻々と進んでいるから。反射的に出る言葉こそが私の求めるもの。全体的に彼は何を言っているの? と思うかもしれない。それは32キロ走り疲れているから、考えないで欲しい。感じて欲しいのだ。この状況は心が本当に求めるものが出る状況であるということを。
私から出た言葉は「トゥルーラヴ」だった。「ラブ」ではない「ラヴ」だ。「ブ」ではなく「ヴ」なのだ。私は「トゥルーラヴ」を大切にしているということなのだ。この状況でなければ出ない答えだっただろう。私の人生とは「トゥルーラヴ」なのだ。
すでに32キロ走り、この後も10キロ走らなければならない。人生だ。そんな人生の途中で大切にしているのが「トゥルーラヴ」。心の奥底から出てきたのだ。疲れで頭は動かない。そんな状況で「トゥルーラヴ」。私は「トゥルーラヴ」に生きる人間ということなのだ。
私が「トゥルーラヴ」な人間ということはわかったけれど、そのおかげで準備などを含め、50分も使ってしまった。マラソン大会で書道タイムがない理由がわかる。もう家に帰りたい感じだもの。
ちなみに夜になると危ないので、手に光る棒みたいなのを巻いた。右手に5本、左手に3本。特に数の偏りに意味はない。なんとなく巻いたのだ。なんだか速く走れる気がしてくる。未来を感じたのだ。「トゥルーラヴ」「光る棒」。私の未来は明るい。
嘘だ。未来は明るくはなかった。地獄みたいな10キロだった。体力は0どころかマイナスに突入している。体も痛い。フルマラソンを走れる人をすごいと思う。キツかった。とにかくキツかった。キツい以外に書くことがないほどにキツかった。
唐突にゴールが家になったのは、外で三脚を立てて撮影する元気がなかったからだ。感動のゴールだった。タイムは7時間ちょいかかった。めちゃくちゃ時間がかかった。ただ時間なんて問題じゃない。走り切ったという感動だ。
アプリ内で完走証をもらうこともできた。さらにこの後、参加賞や完走メダル、Finisherタオルを送ってもらえるそうだ。届くのが楽しみ。7時間もかかったけれど、完走したのだ。しかも私が「トゥルーラヴ」な人間ということもわかった。オンラインマラソンを走ってよかった。
初めてのオンラインマラソン大会だった。結果としてはとてもよかった。自分のペースで走ることができる。もちろんリアルな大会に参加して、景色を楽しみながらなどもいいけれど、これはこれでありという感じ。何より朝早くないのがよかった。
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