特集 2021年4月12日

岡山城は中学校!大正時代の地図を片手に岡山市をゆく

かつて岡山城は中学校だった。

岡山市内にある不自然な道路の理由が気になって、大正時代の地図を調べた。

大正時代の地図はとても面白く、当初の不自然な道路の理由そっちのけで夢中になってしまう。

大正時代の地図を片手に岡山市内を歩いた。

1984年生まれ岡山のど田舎在住。技術的な事を探求するのが趣味。お皿を作って売っていたりもする。思い付いた事はやってみないと気がすまない性格。(動画インタビュー)

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図書館で大正時代の地図を見せてもらう

暖かさと寒さがせめぎ合うある日、僕は岡山市の中心部にある岡山県立図書館に来ていた。

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岡山県立図書館は全国でも有数の貸出冊数を誇る。​​​​​

ここに来た目的は岡山市内にある不自然な形の道路がなぜそうなったのか調べるためだ。

その道路は、太い真っ直ぐな道路の先が突如として公園になっていた。古い地図を見ればその経緯が分かるかもしれないと思ったのだ。

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中國民報社(かつて存在した岡山の新聞社)発行の岡山市明細地図。

そうして司書さんに出してもらったのが、何重にも紙に包まれた大正15年(1926年)の地図だった。ちなみに大正15年は大正最後の年でもある。

(ちなみにこれは原本なのだがコピーはもっと手軽に見せてもらえると後で知った。僕の場合コピーでも良かった。)

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地図を広げたところ。描かれているのは現在の岡山市のごく中心部のみ。

事前に念入りに手を洗い、万が一引っかかって破れたりしないように時計も外し、司書さんが地図を広げてくれるのを見せてもらう。

結局この大正時代の地図でも僕が気になった道路の経緯はわからなかったが、のちに拡幅工事が予算の関係で途中止めになっているだけだと判明する。

しかし僕は当初の目的を忘れ、この地図の面白さに夢中になってしまう。

亡き祖母から聞いた「けえべん」

この地図には亡くなった祖母から聞いた、今はもう存在しない「けえべん」が描かれていた。

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中央の丸が後楽園駅(終点)。そこから右に伸びるのが西大寺鉄道(さいだいじてつどう)=けいべんだ。

かつて岡山市中心部から東へ向かって伸びた西大寺鉄道は通常の鉄道よりも線路幅が狭く、車両も小規模な軽便鉄道(けいべんてつどう)であったことから地元の人からは「けえべん」の愛称で親しまれた。

僕の祖母はこのけえべんで学校に通っていたらしく、時おりその話を聞いていた。しかし僕にとっては白黒写真のように遠い話でしかなかった。

しかし地図で位置がわかると断片的だった情報がつながり、白黒写真が色彩を得たように思える。

大正時代の地図めちゃくちゃ面白いな!

岡山にもあった後楽園駅 

地図を一通り撮影させてもらうと、その足で岡山県立図書館から徒歩で20分ほどの場所にあるけえべんの終点、後楽園駅へと寄り道した。

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レンガの建物の場所にかつて西大寺鉄道の終点、後楽園駅があった。

後楽園駅といえば東京ドームの最寄り駅だが、かつて岡山にも後楽園駅があったのだ。

東京の後楽園駅は水戸徳川家の(小石川)後楽園に由来するが、岡山城に隣接する大名庭園もまた(岡山)後楽園と言い、このすぐそばにある。小石川後楽園と岡山後楽園には直接の関係はないが、同じ「先憂後楽」(民衆より先に国の行く末を心配し、民衆が楽しめるようになった後で楽しむべきという政治をする人の心得)が名前の由来である。

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今の後楽園駅の場所には夢二郷土美術館が建っていた。

けえべんは残念ながら約60年前の昭和37年(1962年)に廃線となり、後楽園駅の場所は現在、夢二(ゆめじ)郷土美術館になっている。

この美術館は明治から大正にかけて活躍し美人画で有名な竹久夢二の作品を展示している。

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夢二郷土美術館から奥に向かってゆるくカーブし道が駐車場へつながる。

夢二郷土美術館の駐車場は敷地の奥にあり、カーブした道で繋がっている。この道はかつての線路跡と重なる。

昔聞いた話が地図を媒体に今の街の姿と繋がり、見慣れた景色でも違って見える。線路が見えるぞ。

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夢二郷土美術館の駐車場。

細長い駐車場の先は行き止まりだったが、宝探しの様に楽しく、その先の痕跡を探すことにした。

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ででんと大きなホテルが建つ。

地割など名残が見いだせると思っていたが、予想に反して初っ端から跡形もなくホテルが建っていた。

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ここだけ道路が高くなっており、線路のあった場所(矢印)と一致する。

しかし、ホテルの裏はちょうど線路があった場所だけ高く、真相は定かではないが線路の盛土の跡なのかもしれない。

推理しながら散歩するのもまた楽しい。

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ずっとまっすぐに続く道路。

そこから先は線路の痕跡はしばらく見つからなかったが、このまっすぐな道路もかつての線路と一致している。

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西大寺鉄道の起点、西大寺駅にある車両。

後楽園駅からおよそ11キロ先にある西大寺鉄道の起点、西大寺駅にはけえべんの車両が今も保存されていた。

こうして地図を片手に歩けば、普段は見過ごしてしまいがちな昔の痕跡が街中にたくさん見つかるのだ。

広大な練兵場と旧陸軍第十七師団駐屯地

つづいて地図で目を引いたのは、岡山駅の北側にある広大で見慣れない名前だった。

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岡山市中心部の北側に「練兵場」とその上に「師団司令部」などと書かれた場所。

兵隊の訓練をする練兵場と、戦前の陸軍第十七師団の司令部と所属する部隊の施設だ。軍事施設が今よりとても身近にある。

練兵場は右上の角がカーブしていて、その独特の形状には見覚えがあった。

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岡山県総合グラウンドの地図。右上がちょっとカーブしている。

そこが今の岡山県総合グラウンドだとすぐにピンと来た。

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岡山県総合グラウンド。

岡山県総合グラウンドはとても広く、見渡す限り公園が広がる。

以前、総合グラウンドに用事があり駐車場に車をとめたところ目的地と反対側だったため、うんざりするくらい歩くはめに。

なぜこんなに広いのかと思ったが、ここで訓練をしていたとなればその広さにも納得だ。

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地図の練兵場の右下に描かれた「階行社」

かつての練兵場の名残りを探すと、地図に階行社という文字を見つけた。「偕行社」とは旧陸軍の将校の社交場として各地に建てられたものである。

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地図とはちょっとだけ西にずれた場所に建物を発見。

岡山県総合グラウンドには偕行社の建物が健在で、喫茶店や会議室として利用されている。

今まで目に入っても気にも留めなかったが、改めて見るとこの時代の洋風建築はとてもかっこ良い。

陸軍第十七師団の跡地には岡山大学津島キャンパス

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この形も見たことがある。

岡山県総合グラウンドの近く、陸軍第十七師団の跡地も地元の人ならすぐにピンと来るだろう。

第十七師団の跡地は岡山大学津島キャンパスだ。

だだっ広い岡山県総合グラウンドを縦断し、そのまま岡山大学に足を運ぶ。

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道のずっと先に見えるのが岡山大学中央図書館の時計塔。

岡山大学もまた広く、中心市街地から徒歩圏内の大学としては2番目に広いらしい。

その広さはかつての軍事施設に由来するものだったとは。そして大学となった今でもかつての痕跡は残っていた。

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両サイドがカットされ現在は大学事務局として使用される。

まずこの古そうな建物はかつての司令部庁舎である。両サイドがカットされ、大きく手が加えられながらも事務局として健在だ。

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こちらはほとんど当時のまま岡山大学情報展示室として使われている。

またこちらの建物はかつての衛兵所で、ほとんど当時の姿のままで残されている。

古い地図を見ながらの散策は、残っている建物を見つけるたびに時間を行き来するような錯覚をいだいた。

移転を辿ると、岡山城は中学校だった

ここでふと疑問に思った。

第十七師団の跡地には岡山大学が移ってきたが、その岡山大学はどこから来たのか。降って湧いた訳でもあるまいし。

調べてみると、戦後の岡山大学の母体となったのは第六高等学校らしい。 

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岡山駅前にある第六高等学校の学生を模した像。

第六高等学校をはじめ戦前の高等学校は、現在の高等学校とは異なり、今でいう大学の教養課程に相当する教育を行っていた教育機関である。

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地図に載っていた第六高等学校。

大正時代の地図では岡山中心部の南東側にその名前を見つけた。

この第六高等学校が進駐軍が引き上げた第十七師団の跡地に移る。

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岡山県立岡山朝日高校。校門は第六高等学校の校門が使われている。

そして第六高等学校の跡地には今は岡山朝日高等学校が建っている。第六高等学校時代の校門はそのままだ。

当然気になるのはこの岡山朝日高等学校はどこから来たのかだ。

調べてみるとその岡山朝日高等学校の前身のひとつは岡山第一中学校らしい。

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岡山城の場所に岡山第一中学校。

岡山第一中学校を大正時代の地図で探すと、見つけたのはなんと岡山城だった。

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岡山のシンボル。威風堂々とした佇まいの岡山城。

歩いて岡山城に移動してきた。

今まで何度となく来たことはあったが、岡山城が中学校だとは知らなった。なんだか急に親しみが湧いてくる。

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岡山城天守閣の手前の不明門(あかずのもん)。

改めて見回すと城門横の石垣に文字が刻まれているのを見つけた。

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「岡山中学の址」

文字が薄くて見逃してしまいそうだが「岡山中学の址」とある。

岡山第一中学校は大正10年に岡山第二中学校(現・操山高校)ができるまでは単なる岡山中学校だった。ここにもちゃんと痕跡が残っていた。

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地図に移動の軌跡をまとめる。

こうして辿っていくと、今ある施設も多くが移転していることが分かった。

もっと活躍していた路面電車

他にも地図の気になったところを見ていこう。 岡山の中心部には路面電車が走っている。

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岡山駅(左)から横に伸びる赤い線が路面電車。

大正時代の地図でも今と変わらず岡山駅から路面電車の線路が東に伸びる。

そして突き当たりをに分かれている。

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岡山駅を背にして見た状態。

しかし、現在の路面電車は南へ向かう路線のみだ。

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想像図。

北に向かう線路の痕跡は見つけられなかったが、かつては上のように線路が伸び、今よりもっと路面電車が大活躍していた。

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岡山縣廳=岡山県庁。境界線がカーブしている。

そして北へ向かう路線沿いには今は岡山城の南に移転している岡山県庁があった。

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天神山文化プラザ(旧・岡山県総合文化センター)。

岡山県庁があった場所には今は文化センター(天神山文化プラザ)が建っている。

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かつての堀は埋められているが石垣だけ残る。

そして地図にあった独特のカーブは岡山城の中堀の名残で、今も隣の公園にその姿をとどめていた。

50年経っても壁が残る岡山刑務所

他に気になったのは岡山中心部南側にあった岡山刑務所だ。

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岡山刑務所。

今の岡山刑務所はもっと郊外に移っているが、かつてはもっと中心市街地に近かったようだ。

こんな場所に岡山刑務所があったのかと思うと同時に、ちょっと思い当たるフシもあった。

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以前のどうだ明るくなったろうの山本唯三郎のときにも訪れた岡山市立中央図書館。

かつての岡山刑務所には今は岡山市中央立図書館が建っていて、これまで何度か訪れたことがある。

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運動を楽しむ老若男女の声が聞こえる。

そして図書館の隣はスポーツ広場になっている。旧刑務所の跡地を分け合ったかっこうだ。

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外にから支える構造になっていたコンクリートの残骸。

そのスポーツ広場の南東の部分には特徴的な形のコンクリートが残されている。以前訪れたときに見かけて気になっていた。

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壁を外から支える様に┳の形になっている。

これ刑務所の壁だったのか。どうりで変わった構造になっている訳だ。

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今の岡山刑務所。岡山中心部から車で20分ほどの郊外にある。

調べてみると岡山刑務所が今の場所に移ったのは約50年前の1969年だそうだ。

つまりスポーツ広場のコンクリートの残骸は約50年にも渡ってあの場所に残ったままということになる。この地図を見なければ気付かなかったし、あと数カ月後には完全に忘れていただろう。

 

古い地図で街の移ろいを楽しむ

図書館で見せてもらった古い地図から思いがけず色々な発見につながった。

見慣れたはずの街の中にも存在する些細な違和感や、疑問に思わないばかりか意識にさえ上って来ない様なごくごく小さな「なんで」「これなに」が100年前の地図でみごとに氷解した。

とても楽しくおすすめだ。

ちなみに僕の場合、地図の入手はこんな感じだった。

  • 図書館の蔵書検索で「地図」で検索すると収蔵されている古い地図が見つかる。
  • 普通の本棚ではなく倉庫に保管されている場合もあるが、司書さんにお願いすると出してもらえる。
  • ちゃんとした研究者とかじゃなくても見せてもらえた。
  • もし原本じゃなくてコピーもあればコピーのほうが気楽。
  • 原本は強く広げると痛む場合があるので原本のコピーは出来なかった。撮影のみ。
  • コピーのコピーはできた。
  • 撮影には利用目的の申請が必要。

よければぜひ試してみて欲しい。

かなりの距離を楽しく散歩できたので運動不足の解消にももってこいだ。
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散策途中で見つけたサッカーボール型の貯水タンク。

 

参考文献:
岡山の路面電車 (岡山文庫 (202)) 楢原 雄一 (著)
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