つまみ食いにぴったり
はっきりとしたことが分かった。そのまま麺を食べるのはおいしい。とてもおいしいけれど、食事にはならない。なぜなら、なんか物足りないから。よく考えてみればそのままのことだけれど、今回初めて分かった。
そのまま麺はつまみ食いだからこそおいしいのかもしれない。
だから私が好きなのは「茹で加減を見たり、待ちきれずに茹で上がりをちょっとつまんだりする、あのときにそのまま食べる麺」だということがよく分かった。
やっぱり、胸を張っては言えないこれはフェチ食だ。
ついに言った! 言ってやった! タイトルで大々的に!
何もつけずに食べる麺が好き。ずっと言い出せずに心にしまっていた。
うどんも、スパゲティも、そうめんも、そばも、そのまま食べるとおいしい。今までずっと、こっそりソースをかける前のスパゲティをつまみ、つゆにつけるふりをしてそうめんをそのまますすったりしていた。
何もつけない麺、名づけて「そのまま麺」。そのおいしさをこっそりご紹介します。
※2008年7月に掲載された記事の写真画像を大きくして加筆修正のうえ再掲載しました。
麺をゆでるとき、その茹で加減を食べて確かめる方は多いと思う。ちゅるっと1本つまんで口へ。
あら……おいしい。
「そのまま麺」の魅力に気付いたのはそんなときだ。妙においしいでしょう、あのときの麺。
とはいえ、麺というのはやはりつゆにつけたりかけたりして食べるものである。その歴史ある麺の食べ方の完成形にたてつこうというほどの大胆さはない。
今回はちょっと後ろめたい秘密の食べ方としてご提案させていただければと思うのです。
これまでデイリーポータルZでは、ライター高瀬さんが伸びきってふやけた麺のおいしさを、同じく安藤さんが湿ったお菓子に対する愛好を紹介してきた。
その2本に続くかわった食の趣味3部作の最後として飾りたいと思う。よくそういう食べ方を「悪食(あくじき)」といったりするが、ちょっと聞こえが悪いのであえて「フェチ食(ふぇちじき)」といってはどうだろう。ゴロが悪くて言いづらいけど、そこはひとつ。
こっそりお伝えする 「そのまま麺」の世界。実はプレゼンターの私もその可能性はまだ完全に把握していない。
というのも、1食まるまる何もつけずに麺を食べたことは、さすがにないからだ。
今日は勇気をもって1皿まるまる何もつけずに麺を食べたい。
用意したのは8種類の麺。少しずつゆでたが8種類全部を盛ったら結構なボリュームになった。よしよし。
通の人はよくつゆをつけずに麺を食べるなんて聞く。そばだけじゃなく、ラーメンのつけ麺やうどんも、好きな人はつゆをつける前に麺だけすすって味を確かめるそうだ。
通の人が味を確かめるためにそのまま麺を食べるのに対し、こちらの基本的なスタンスは「待ちきれないつまみ食い」だからずいぶん違うが、やっていることとしては同じだろう。
麺が伸びる前にでは、いよいよ そのまま麺の味わいの世界をご紹介していきましょう。
突然部屋の明かりを消してすみません。
「ひみつの食べ方をこっそりお教えします」という雰囲気を出そうと思っての暗闇とろうそくの演出だったのだが、なんだか忍者屋敷に迷い込んだら麺だけ出されて食え! って言われてる、みたいな(みたいな?)画になってしまった。
せっかくだからこのまま試食は進めたが、戸を閉め切っているので部屋がむわっとするし、その上ろうそくの火は熱いしで何もいいことはなかったです。
納得したところで各麺の味を紹介していこう。
なお、麺の写真は暗闇だと判別が難しかったため、後で改めて太陽の下撮影した分かりやすい写真ですのでご安心ください。
冷凍うどんのおいしさには本当に驚かされる。一旦冷凍してあるのになんでもちもちなんだと。
そのまま食べるとダイレクトにもちもち感を楽しむことができた。これはもはや餅だ。
うどんといえば原材料が小麦粉と塩と水だ(この商品にはでん粉が含まれていたけれど)。そう、塩! 塩のおいしさはもうみんな知ってるよね。
というわけで、しょぱおいしい。これだけで十分おやつになると思う。
讃岐うどんは、すごくしょっぱい。以前香川のお土産にもらったものは、これにつゆをかけるなんてもったいない! と思ってしまうほどだった。
そういったわけで期待していたのだが、こちらの麺は県外用にマイルドに作られているのかそれほどしょっぱくなかった。ちょっと拍子抜け。
冷凍のものがモチモチだったのに対し、こちらはしっかりしている。うどんは喉越しとよく言うが、つゆをつけないと麺はすすれない。もぐもぐ食べる。噛み応えがあっていい。
うどんの原材料は小麦粉、塩だったが、そうめんはなんとそこへ油が入っている。もはや無敵といってもいいのではないか。
つゆをつけなくても表面がツルッとしている。これが油マジックか。そして、つゆをつけないとよく分かるのだが、そうめんってなぜだかさわやかな味がするのだ。
塩加減もちょうど良く、そのまま麺としてかなりおすすめです。
「温麺」と書いて「うーめん」と読む。宮城県の白石の名産の麺。あぶらを使わないそうめんという感じで、その分伸ばせないからか短い。
実は我が家には毎年祖母がくれるおなじみの麺で、そのまま食べる麺としてイチオシしたい麺なのだ。かなり塩気が強くて、もぐもぐ食べられる。その気になればつまみにもなると思う。
そばも、そのまま麺としてかなりいい線いっている。何しろ、しっかりとそばの味があるのだ。
今回改めて食べてみたが、メモに「おいしい!」と書いてあった。小麦粉と塩のハーモニーばかりだった今まで(それでも好きなんだけど)にそば粉という要素がありがたい。
塩気はあまりないけれど、香ばしくてばくばく食べた。そばを食べることを「たぐる」というけれど、つゆをつけてすするよりも、つけないで食べているほうが たぐってる感じがするぞと思ってどこか誇らしい。
茹で加減を確かめるためにちょろっと食べる麺として一番おいしいのはスパゲティだと思う。これまでの品々もどれも個性があっておいしかったけれど、やっぱりスパゲティはまた全然味が違うぞ。
スパゲティも原料は小麦粉と塩だ。なのにうどんやそうめんとここまで味が違うとは。「デュラム小麦のモセリナ」がスパゲティの小麦粉で、うどん粉など他の小麦粉とは染色体の数が違うらしい。麺に何もつけずに食べることを通じて小麦粉の染色体の話になろうとは。
あと、スパゲティはそのまま食べるとゆでているときのにおいがそのまま口にひろがる。甘いです。
ラーメンは、すごくラーメンの味がする。これが原料に入っている かんすいの力か。
つゆと一緒に食べるとラーメンは「麺だなあ」という感じだけれど、そのまま食べるとものすごいラーメン感を感じることができた。おいしい。
これまでの麺がゆでる麺だったのに対し、焼きそばは焼く麺だ。だから何の具もソースも加えずに焼いただけの麺として食べるのが筋なのかもしれないが、今回はあえてほかと同じくゆでてみた。
びっくりするほど、味がしなかった。これまでの麺もつゆナシで食べているわけだから、普通に考えれば「味がない麺」なわけだが、このゆでた焼きそばの味のなさに比べればずいぶんちゃんと味がついてる。
焼きそばだけはソースが不可欠だということが改めて分かった。
8種類、食べた。おいしかった。「何もつけなくても十分おいしい」というより「何もつけない麺が、おいしい」。
今まで何も考えずに食べておいしいと思っていたのだが、じっくり味わっていよいよそのおいしさに気付かされた。
が、ひとつ重大なことが分かったのだ。なんと、
そのまま麺を食べても、一向に食欲が満たされない
のだ。驚きだったので太字にしてお知らせした。満腹にはなる。お腹がいっぱいという体感はあるのだが、脳が満足しない。
一皿食べたきったあと、なんだかポッカリ心に穴があいたような気持ちになった。この「心にポッカリ穴」という表現はよく見かけるが、実際に感じたのは生まれて初めてかもしれない。心の穴にすきま風が通ってスースー感じた。本当に。
食べ終わって何も乗っていないお皿を見て、信じられない気持ちでキョロキョロしていた。
はっきりとしたことが分かった。そのまま麺を食べるのはおいしい。とてもおいしいけれど、食事にはならない。なぜなら、なんか物足りないから。よく考えてみればそのままのことだけれど、今回初めて分かった。
そのまま麺はつまみ食いだからこそおいしいのかもしれない。
だから私が好きなのは「茹で加減を見たり、待ちきれずに茹で上がりをちょっとつまんだりする、あのときにそのまま食べる麺」だということがよく分かった。
やっぱり、胸を張っては言えないこれはフェチ食だ。
▽デイリーポータルZトップへ | ||
▲デイリーポータルZトップへ | バックナンバーいちらんへ |