楽しさと不安さと疲れ
人の感覚で色々なところに行くのは結構楽しい。発見があったり、その人のことを深く知ることができたりなどの良いところもあるが、
どこに行くのか全くわからないまま行くのは通常の旅の2倍は疲れる。この日、ぐっすり10時間寝た。
あと、見返したら土日の夕方ぐらいにやっている旅番組っぽいなと思った。
他人がどんなこと考えているのか気になる。どんなところに行きたいのか、どんなことを考えているのか、それを感じられたら素敵だ。
また、人生なにが起こるかわからない方が楽しい。決まった人生なんてハラハラドキドキしないじゃないか。
上の2つは常に思っているが、体験なんてそうそうできない。しかし、今日それを体験することができた。
なにも知らないまま撮影に行って、他人任せで行動をすることになったのだ。感想としてはずっと不安でした。
※編集部より
この記事はデイリーポータルZの運営元であるイッツコムのサービスエリア、東急沿線の魅力を紹介する記事です。
デイリーポータルZでは企画を進める際に担当編集の方と「この企画ならこうやっていったらいいかも」など、話し合って進めることが多い。
だが、今回の企画は突然決まった。このインタビューで。
江ノ島さんが感激してDMを送った~北向ハナウタさんインタビュー
インタビューの時は笑っていたが、実際にやることになったときには震えた。そして、どんなことをするのか、なにをやるのか、教えてもらえないまま当日をむかえてしまった。不安すぎてあまり寝れなかった。寝返りを50回はしたと思う。
どこに行くのか。そしてなにをやるのか。聞いてみると「今日は東急世田谷線を全部降りてみようと思います」と言われた。なにそのパワーの企画。
路線図を見たら三軒茶屋駅から終点の下高井戸駅まで全部で10駅ある。1日で10駅。すごくたくさん行くなと思った。
暑さのせいか、不安のせいか、タオルが汗ですでにびっしょりである。まずは敵地観察をするためにキャロットタワーにある展望台へ行くことにした。
エレベーターを使い、26階まで上がる。家族連れの方々も乗り込んできた。三軒茶屋に住んでいると言えるの、なんかかっこいいなと思った。
そして、エレベーターを降りると、絶景が広がっていた。あと、ベンチに座っているおじさんが寝ていた。こんないいところで居眠りするのは最高な気分だろう。一回、家で寝てからもう一度集まりたい。
江ノ島「あそこに用賀のビルがあるじゃないですか...あ、しゃべりはじめたけど、しゃべりたいことなかった」
北向「手をあげたのに...!」
江ノ島「高いところが好きだなと改めて感じました」
北向「子ども...?」
次の目的地は西太子堂駅である。歩いても行けるが、暑くて歩きたくないと2人の間で同意がなされたので電車に乗ることにした。
乗る前に北向さんが三軒茶屋を少し歩いてみたいと言うので駅周辺を歩く。駅前にはビルが建ち並ぶが、路地に入ると少しディープな飲み屋街に出会える。
三軒茶屋から出発しよう。一日乗車券を買って一駅ずつ降りる計画らしい。
車内では「こんな低いところを走るんですね!」「住宅街の中を通り抜ける感じが新鮮ですね」と盛り上がった。これからさらに興奮しようとしたときに西太子堂駅についた。
さぁ、どこに行くのか。北向さん、どこに行きましょうか?
逆に聞かれた。「どこに行くのか決めてないんですよね」と衝撃的なことを言われた。ノープラン。
近くに神社があるらしいので、そこまで行ってみることにした。北向さんを先頭に出発。そして、出発してすぐに逆に歩いていることに気づいた。
住宅街を歩く。
北向「住宅街を歩くの楽しいですよね。人の生活が見えるような気がして」
江ノ島「あーいいですよね」
そんな会話をしていたら、素敵なお店を見つけた。
イチゴミルクをメインに、アップルマンゴー、ソーダ、イチゴと色々な味がある。しかも当たりくじつきである。当たればもう1本もらえるそうだ。ガリガリ君と同じシステムと書くとおしゃれなアイスも身近に感じられる。
北向さんが購入している間、業務用のエアコンの風が直撃する場所を探して涼んでいた。家に導入したいなと思った。
北向「やばい、もう溶けてる!」
江ノ島「早く!早く!」
北向「全然取れない!溶け始めている!」
江ノ島「早くしないと!」
北向「あ、溶けてなかった」
お参りする前にアイスを食べきってほしいので、近くの広場で食べきってもらう。
録音していた音声を聞き直したらセミの声がすごくてさらに夏休みっぽさがある。そういう環境音があってもいいな。
食べ終わったのでお参りをしよう。境内に入るとうさぎがお出迎えしてくれた。
「お金持ちになりたい」と願った自分が恥ずかしさを感じつつ、神社を後にする「次の駅へ行きましょう」と電車に乗り込んだ。
続いての駅は若林。
「キャプテン翼のゴールキーパーみたいな名前っぽいですね」と聞いたら「芸人のオードリーの方をイメージしてました」と言われた。今の時代に生きているなーと思いました。
この場所では見たいものがあるらしい、「自動車道と線路が交差する場所があって、そこを見たいなと思ってます」
ただの踏切だと思うだろうが実際に見てほしい。少し興奮をする。
「若林踏切」というなのこちらの踏切は遮断機がなく、踏切前には信号機が設置されている。線路に設置しているセンサーが電車を感知すると、信号が赤になる仕組みになっている。
目の前を通るので迫力がある。「ここいいですね」と北向さんの顔を見たら白くなっていた。どうした!?
緊急事態だ。3駅しか来ていないがこの企画が終わりそうになっている。がんばれ北向。さっき、アイス食べたからだ。
何事もなくてよかった。安心して次の駅に向かう。
松陰神社前駅。名前の通り、松陰神社がある町だ。
1963年に高杉晋作、伊藤博文によってこの地に改葬され、1882年につくられたこちらの神社。学問の神としてあがめられており、合格祈願や学問成就を願いに来る人もいれば、境内には松下村塾を模した建物もあり、歴史好きの人にも人気のある神社である。ちなみに隣の敷地には桂太郎のお墓もある。Wikipediaには「案内が不十分なこともあり、参拝者は少ない」と書いてあるので、みんな行ってほしい。
参拝する。今日、神社に行きまくりである。このままだとほぼ全ての駅で神社に行くことになるかもしれないし、北向さんが小銭を全然持ってないのでどんどん10円を貸していくことになる。
参拝後、お腹が減ってきたのでそろそろお昼を食べたい。何かいいお店はないか歩いていたら、いい雰囲気のお店を見つけた。
みなと食堂は70歳になるおばあさんの店主が一人で営んでいる。この自分で取るスタイルは「ばあばが一人でやるにはどうしたらいいのか息子たちが色々と考えてくれて、大皿でまとめて作って出した方が楽だろう」ということでこのスタイルになったそうだ。
全てのおかずが優しい味で田舎の母親を思い出させる。店主のおばあさんが朝早くに起きて作っているそうだ。弁当を作っていたときの母親と同じでなんだか泣けてくる。
蒸し卵が少し甘めの味付けで、箸休めにちょうどいい。毎日食べたくなるので「近所にほしいですね」と北向さんと絶賛していた。
中にそうめんが入っている。祖母の家でも同じのが出てきて懐かしくなった。ばあちゃん...。
テレビを見ながら、懐かしさを感じる料理を頂く。小学生の夏休みのようでなんだか、心が満たされる。今、いい企画だなと思い始めている。
食後のコーヒーを飲みながら、お店の話を聞いた。
岩手に住んでいたのだが、一人でいるのを心配した息子さんが東京へ来るように呼びかけた。
しかし、なにかさせないとすぐに帰ってしまうので、息子さんがオーナーだったから揚げ屋をやめるタイミングで、改装して始めたのがこちらのお店である。
しかも、どこかでお店をやっていたわけではなく、ここのお店で初めて料理を出すことになった。70歳からの挑戦だ。新しいことを始めるのに遅いってことはない。
近くに大学や会社があるので来る人たちはもりもり食べていくらしく、基本、ご飯は大盛りだ。
心もお腹もいっぱいになるいい店だった。次の駅も楽しみ。
続いての駅は世田谷駅。世田谷区の区役所や税務署がある。ようやく半分だ。
どうやらこの近くに電車が見える公園があるらしい。そこに行くことにした。
途中、北向さんが雑学を教えてくれた。
北向「世田谷の世田と瀬戸内海の瀬戸って同じ意味らしいですよ」
江ノ島「すごい、どこで知ったんですか?」
これから出てくる全部の知識の出どころストへぇになるなと思った。
でも、自分が持っている世田谷の知識は爆風スランプには「たがやせせたがや」という曲があるしかないので尊敬する。(ちなみに諸説あるが狭い谷地のことを言うらしい)
公園にある遊具に窓があるので「そこから見えるんじゃないですか?」と北向さんに言う。撮れ高を気にしたのか乗ってくれた。
ベンチに座りながら電車を見られる。子どもは大喜びだろう。大人もボーッとしながらビール片手に電車が通り過ぎるのを見ているのもいいかもしれない。仕事中にそういうことをしてサボりたい。サボりたいのだ。
あとこの公園、松陰神社前駅の方が近かった。「松陰神社前駅の紹介ポイントじゃなくて大丈夫ですか?」と聞いたが「まあ、いいでしょう」と歩き出したので付いていった。遠くでは雷がなっていた。
折り返し地点の6つめの駅、上町駅へ。
とりあえず駅周辺を歩いてみる。どこに行くのだろうか。
周辺には国の重要文化財である「世田谷代官屋敷」がある。江戸時代中期のちょっとお金持ちな人の家がそのまま残っているそうだ。近くには資料館もあり、ちょっと見たい。
オオゼキを通り過ぎてあたりで突然止まった北向さん。なにかあったのだろうか。そのとき、衝撃的な一言が飛び出した。
大きなオオゼキとでかいQRコードを見ただけで帰った。北向さんのメンタルの強さを感じた瞬間だった。
続いては宮の坂駅。駅をおりてすぐ見どころがあった。
元々東急で走っていたのが、譲渡されて江ノ電となり、引退したあとまた東急の地に戻ってきた。プロ野球選手の歴史みたい。野茂が投げれば大丈夫です。
開放されており、中に乗り込むことできる。かつて走っていた当時の雰囲気を中から感じられるのだ。しかも運転席にも座ることできて、それが無料。いたれりつくせりである。
また、宮の坂駅には「世田谷八幡宮」があるのだが、そこにはなんと土俵がある。
末広がりで縁起のいい8つめの駅は山下駅。小田急電鉄の豪徳寺駅との乗り換え駅になっており、商店街には魅力的なお店が立ち並ぶ。また、招き猫発祥の地としても有名で豪徳寺駅前には招き猫の銅像が建っている。
江ノ島「豪徳寺とか見なくて大丈夫ですか?」
北向「とりあえず休んでから考えましょう」
暑いので賛成である。冷たいコーヒーをのどを鳴らしながら飲んだ。幸せって意外と近くにあるな。
さて、どこに行くのか。北向さんに聞いた。商店街にも行ってもいいし、招き猫を発祥の地を見に行ってもいいなと思っている。幸福がほしいのだ。
サンマルクで十分な休憩をして次の駅へ。体力が満タンである。終点までもう少しだ。9つ目の駅、松原へ。
駅周辺をぶらぶらする。するとゴルフの打ちっ放しがあった。「行ってみますか?」と聞くが「大丈夫です」とチラ見して終わった。撮れ高。
この近くにバッティングセンターがあれば行こうと調べたら三軒茶屋に行かないとないらしい。
江ノ島「どうしますか、三軒茶屋に戻りますか?」
しばらくの沈黙のあと「まぁ、今日はやめましょう」となった。すでに2人とも疲れているのだ。帰ったらリポビタンDを飲もうと思っている。
そして、開始から5時間、ついに終点の下高井戸に着いた。長い道のりであった。2人とも「大きなお風呂で癒やされたい」と気持ちになっている。
東急電鉄のサイトを見ると「生鮮の店がたくさんあり、駅前市場は威勢のいい掛け声と新鮮な食材を求める買い物客でいつも活気にあふれています。商店街には名物のコロッケやたい焼、さらにスイーツ系の店も充実していて要チェックです」となっている。
市場の入り口近くのお店を見てまわる。魚屋のようだ。熱々のご飯と九州の甘い醤油をたっぷりつけた新鮮な刺身を食べたい。いま、気持ちを書いた。
せっかくだからここで何かを買いたい。北向さんが商品を選ぶ。筆者はマグロに気持ちを持って行かれている。気持ちが帰って来ない。
焼きししゃもを買うようだ。
北向「本当のししゃもらしいのでおいしそうだなと思って」
人の感覚で色々なところに行くのは結構楽しい。発見があったり、その人のことを深く知ることができたりなどの良いところもあるが、
どこに行くのか全くわからないまま行くのは通常の旅の2倍は疲れる。この日、ぐっすり10時間寝た。
あと、見返したら土日の夕方ぐらいにやっている旅番組っぽいなと思った。
▽デイリーポータルZトップへ | ||
▲デイリーポータルZトップへ | バックナンバーいちらんへ |