特集 2023年2月14日

連続写真のよさを私達の日々の生活にも導入する

スポーツなどで使われる連続写真であるがそのよさを使って私達の日常を輝かせていきたい

動いているものを一定の間隔で撮影し、一枚の写真に合成したもの。それが連続写真である。走り幅跳びやゴルフのスイングなどスポーツの分野で今でも連続写真を見かけることがある。

映像撮影が当たり前になった今、連続写真のよさを掘り起こすべくいろいろな状況で撮影してみた。浮かんできたそのよさとは?

2006年より参加。興味対象がユーモアにあり動画を作ったり明日のアーという舞台を作ったり。

前の記事:私達は酒を飲みたいのではない。居酒屋の黒板を見ていたいのだ

> 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー

連続写真はスポーツや動物の動きなど一瞬を切り取るもの

連続写真とは何か。当サイト、デイリーポータルZにも連続写真で走り幅跳びの写真を作成した記事があった。

記事『夢の幅跳び写真を撮った!』より

記事では走り幅跳びをうまく飛べない記者がせめて連続写真だけでもと作成したものである。いわばインチキであるが、それが可能なのも合成して作る連続写真のよさの一つでもあるだろう。

とはいえ他にもよさはありそうだ。たとえば映像では一瞬すぎて見過ごしてしまう動きがよく伝わること。スポーツの図解や動物図鑑で見かけるのはこのためだ。

一方、スマホを発明した私達の生活は人類史上ないほどに撮影をする日々だ。そこに一瞬を切り取るのに最適な連続写真を導入するとしたらどんなことができるのだろう。

そうして向かったのは100円ショップである。

ガムテープと発泡スチロール板を買ってくる

これで何をしたかというとそば皿を作ったのである。

スチロール板をガムテープで覆い、そば皿を作る。8つ作った。そばは麻紐である
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ドジを切り取れ

連続写真で何を見せたいかと考えて一つ思い当たった。ドジである。私達の日常におけるスペクタクル的な一瞬といえばドジではないか。そば屋がそば皿をひっくり返すところ。ひっくり返して「バカヤロー!」と言ってるところ。できれば頭にそばが乗っかっているところ。ドジを連続写真で撮りたい。

そうしてそば屋とそば皿とそばを用意した。俳優とスチロール板と麻紐で。全部偽物である。だがその分壊れても大丈夫、思いっきりドジができる。

そば屋の格好をしているのは俳優の八木光太郎。最近は大人計画や映画MONDAYSなどに出ていた有望株である。デイリーポータルで演劇の中座文化を紹介したところそんなもん広めるなとめちゃくちゃに怒られた一件でおなじみ。でも中座を許せるのが文化の豊かさだとおれは思います、八木くん。

こうしてそば屋のドジを再現してみよう。私達の通常のスマホではこうだ。

インスタのストーリー1枚目​​​​​だと考えてみよう
インスタのストーリー2枚目​​​​​
インスタのストーリー3枚目​​​​​ 素敵ないいねがたくさん集まることだろう

まあ、まあ、これでもいいんじゃないか、というドジの写真である。ふつうならこう。

さて今度はこれを連続写真化していこう。そのためには一回動画で撮る。そこから一定の間隔で写真を抜き出して加工していく。

ちまちまと加工していく
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面倒を経てドジの連続写真ができあがる

そうしてできあがったのがこちらのドジの連続写真である。こうした切り抜きに適切なソフトが見つからず、正攻法のPhotoshopでやった。時間をかけて10枚を切り抜く。

それはダンボール箱で届いた栗の皮を全部剥いていくくらいの面倒さであるがその果てにあるのは栗きんとんではなくドジである。

はたしてドジが世界記録を出すような走り幅跳びのようになるか。疾走するサラブレッドのようになるのか。

そうしてできたのがこちらの写真だ。

疾走するサラブレッドのような躍動感がドジに宿った
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躍動するドジ

よくわかるドジ。しみじみとドジ。見るほどにドジ。一回目をつぶり、また見開いてもドジである。

ちょっと一回トイレに行ってまた帰ってきてもドジ。「よくわかるな」というムダな理解しやすさがドジに宿っている。

流れるようにドジ。増えていくドジ。私達の死に際の走馬灯にはそば屋の一コマがこんな風に挟み込まれるのかもしれない。

なんだこのドジの教則本は
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徹底解剖!そば屋のドジ

黒の背景にするとドジの教科書のようになった。『すぐわかる! 図解 そば屋のドジ』として図書館に入ってしまいそうだ。これが私達の生活においてなんになるかはわからないが、日常の1コマのクローズアップとして、いいね!はたくさんつくだろう。

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どうでもいいものを連続写真に

さてドジは「人の失敗の瞬間」であり「よくない」ものである。走り幅跳びやゴルフは「よい」側にあるだろう。どちらも成立するとなると、その中間である「よくもわるくもない」ものはどうだろうか。

たとえば人と人の進路がぶつかって動けなくなった(お見合いをする)瞬間である。どうでもいい瞬間だ。

前から来た人とぶつかりそうになって、進路に躊躇したとき。これを連続写真にしよう。
しようとか軽々しく言うが11枚を切り抜いて切り抜いて…ちまちまとやるのだ

日常のどうでもいい瞬間の連続写真

被写体が二人になると順番に重ねていくと一方が隠れてしまったりするので、重ね方に工夫してこういう連続写真になった。

これが人がお見合いをする瞬間の連続写真である。

『完全解剖!よくわかる!躊躇』右左に少しうろちょろする瞬間がよくわかる

生き生きとどうでもいい

躍動感のあるどうでもよさ。人の躊躇がしっかりとわかるようになった。こんなに生き生きとどうでもいい瞬間を見せられて私達は何を思えばいいのだろう。ついザ・イエロー・モンキーみたいなことを口走ってしまう。

善行を連続写真に

さて今度は「よい」瞬間はどうだろうか。走り幅跳びやゴルフはどちらもよいものであるが、それは私達の日常生活と呼ぶには少し敷居が高いものである。

日常のよい瞬間、日常のファインプレーといえば親切、たとえば膝の悪いおばあさんをおぶって移動させてあげることなんかあったとしたらそれは連続写真で切り取りたい一瞬であると思うのだ。

たとえば膝が悪い人(信号待ちのおばあさんなど)をおぶっていくような親切な瞬間はどうだろうか
躍動感のある親切。だからなんなんだ…

親切を拡大していくとこってり感が

流れるようなそば屋の親切。親切にも躍動感が宿ることがわかった。そして親切をたとえばインスタでこんな風に見せられるとすると、胃もたれしそうなこってり感が予想される。

『徹底解剖!私の親切』であり、そんなこと言われてもな、という気もする。

嫌がらせは連続写真になるのか

今度はまたバッドテイスト側に振ろう。小学生がやるような膝カックンである。

膝カックンを連続写真にしてみて見よう
よく分かる。非常によく分かる。だがはたして膝カックンのことをこんなによくわかってどうするのだろうか。

なんなんだこれは

よく分かる。だから何なのだ。でもよく分かる。そんな風に価値観のバロメーターが行ったり来たりを繰り返す。連続写真という表現力のあるものでどうでもいいものを表すと、私達の脳は混乱をするようだ。

いつかそば屋に膝カックン決めたいものだ、という思いしか湧き上がってこない。なんなんだこれは

ちょっとしたGoProみたいなものではないか

全国の机の引き出しの中に使われなくなったGoProが眠っている。あなたのアクティブな一瞬を切り取ろうというイデオロギーに乗っかった私達は、たちまちのうちにそんな瞬間はいくつもないことを知った。

そうしてまた一つ新たな表現を生み出し消費しては次の表現を待っている。かつての文化連続写真も使いようによっては私達の生活を彩るものとなることだろう。だがきっとすぐ忘れ去る。

私たちは日々の生活を裁断し細切れにして情報として消費するようになった。あんな情報、こんな情報、といろいろな表現で。表現自体を消費するようになった。

いつかこのゲームから降りる日が来るのだろうか。と思いつつもそばをかぶったそば屋の写真をSNSにアップしてはいいねをもらってほくそ笑んでいる。

ここまで持っていきたかったが、そんな奇跡は起こらなかった

ライターからのお知らせ

私たちは明日のアーという舞台をやっていて、そこではあんまり誰も見たことないような冗談を舞台上に表現しています。だってギャグは新規領域が一番おもしろいから。
そんなラジカルさ第一の私達ですが、短尺化と外来者という2要素を強めていった結果、なぜか新喜劇にどんどん近づいてきました。なので3月28日から浅草の木馬亭で新喜劇をやります。あの木馬亭で、 今までの冗談をとても見やすい形で、我々にとってのショーケース的な位置づけの公演をやります。
チケットもそろそろ発売します。八木くんはそば屋でなくお寿司屋さんになります。お楽しみに。
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