トロンボーンとわたし
学生時代、大学のオーケストラに所属していた。
それまで音楽経験はなかったが、新歓の楽器体験で触ったトロンボーンがおもしろくて入団を決めたのだ。スライドの伸び縮みで音程が決まる大胆さがよかった(伸ばすほど音が低くなる)。

クラシック音楽ってなんかかっこいいし、聴いててもバカにされなさそうでいいよな、などと当時の僕は考えていた。
ああ、若さよ。オマエが何を好んで聴いていようが世間様はどうでもいいのだ!

これは完全に余談なのだが、お尻に腫瘍ができて楽器ケースを持ったまま外科を受診したとき、担当のお医者さんがチェロの演奏家だったことがある。
珍しい縁で話は弾み、今は何の曲を練習してるん?と医者から尋ねられたときの僕はベッドに横たわり臀部を露出していた。
お尻に空気を感じながら「ドヴォルザークの六番です」と答えると、医者は「ドヴォ6いうたら、タラタラタラタッタラタのやつやね~」と口ずさみ、僕のピンポン玉大の腫瘍を優しく撫でたのである。
この状況は一生忘れないだろうなと思った。

大学を出てから幾度かあった引っ越しのタイミングでは常に楽器も連れ立ってきたが、触ることはほとんどなかった。単純に下手すぎるせいで手が伸びないのだ。
パートでハーモニーを奏でるとか、コンサートマスターに合わせるとか、指揮者の希望する表現に応えるとか、そういう次元ですらなくて、まず、楽譜にある音を出せたことがない。
具体的にいうと上のF(HiFじゃないですよ)以上の音がまったく出なかった。楽譜どおりに演奏できないことが分かっているのにステージに立つ恐怖、ご存知ですか?

今回、写真を撮ってもらうことで楽しい思い出ができたらいいなと思う。人生は冒険や!
町の写真館にいこうぜ
おらが町の写真館は近年リニューアルされたこともあってかなりオシャレな出で立ちである。郡内で一番かっこいい建物と言っても差し支えないだろう。

文豪の坂口安吾はその晩年に高千穂を訪問して「(この観光地の)公衆便所は高千穂町全体のうちでどの建物よりも近代建築といってよいぐらい」という変な文章を残しているけれど、今でいうとここがイイですよ、安吾ちゃん。

予約をしたとおりの時間に写真館をたずねて、スタジオに通してもらった。
写真屋さんに入るのは物心ついてから初めてなので緊張する。あとめちゃくちゃ良い匂いがする。なんで?

「ええと、何に使うわけでもないんですけど、トロンボーンの写真を撮ってもらいたくて、楽器を撮ってもらうという行為そのものが目的というか、こう、できるだけ、かっこよく撮ってください。いっぱい。」
そんなボンヤリした撮影の注文があるか。慣れないなかでカメラマンの方と言葉を交わしていくと、最終的に「ねとらぼとかオモコロみたいな記事で使うんですね」という理解度200%の返事がもらえてびっくりした。そう、それです!

マイ楽器の写真を撮ってもらうとアガる
撮影がはじまった。写真を撮られるのは気恥ずかしくてあまり好きじゃないけれど、自分の楽器だと余裕を持って見ていられる。我が子を自慢しているかのような、誇らしい気分になる。



楽器の置き方を変えたりしつつ、何枚か撮ってもらったところで「カタログみたいな写真ですね…!」とカメラマンさんが笑いながら言う。写真を見せてもらう。


おお!すごい!
本当にカタログみたいな写真で、つられて笑ってしまった。おもしろい。アガる。なんでかわからないけど!
マイ楽器がカタログみたいな撮られ方をすると人は笑います。大いなる知見ですよこれは。

ちなみにこの楽器はBachというメーカーの42BOGLというモデルで、調べてみると僕が買った10年前と比べて今は希望小売価格ベースで値段が2倍くらい上がっている。もう資産じゃん!


黒の背景だとカッコよさが余計に際立つ。楽器への愛着マシマシである。もっと大切にしてあげようと思った。上のFの音が出るまで頑張って練習するよ……。

当初は楽器だけ撮影してもらう予定だったが、せっかくなので楽器を構える姿の写真を撮ってもらうことにした。


どうだ!プロ奏者になれたぞ!!
楽器やってるみんな、写真撮ってもらったほうがいいですよ。まともに演奏できなくても一瞬でプロの音楽家の風格が出ますから。プチ贅沢にぜひぜひ。


というわけで、スタジオでカメラマンに撮ってもらう写真は綺麗だった。

そうだ。フォトスタジオで撮ってもらう写真はきれい、そんな至極当然のことを記事の締めにしようとしている。
だが、実際に体験した私の言葉には重みがある。
フォトスタジオで撮ってもらう楽器の写真は綺麗でアガる!以上!!
撮影:工藤写真館(ホームページ)