アジが釣れて嬉しい
無事にテントが設営できたところで、夕飯のおかずを釣りに行く。
テントをこのまま出しっぱなしにして大丈夫だろうかという不安もあったが、今更これを片付けるという訳には絶対行かない。
佐渡島の治安を信じて、動かせる荷物だけ一旦車に戻して、目星をつけておいた釣り場へと向かう。
前から憧れてはいたけれど、私に釣れる気がしないのでやったことのなかったアジのルアー釣り(アジング)を、あり合わせの道具で試してみたところ、10投目で小さなアタリがあり、20投目に明らかなアタリ、そしてその数投後には20センチほどのアジが釣れてしまった。ものすごくうれしくて、「おー」と小さく声が出た。
周囲に誰もいない場所で、一人で黙ってルアーを投げて、アタリという返事を待つ海との会話は、最高にドキドキする時間だった。
この日はとても調子がよく、いくらでも釣れそうな気配だったが、一人で食べ切れる分を確保したところで終了。こんなに釣れると思っていなかったから、氷を買っていないのだ。
地元のスーパーで買ったら198円くらいのアジだけれど、わかりやすくプライスレスな充実感に満ち溢れている。普段の釣りでも釣れればうれしいものだが、今日は釣果が晩飯に直結していることが喜びを倍増させる。
予想よりも早く釣りが終わったので、近くの温泉に余裕で入ることができた。
さすがにもう寒くはないだろうと薄着しか持ってこなかったため、冷たい海風ですっかり冷え切った体が、柔らかいお湯でほぐれていく。
これが俺のキャンプ飯
野営地に戻って夕食の準備をする。テントがなくなっていたらどうしようと思ったが、そのままだった。他の方々はすでに調理を終えているのか、全員テントの中にいるようである。そもそもキャンプでわざわざ料理をするほうが少数派なのかも。
鍋類はこれまた一度も使っていないダイソーのメスティン(ヨーロッパ式の飯盒)が2種類、そしてたまに出番のある鍋とフライパンになるフタが重なったセットを持参している。
どっちのメスティンでごはんを焚こうかウキウキで迷っていたその時、そういえばお米を持って来ていないことに気がついて愕然とした。あー。
今からお米を買いに行く気にもならないので、諦めてアジを捌いていく。刃物は折り畳み式の果物ナイフしか持参しなかったのだが、魚を捌くのならちゃんとした包丁が必要だよなと思いつつ、この不便さがアウトドアであることを認識させてくれる。
でもやっぱり切れ味が悪いとイライラするので、野外用の包丁とかを揃えてしまいそうで怖い。というか、前にそんなのを何本か買ったような気もする。
まずは釣りたてのアジを大振りの刺身にして、醤油をかけてそのままいただく。ワサビやショウガといった薬味を用意しなかったことを後悔したが、これだけで十二分においしかった。
魚は寝かせることでうま味成分が作られるため、釣りたての魚は意外と物足りない味になりがちだが、さすがにさっきまで海を泳いでいたアジだと、その鮮度だけで圧倒的な逸品になってしまう。歯ごたえが驚くほどブリンブリンで、脂も程よく乗っている。
釣ってから一度も冷していないので、微妙に生ぬるい刺身なのだが、だからこそ魚の味がはっきりと感じられる。大振りに切ったのも大正解。これを炊き立てのごはんで食べたかったが、佐渡の地酒との相性だって抜群。この瞬間だからこそのご馳走である。
インスタントアジラーメン
続いてはメインとなる料理だ。白米があるのであれば残ったアジを開いて焼いただろうが、本日の主食は己のポカでインスタントラーメン。ならばアジを水で煮て、その汁で麺を茹でてしまえ。
熱源は手間のかかる炭火ではなく、利便性を重視してカセットコンロで十分だ。初のソロキャンプなので、これくらいがちょうどいい。
アジの出汁をたっぷり吸った麺を夢中ですすり、骨だらけで食べにくいなと心の中で文句を言いながら、ちょっと醤油を垂らして魚の身を楽しみつつ、ニヤニヤした顔で日本酒をいただく。
でも本当に今飲みたいのは冷えたビールだし、ネギかトマトでも買っておけばラーメンがもっとおいしくなっただろうけれど、物足りないくらいでいい気がした。
一人なので他のことに気を取られることもないので、この場の空気感や一期一会の味が自分の体の中に染み込んでいく。ずっとワクワクしていた。ふと空を見上げると満天の星空だったが、それすら今日はおまけの存在なのである。
ソロキャンプ、ものすごく楽しい。いやびっくりした。今回は初心者だからこその楽しさに溢れていたが、慣れたら慣れたなりの遊び方も追求できそうだ。
この様子を動画で撮影してYouTubeにアップしたら人気のコンテンツになるのではと思ったが、それは10年前に気づけよという話ですね。
そりゃソロキャンプが流行るよな~と、実際にやってみて実感した。私の場合は嗜好がちょっと特殊かもしれないが、人の数だけソロキャンプの理想があるのだろう。
二杯目のラーメンを食べ終え、炊事場のかたづけをして、歯を磨いて自分のテントへと引きこもる。
誰かと一緒の夜だったら、会話が楽しくて寝てしまうのがもったいないだろうけれど、一人ぼっちなのでそれがない。
スマホの電波も入ったり入らなかったりの場所なので、SNSを開かずにさっさと寝た。

