無水カレーのフタだけが動いている動画を撮ろう
無水カレーには、野菜の旨味が凝縮されておいしいとか、油分を抑えられるとか、いいことがたくさんあるようだ。
僕はその中でも「閉まらなかったフタがゆっくり閉まっていく」ところに注目したい。
フタが勝手に動いてすごい、ということを強調したければ、他のものが動かなければいい。僕が写り込んで静止し、無水カレーのフタだけが動いている動画を撮ろう。
鍋をパンパンにする
フタを動かすために無水カレーを作ろう。レシピをいくつか調べた。
ここで気が付いたのだが、フタは、初めから閉まるものならば閉まった方がいい。野菜の水分を鍋の中に留めるためだ。
僕が見ていたレシピは、家庭用の鍋でたくさん作るためとか、かさが減る様子を見せて興味を引く、パフォーマンスとしての意味合いがあったのかもしれない。
いいだろう。水分が飛んでしまうかもしれない、というリスクを負っておもしろい方の作り方をしよう。
水分の多そうなトマトをたくさん入れる。
初めはタマネギを炒めてコクを出して、というレシピもあったのだが、フタの動きのことを考えると水分は1回でまとめて出した方がいい。何も炒めずトマトを放り込んだ。
かさと水分がありそうなトマト、タマネギ、ナスを重ねた。えのきは細かくて積んだ時に高さが出そうなので選んでみた。
かさには関係ないが、味のためにニンニク、ショウガも入れた。
ずっと、やっていることが料理っぽくない。
自分と全く違う存在に食事を用意しているみたいだった。地球に来た宇宙人が食材を観察して「こうしてくれたらなんとか食べられる」とか言って、上の写真のものを用意するように頼んでくるのだ。
「本当にこれでいいのか」という気持ちと「これでいいってすげえじゃん」という気持ちが交互に押し寄せてドキドキした。
フタ、閉まるかも
さあ、閉まらないフタを載せよう、とフタに目をやった時に胸がザワッとした。
ギュッとやったら閉まるだろう。
フタ自体に厚みがあって飛び出た部分もカバーできちゃうのだ。重さもある。
水分が閉じ込められておいしい無水カレーができるだろう。でもフタが動く様子が見られない。仕方ないのでアルミホイルと別の鍋の小さいフタで、動きを見る用のフタを作った。
静止して水道料金のことを考える
準備ができたので鍋を火にかけて僕は静止した。
5分ほどするとグツグツという水気のある音がしてきた。水、入れてないのに。ウソみたいだ。
焦げている感じもしない。良い具合に煮えている時の音と匂いがする。
トマトを水として使っている。ずっと静止しているとこのすごさに慣れてしまって、トマトの値段と水道料金を比べるというすごく野暮なことを考えていた。
もし無水カレーが当たり前になった世界で、水道からジャーっと水を出してカレーに使ったらあまりの便利さに卒倒するだろう。安いし、買いに出掛けなくていいし。ヘタとか取らなくていいし。
まぶたが重くなってきた。眠い。やることがないと眠くなる。
でも静止するのと寝るのは違うだろう。時間が止まったかのように、そこにいなきゃダメなのだ。
ここまでで30分ほど。フタが沈みきったと判断し、よく混ぜてからちゃんとしたフタに取り替えた。
無水カレーだけが動いている世界になったのか
この間に撮った動画を確認してみる。
アルミホイルのフタがゆっくり沈んでいく。
鍋が閉まらない、というどうしようもなさが、勝手に、ゆっくりと解決していく様子である。
載っているフタが小さいので、深く沈むことになり、より動きが大きく見えてよかった。
ただ、一つだけ気になるのは僕が動きすぎていることである。静止しているつもりだったが、こうして見るとかなり動いている。表情も、段々と頑張って起きている顔に変わっていくのが分かる。
鍋のフタは良くやったのにな。悔しいので編集ソフトで僕が動いてないgifを作ってやった。
見たかったものができてしまった。こんなことでいいのか。
無水カレーだけが動いている世界である。すごく動いている。こんなに動くのだ。普段動かないフタが。
信じられるだろうか。こういう料理なのだ。すごい。
食べよう
そんなことをやっているうちにカレーができた。
すごい旨味のカレーだった。食べれば食べるほどうまい。
作る時のビジュアルから、パンチのあるラーメンみたいな味を想像しちゃうけど、もっと優しくて健康的な味。あの鍋に入れたものしか入っていないのだから当たり前だ。
でもトマトやナスやひき肉、それぞれからこのカレーを想像するのも無理だろうな。鍋の中ですごいことが起きていたのだとしみじみ感じた。
食べ終わってすぐ、次食べるのが楽しみになる。たくさん作ったので残りは冷凍して保存した。
あの動いていたフタの中にはこんなに旨味たっぷりのカレーがあったのだ。おもしろい料理である。無水カレー。

