イスを使った方がモンブランに対して真摯かなと思ってやってみていた。
何かが違うなと思ってやめた。
涼しくなってきた。秋だ。するとその次にはモンブランのことを考える。好きなのだ。
モンブランを食べたい。しかし1つ2つ食べるだけでこの気持ちを満たすのはもったいない気がする。もっと圧倒的な体験でモンブランと向き合いたい。
モンブランになればいいのだ。
土台となるクッキー生地やスポンジの上にマロンペーストを使ったクリームを絞るのがモンブランである。
糸状のクリームが巻きついているものが一般的だが、もっと細いクリームがおそばみたいに盛り付けられているものもある。
麺みたいなモンブランクリームがドシャドシャかぶさる様子をテレビで見て、あれをかけられる側になりたいと思った。
そうだ、食べ物を顔にかけるのはもったいないので口に直接入れてもらおう。絞り袋から直接モンブラン食べよう!
こうして絞り袋から直接モンブランを食べることになった。まずクリームを作ろう。
蛮行をしようとしているので、せめて作る工程には手間をかけて敬意を払いたい。だから皮の付いた栗を探したのだけど、お店を回っても見つからない。
「今年は少ないんですよ」と八百屋さんが言っていた。今、栗が貴重なのだ。一層の敬意と感謝を込めながらむいてあるやつで作ろう。
材料がシンプルなので栗をダイレクトに感じられておいしい。もっと滑らかなペーストにしたい人は裏ごしした栗を使うらしいけど、細かい粒の残った栗のペーストで正解だったと思う。栗そのものより栗を感じる味になった。
これに生クリームを加えてかたさを調節したら完成。
あとは上を向いて絞り袋を握るだけなのだが、せっかくなのでまずは普通にクリームを使ってみたい。
ワイルドな出来栄えになったので遠くから撮った。僕の技術の問題はあるが、クリームと絞り袋は問題なく使えるぞ。
作ったモンブランは一旦冷蔵庫に入れて、一口目はやりたいことからやろう。
クリーム、絞り袋、今年まだモンブランを食べていない俺、全ての準備が整った。
自分でも見たことのない顔になった。モンブランだモンブラン。モンブランが直接口いっぱいまで入ってきた。
モンブランクリームをかけられているので僕がモンブランなのだが、僕が今味わっているのも紛れもないモンブランである。
まずクリームがおいしい。そこに直接食べている背徳感がスパイスとして加わって畏怖のような気持ちが生まれた。「ごめんなさい…」と呟きながら栗の香りと味を全身で感じた。
こんな羽目の外し方をしちゃったら、せめてこれから善く生きるしかない。気が引き締まった。
しかしクリームがまだあるので蛮行を続けよう。
しかし袋を握ってもクリームが出てこない。細かい栗が詰まってしまうのだ。
モンブランの口金がシンプルな丸なのは、栗が詰まらないようにするための工夫なのかもしれない。
クリームが1本なので、圧倒されず味に集中できる。太いのもあって、まだ材料のものをつまみ食いしているみたいだ。おいしい。
そう考えるとモンブランの口金は、口に入った瞬間にモンブランでやっぱりすごかったなと感心した。
葉型のより細いし、波の形の舌触りがあっておいしい。やはり形が細いとタッチが軽くなって好きだ。
モンブランの口金がすごすぎて圧倒されてしまう、という人は衝撃がマイルドになった波型がおすすめかもしれない。
ここまでの感想をまとめておこう。
【モンブランの口金】
想像以上にモンブランが飛び込んできてびっくりする。すごい体験
【星型口金】
栗が詰まってしまう。もっとなめらかに作ったクリームならきっと絞れる
【葉型口金】
大きいのでクリームをつまみ食いする感覚に近い
【波型口金】
これもモンブランっぽい。モンブラン口金の衝撃がマイルドになったもの
1番のおすすめはやはりモンブラン口金である。モンブランのクリームがあの形なのは、しっかり意味があるのだと分かった。
こうしてモンブランクリームを使い切った。皿を洗い、何事もなかったかのように夕ご飯の支度をしたり方々へのメールの返事をした。
たまに羽目を外しておくと日常の細々した作業が丁寧になる。
イスを使った方がモンブランに対して真摯かなと思ってやってみていた。
何かが違うなと思ってやめた。
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