「ヤギをしぼるぞ!」 夏の日課は乳しぼり
夏のモンゴルで、遊牧民のおうちに遊びにいったときのこと。夕方に到着したらすぐ「ヤギをしぼるぞ!」と声をかけられた。
去年の秋に来たときは牛や馬をしぼるのを見学したが、夏はヤギの乳をしぼるのも日課に組み込まれてるらしい。
ヤギといえば、毛(暖かいカシミヤ!)とか肉を取るために飼っているとばかり思っていたけど、ミルクもしぼるんですね。
ヤギを集めて分けよう
「しぼるぞ!」と言われて慌ててついていくと、遠くからヤギが集められているところだった。
馬に乗った遊牧民のおじさんが、四方八方に散っていたヤギを誘導しながら帰ってきている。ギュッと一団になったヤギたちは、後ろから追いかけると一定の距離を保ってジリジリ進む。
ヤギたちが囲いに入ったら、群れに混じったヒツジやオスのヤギを見つけ出して、柵の外に出す。ミルクが出るヤギだけを残したいというわけだ。
ヒツジはパッと見てわかるが、ヤギはメスにもツノがあったりして、素人目にはオスメスの違いがよくわからない。
遊牧民一家はどんどん捕まえていたのでなんでわかるのか聞くと、ツノに赤い印をしているのがオスらしい。
見るとたしかにツノが赤いペンキで塗られているやつがいる。これをみんなでがんばって分ける。
ヤギをまっすぐならべよう
ヒツジとオスをがんばって追い出していると、おもむろに柵の中にロープが張られだした。
なんだなんだと思っていたが、ここにヤギたちを並べるらしい。
ウシやウマをしぼるときは人間が一頭ずつに近づいてしぼっていたが、ヤギは並べて一気にしぼるようだ。
ウシやウマも群れは作るが、個々がミルクを提供してくれるようでなんとなく個人事業主の集合っぽい。それに比べるとヤギの群れは会社みたいだ。家畜部ヤギ課ミルク係のみなさまである。お世話になります。
ロープを張り終えると、遊牧民一家のお父さんが一頭ずつヤギをつかんで、首をしばっていく。
むむ、ヤギさんちょっと苦しいんじゃないか……? と心配したが、よく見ていると自分から近寄ってくるヤギもけっこういる。縛られたいのか。
身を寄せ合うのが安心するのかもしれない……というのはヤギに聞かないとわからないけど、しばられたヤギの列が伸びるほど、寄ってくるヤギの数はどんどん増えてくる。
人間の会社にも自分から進んで縛られに来る人がいるような気がするし、やっぱりヤギは会社員的な動物なのかもしれない。
これが「社畜」ってやつか! と恐ろしい言葉を連想してみるところまでいって気づいたけど、そんな言葉を当てずともヤギは家畜なんだった。
会社員的なヤギをおもしろがっている場合ではなくて、ヤギ的な会社員がいることをおそろしがった方がよさそうですね!
100頭が並んだヤギからのプレッシャー
全部のヤギを並べてみると、100頭以上いそうだ。それだけのヤギが一直線に並ぶと迫力がある。
大型犬が100頭いるところを想像するとわかりやすいかもしれない。想像上の大型犬100頭の庭はめちゃくちゃうるさそうだし、1匹足して101匹になったらアニメ映画になって色んな事件も起こりそうだが、現実のヤギは冷静だ。
それぞれ、普段からこうですがなにか? とでも言われそうな面持ちで整列している。とにかく鳴いたり暴れたりせず、しぼられる順番を静かに待っているのだ。
それがまたかっこいいというか、早くしぼれと言われているような圧すら感じる。すみません、早く済ませます!