水海道製北海道産そばのお味は
水海道で北海道のそば粉を手に入れた時、製麺所の店主さんが「そばは打つの大変だからそばがきを作るといい」と教えてくれたので実際に作ってみた。
かつて水海道の町の周りに広がっていた穀倉地帯に思いをはせながら食べる北海道産そば粉のそばがきはなかなか複雑な味がした。
水海道という地名がある。茨城県にある地名で「みつかいどう」と読む。
この地名を見てどうしても思い浮かんでしまうのは北海道だ。「〇海道」が共通しているだけでなく「水」と「北」のフォルムがまた似ている。「北」を両側から三回くらい叩けばすぐ「水」になりそう。
水海道、実はほぼ北海道なのではないだろうか。
水海道(みつかいどう)があるのは茨城県は常総市。先日近くで用事があったので足を延ばして水海道の北海道っぷりを確かめてきた。
まずは水海道へ向かうために取手駅から関東鉄道常総線に乗車。
この関東鉄道常総線は全線非電化の路線である。このあたりの鉄道は沿線に位置する気象庁地磁気観測所に影響を与えないよう通常よりも工事費用がかさむ「交流電化」という電化方法を取ることが義務付けられており、設備費用の面から電化ができないのだ。
おかげでディーゼル車がよい旅情を醸し出してくれる。「ウォンウォンウォンウォン…」と少しずつ馬力をあげていく、都心の電車では聞くことのできない走り出しの音に筆者のワクワクも高められていく。
ちなみに北海道の鉄道も費用対効果の関係で非電化路線が多い。なんと、目的地に着く前から北海道の面影が顔を覗かせているじゃないか。幸先がいい。 (この記事では強い気持ちで水海道に北海道の面影を見出していきます。)
取手駅から約30分で水海道駅に到着する。常総線は取手駅~水海道駅は複線化されているが水海道駅から先は単線になるため、ここから下館駅方面に向かうには別の車両に乗り換える必要がある。終点じゃないのに全員が電車を降りる珍しい駅だ。
そういう特殊な役割もあるため、常総線の中では比較的大きい駅となっている。それはもう北海道のように、というと言いすぎか。
ちなみに「北海道」という駅はないので、駅名としては最も北海道に近い駅名だと言えるかもしれない。
早速、駅周辺を散策してみよう。事前に調べたが水海道と北海道のつながりをしめすような情報は何も出てこなかったので地道に歩いて北海道の面影を見つけ出すしかない。
水海道はもともと市の名前にもなっていたくらいなので、それなりの規模の町である。残念ながら平成の大合併により水海道市はなくなってしまったが、町名としては水海道○○町というかたちで残っている。なので町中にも「水海道」という表記はあふれている。
直視せず視野の隅の方で見ると脳が勝手に「北海道かな?」と思ってくれる。茨城県にいながら北海道に行ったつもりになれるライフハックだ。「水海道」をどんどん見ていこう。
たくさん水海道をみると「北海道」なのか「水海道」なのかだんだん判別が付きにくくなってくると思う。みんな大好きゲシュタルト崩壊が起きているのだ。 ゲシュタルト崩壊後の世界では水海道と北海道はもはや同じものである。
賢明な読者の皆さんは分かってくれていると思うが文字が似ているというだけで逃げ切ろうとは思っていないので安心してほしい。
例えば、北海道にはさっぽろテレビ塔というランドマークがある。
一方、水海道駅の町の中心にも塔が建っている。
この塔は水海道宝町の町内会館の敷地内に建っていた。近くに消防団の倉庫もあったので、有事の時に登って町の様子をみたり、この上から町内放送を流したりするのだと思う。
展望台こそないものの、町を見守る存在という意味では間違いなく水海道のランドマークと言えるだろう。
突っ込みが入る前にどんどんいきたい。
とある交差点の傍らに水海道市の沿革が書かれていた。
看板によると、今から約1,200年前に坂上田村麻呂が東夷征討の際、この地の井戸で馬に水飼い(水をやる事)をしたことから”水飼戸”(水かへと)と呼ばれるようになったのが水海道の地名の起こりと言われているようだ。
急に「今から1,200年前」とか言われるとその歴史の深さにゾクゾクしてしまう。なんとなく歴史のありそうな地名っぽいなとは思っていたが思っていたよりも歴史が深い。
ちなみに北海道の名が定められたのは1869年(明治2年)のことである。幕末の探検家、松浦武四郎が候補に出した案のひとつ「北加伊 (ほっかい)」に東海道などの流れで「道」をつけて北海道とされた。地名としては水海道の方が圧倒的に大先輩なのだ。さっき吹いた風は北海道に向かって吹く先輩風だったのかもしれない。
そしてこの水海道市の沿革が掲出された一角がなぜかちょっと高くなっていて「二十一世紀の夢見台」と名付けられている。
裏はとっていないがまぁ函館山の展望台との関係は何もないと思う。
もうちょっと続けさせてほしい。ダイジェストでいくので。
ここまで見てお分かりいただけたかと思うが、名前が似ているからといってそうそう類似点があるわけではない。しかし、入念な調査により、ついに水海道で北海道を発見することができた。
こちらの製麺店をよくみてほしい。
ついに水海道で北海道を見つけた。思わず戸をくぐると、店主のおじさんが優しく出迎えてくれた。そばが販売されていると思いきや、販売しているのはそば粉のみだった。自分で打たなきゃいけないのか!
聞くと、このあたりにはもともと広く穀倉地帯が広がっており、水海道はそれらの穀物をはじめとした物資集散の中心地として栄えていたようだ。同じようなことがさっきの沿革の看板にも書いてあった。
その名残でこのあたりでは今でも自分でそばを打つ人が多いらしく、その需要に答えてそば粉を販売しているそうだ。ちゃんと需要があっての供給なのだ。こういう決してガイドブックには載らないその土地独自の需要と供給を知るとなんだか嬉しい。
せっかくなので「水海道って北海道に似てますよね…?」と聞いてみると「そうそう。昔、百貨店に卸してた時に『カニは扱ってないの??』と言われて、うちは北海道とは何の関係もないんですって説明したことがあるよ」と笑いながら教えてくれた。
あった。やっぱりあった。水海道と北海道を間違えられるエピソードがちゃんとあった。地元の人から具体的なエピソードを聞いて一気に水海道における北海道が輪郭を現したような気がした。
今後、北海道をみたときは水海道のことも思い出してやってほしい。
水海道で北海道のそば粉を手に入れた時、製麺所の店主さんが「そばは打つの大変だからそばがきを作るといい」と教えてくれたので実際に作ってみた。
かつて水海道の町の周りに広がっていた穀倉地帯に思いをはせながら食べる北海道産そば粉のそばがきはなかなか複雑な味がした。
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