ヘビのどら焼き
妻に巳年のパンのことを話したら、パン屋さんに探しに行ってくれた。
まず探しに行ってくれたことがありがたいし、なかった時にタダでは起きない精神が素晴らしい。
これもヘビだろう。「巳」って書いてあるし。
年始のパン屋さんには、干支をかたどったパンが売られている。
しかし巳年の今年は、自分でも干支のパンを作れると思った。しかもいつものパンをヘビにできるぞ。
年始にパン屋さんに行くと、その年の干支をかたどったパンがあったりする。干支とパンという関係なさそうなもの同士が、年始のめでたさでうっかり手を取り合っているところが良い。
おいしいしめでたい。「意外と甘い」「目のところ分けよう」などと言いながら家族で食べた。
干支のパン。毎年「あるなあ」「良いなあ」と思うばかりだったが、今年は自分でも作れると思った。なぜなら巳年だからだ。ヘビは形がシンプルだし、そもそも、細長かったりくねくねしているパンが世の中にはある。ヘビっぽいのだ。
こんなことを考えた。
ヘビの頭をパンで作り、色んな他のパンにつなげよう。そして新年を祝おう。
ではヘビの頭をパンで作ろう。
粉とバターと水を混ぜてこねる。冷蔵庫で少し寝かせたら、もう形を作る工程である。
丸めた生地に切り込みを入れて、目はレーズンを埋めた。
もっとヘビらしく見えるように手を加えたくなるが、僕の技術で何をしても逆効果になるだろう。この物足りなさがヘビなのだ。我慢だ。歯を食いしばりながら生地をオーブンに入れた。
口が開いた。開きすぎている。ヘビはアゴの骨を外して大きな獲物を丸呑みすると言うし、そのシーンなのかもしれない。
限界までデフォルメしたヘビなのに、怖いところだけ忠実になってしまった。
でもかわいい。目の形や角度に表情がある。
ではやりたかったことをやろう。
いいぞ、想像よりしっくりきている。
ヘビの頭も、体が付いて嬉しそうだ。とぐろを巻いたヘビが、体をバネにして跳ねているように見える。
尻尾の先端が体の中央にある。寒くて自分を巻きつけているのだ。寝ているのかもしれないな。口が開いているということは、いびきがうるさそう。
縁日でもらえるヘビのおもちゃがあったのを思い出した。
ヘビの体がたくさんのパーツに分かれていて、端を持って揺らすと、全体がくねくね動くのだ。好きだったな。思い出させてくれてありがとう。
体が絡まって苦しんでいるように見える。きっと何かいたずらをしたんだろう。バチが当たって「もうこりごりだよ〜」とぼやいているのだ。
かわいいから許してあげたいが、きっと懲りずにまた悪さをする。そんな顔をしている。憎めないな。
きれいにとぐろを巻いているので、休んでいるところを怒らせてしまったシーンなのかもしれない。スナックゴールドの縞模様がヘビっぽくてすごくきれい。
色々なヘビが見られた。体が違うと表情も違って見えておもしろい。
そしてパンを通じて干支のことをたくさん考えた。きっといい一年になるだろう。パンを通じて干支のことを考えて、いい一年にならないはずが無い。
妻に巳年のパンのことを話したら、パン屋さんに探しに行ってくれた。
まず探しに行ってくれたことがありがたいし、なかった時にタダでは起きない精神が素晴らしい。
これもヘビだろう。「巳」って書いてあるし。
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