各地にある「悟りの窓」
悟りの窓は禅の教えを表現しているものなので、今回の「源光庵」以外にも、同じく京都の「雲龍院」や、鎌倉の「明月院」などにもあると言う。悟りの窓めぐりもやってみたい。
京都にある源光庵というお寺に、有名な丸い窓がある。名は「悟りの窓」。自分自身を見直すための窓であり、その円形は、なに事にもとらわれない悟りの境地を表しているという。
あの窓を通して見ると、ただの風景がとても厳かでありがたいものに見えてくる。丸窓には、いい感じに風景を切り取る効果があるように思う。
丸窓を作ろう。丸窓があれば、見慣れた日常の風景が違って見えるはずだ。
京都が好きで、月一回は京都に行っている。これだけ通っていても、まだ行ってない場所がたくさんある。この日は金閣寺の少し北にある、「源光庵」という禅寺を訪れた。
丸い窓は「悟りの窓」、四角い窓は「迷いの窓」という。どちらも禅の教えを表しているというが、そういった意味を抜きにしても、純粋に美しいと感じた。窓から差し込むやわらかな光が畳の上に落ちていて、ほんのりと緑色に輝いている。こんな空間が家にあったら、一生畳の上から動けないだろう。
窓の前に座ってジッと風景を眺めていると、なるほど心が落ち着いて、すっと風が吹き込んでくるような感覚を味わった。
見頃である紅葉シーズンには、大勢の人でごった返すという。でもそれだけ混んでいると落ち着けないと思うので、この日みたいに、特になんでもない日に行くのがいいんじゃないだろうか。人は目に映る絶景を求めがちだけど、絶景を作り出す要素のひとつには「場の雰囲気」もあると個人的には考える。
ただ単に風景を丸く切り取るだけでは、この雰囲気は出せないだろう。壁とか、柱とか、畳とか、それらすべてが上手く合わさって絶景を作り出している。
こういうのを見ると、工作脳な私は考えてしまうのだ。「じゃあこの場所のジオラマを作って、丸い窓の部分から外を覗くと、どんな風景でも絶景になってしまうのでは?」って。
前に、絶景で有名な「下灘駅」のホームをジオラマ化して、同じようなことをやってみた(どんな風景も絶景に変わる?「下灘駅メソッド」)。結果は成功で、見事に何でもない風景が絶景に変わった。「悟りの窓」でも、それと同じことができるかもしれない。やってみるか。
京都旅行記のようなものから、急にジオラマの話へと移行する。ジェットコースターみたいな緩急だけど、人間の思考って意外とこういう感じだ。アイデアを思い付くときって、それこそ頭の上で電球がピカッと光るみたいに、突然なにかがONになるんですよね。
作り方。まずは実物の写真をもとにサイズを見積もり、それをスケールダウンして3Dモデルに落とし込む。
ジオラマを作るのは、先の下灘駅についで2回目だ。作り方を学んだわけでもなく完全に自己流なので、どうやるのが正解なのか分からない。とりあえず思い付いた通りに、手癖で作っていく。一回目が上手くいったので、たぶん次も大丈夫だろうという根拠のない自信だけがあった。
3Dプリンタで出力した素材には細かい溝があるため、マスキングテープを貼っても、溝の隙間から塗料が染みだしてくる。なので実質マスキングが不可能で、すべて自力で塗り分けをする必要がある。実は難易度が高い作り方なのかもしれない……。
よく見ると塗り方が雑に思えて、何度も塗りを重ねていった。でもそんなことをすると、どんどん汚くなっていく悪循環に陥る。ちょうどいいところで止めるのも、必要なテクニックなんだろうな。
ジオラマ単体で見るとそれなりに再現できている気はするのだが、全体的に艶っぽくて、間近で見るとあんまり現実の風景っぽくはない。接写に耐えうるジオラマという、かなりの難問に挑戦してしまったのかもしれない。
たぶん塗り方がよくないのだろう。もっと技法を研究しないといけないなぁ、という点は今後の課題としたい。
今回のところは、とりあえずこれを持って外に出てみよう。やってみなはれ、とサントリー創業者の鳥井信治郎氏も言っていた。やってみようぜ。
おさらい。「悟りの窓」のジオラマを外に持ち出し、丸窓越しに風景を見たならば、それすなわち絶景となる、はずである。
……目の前にあるのは本当に「悟りの窓」なんだろうか? これは悟りの窓、悟りの窓……そう脳に暗示をかけてから薄目で見ると、なんとなくそれらしく見えなくはない。
はい。あまり上手くいきませんでした。こういうこともある。
畳の質感もよくないよなぁと思う。もっと精進が必要ですね。
ただ、ここで終わってしまうわけにはいかない。こんなこともあろうかと、実はこのジオラマにはもう一つのギミックを仕込んであったのだ……!
世の中には丸い液晶というのがあって、つねづね「いったい何に使えばいいんだ」って考えていた。でもちょうどいいじゃないか、悟りの窓にするのにうってつけだ、と気付いたのである。
つまり、窓の形にピッタリと合う丸い液晶を、先ほどのジオラマに組み込むのだ。すると液晶の表示を変えるだけで、自在にいろんな風景を窓越しに見ることができる! はず!
撮影方法も試行錯誤してみる。まず向かって左側に雑多な風景が写るのがよくない。現地だと左の部屋は真っ暗だったので、黒い板を置いて隠してみた。
向かって右側には、本来は「迷いの窓」があった。ただそちらは再現できていないので、なるべく右側を写さないように撮影してみる。
外で撮ったときよりは、ずいぶん良くなった気がする。薄目でみると、丸窓越しの景色に見える。たぶんPCよりもスマホの小さい画面で見る方がそれらしく見えるはずだ。
さらに試行錯誤。ジオラマ自体が現実のデフォルメだし、塗装の仕方もどことなく絵画調になってしまっている。なので実写を窓に映すのではなく、イラストに近いものを映す方が雰囲気でるかもしれない。
この記事で開発した「デジタル8色写真」がマッチするんじゃないかと思い、液晶に映してみることにした。
こういうデジタルフォトフレームだと思えば、しっくりくるかもしれない。
最後の方はだんだんと迷走してしまった。悟りを開くはずが、迷走していては本末転倒である。なので「悟りの窓」本来の意味に立ち返り、このジオラマをじっと見つめることによって、何事にもとらわれない大らかな気持ちで記事を読んでいただければと切に願う。
悟りの窓は禅の教えを表現しているものなので、今回の「源光庵」以外にも、同じく京都の「雲龍院」や、鎌倉の「明月院」などにもあると言う。悟りの窓めぐりもやってみたい。
毎年恒例となったDIYの祭典、Maker Faire Tokyoに出展します。
詳細:Maker Faire Tokyo2022出展します!(9/3~4)&ミニヘボコン出場者募集
斎藤は、磁石で引っ付いて、なんでもぜんまい仕掛けにするおもちゃ「なんでもぜんまい」の試作品を遊べる形で展示予定!
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※感染対策のためチケットを事前にご記入いただいた方のみ入場可能です。
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