特集 2022年8月9日

丸い窓で風景を切り取ると、絶景に見えるか?

「悟りの窓」をジオラマで再現し、いつでもこの美しさが堪能できるようにしてみた

京都にある源光庵というお寺に、有名な丸い窓がある。名は「悟りの窓」。自分自身を見直すための窓であり、その円形は、なに事にもとらわれない悟りの境地を表しているという。

あの窓を通して見ると、ただの風景がとても厳かでありがたいものに見えてくる。丸窓には、いい感じに風景を切り取る効果があるように思う。

丸窓を作ろう。丸窓があれば、見慣れた日常の風景が違って見えるはずだ。

1983年徳島県生まれ。大阪在住。散歩が趣味の組込エンジニア。エアコンの配管や室外機のある風景など、普段着の街を見るのが好き。日常的すぎて誰も気にしないようなモノに気付いていきたい。(動画インタビュー)

前の記事:レトロPCゲームみたいな写真が撮りたい

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源光庵「迷いの窓」と「悟りの窓」

京都が好きで、月一回は京都に行っている。これだけ通っていても、まだ行ってない場所がたくさんある。この日は金閣寺の少し北にある、「源光庵」という禅寺を訪れた。

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バス停を降りてすぐの場所にある。少し移動しただけでも汗がふき出してくる、蒸し風呂のような夏の日。涼を求めて、そそくさと中に入る
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緑が多く、落ち着く空間が広がっていた。こんな暑い日には、縁側で庭を眺めながら涼むのが最高に気持ちいい
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そんな源光庵の見所は、この丸と四角の窓

丸い窓は「悟りの窓」、四角い窓は「迷いの窓」という。どちらも禅の教えを表しているというが、そういった意味を抜きにしても、純粋に美しいと感じた。窓から差し込むやわらかな光が畳の上に落ちていて、ほんのりと緑色に輝いている。こんな空間が家にあったら、一生畳の上から動けないだろう。

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「迷いの窓」は人間の生涯にわたる苦しみをあらわしており、この前に座って自分の人生を振り返るのだという
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「悟りの窓」は禅における悟りの境地を表すとされ、この円形は大宇宙を表現している

窓の前に座ってジッと風景を眺めていると、なるほど心が落ち着いて、すっと風が吹き込んでくるような感覚を味わった。

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「そうだ 京都、行こう。」のポスターが飾られていた

見頃である紅葉シーズンには、大勢の人でごった返すという。でもそれだけ混んでいると落ち着けないと思うので、この日みたいに、特になんでもない日に行くのがいいんじゃないだろうか。人は目に映る絶景を求めがちだけど、絶景を作り出す要素のひとつには「場の雰囲気」もあると個人的には考える。

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改めて悟りの窓を見てみると、窓だけじゃなくて、まわりの佇まいも含めて「この空間」そのものがとてもいいと感じる

ただ単に風景を丸く切り取るだけでは、この雰囲気は出せないだろう。壁とか、柱とか、畳とか、それらすべてが上手く合わさって絶景を作り出している。

こういうのを見ると、工作脳な私は考えてしまうのだ。「じゃあこの場所のジオラマを作って、丸い窓の部分から外を覗くと、どんな風景でも絶景になってしまうのでは?」って。

前に、絶景で有名な「下灘駅」のホームをジオラマ化して、同じようなことをやってみた(どんな風景も絶景に変わる?「下灘駅メソッド」)。結果は成功で、見事に何でもない風景が絶景に変わった。「悟りの窓」でも、それと同じことができるかもしれない。やってみるか。

「悟りの窓」をジオラマ化する

京都旅行記のようなものから、急にジオラマの話へと移行する。ジェットコースターみたいな緩急だけど、人間の思考って意外とこういう感じだ。アイデアを思い付くときって、それこそ頭の上で電球がピカッと光るみたいに、突然なにかがONになるんですよね。

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いきなり完成形を見せてしまうと、こんなものを作ったのだ
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で、それをこうする。何がしたいか、イメージが沸いただろうか

作り方。まずは実物の写真をもとにサイズを見積もり、それをスケールダウンして3Dモデルに落とし込む。

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こんなのでいいのか? 何が正解が分からないまま、とりあえず建物のようなものができていく
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それを3Dプリンタで出力。最初はこんな真っ白な塊であった

ジオラマを作るのは、先の下灘駅についで2回目だ。作り方を学んだわけでもなく完全に自己流なので、どうやるのが正解なのか分からない。とりあえず思い付いた通りに、手癖で作っていく。一回目が上手くいったので、たぶん次も大丈夫だろうという根拠のない自信だけがあった。

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色を塗ると、とたんに部屋っぽくはなった
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床に敷く畳にもせっせと色を塗って、
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組み合わせると床が完成。襖の敷居が、わりと雰囲気出ていると思う

3Dプリンタで出力した素材には細かい溝があるため、マスキングテープを貼っても、溝の隙間から塗料が染みだしてくる。なので実質マスキングが不可能で、すべて自力で塗り分けをする必要がある。実は難易度が高い作り方なのかもしれない……。

よく見ると塗り方が雑に思えて、何度も塗りを重ねていった。でもそんなことをすると、どんどん汚くなっていく悪循環に陥る。ちょうどいいところで止めるのも、必要なテクニックなんだろうな。

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そんなわけで、試行錯誤の末にできあがったのがこちらである
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箱庭感があって、意外といいものかもしれない
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ためしに覗き込んでみる。……んー。リアルさはあんまりなくて、模型っぽさが漂っている

ジオラマ単体で見るとそれなりに再現できている気はするのだが、全体的に艶っぽくて、間近で見るとあんまり現実の風景っぽくはない。接写に耐えうるジオラマという、かなりの難問に挑戦してしまったのかもしれない。

たぶん塗り方がよくないのだろう。もっと技法を研究しないといけないなぁ、という点は今後の課題としたい。

今回のところは、とりあえずこれを持って外に出てみよう。やってみなはれ、とサントリー創業者の鳥井信治郎氏も言っていた。やってみようぜ。

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丸窓越しの絶景!

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これは野鳥の会ではなく、悟りを開こうとしている様子。ポータブル悟り

おさらい。「悟りの窓」のジオラマを外に持ち出し、丸窓越しに風景を見たならば、それすなわち絶景となる、はずである。

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はたして絶景になるのだろうか
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おそるおそる覗き込んでみる

……目の前にあるのは本当に「悟りの窓」なんだろうか? これは悟りの窓、悟りの窓……そう脳に暗示をかけてから薄目で見ると、なんとなくそれらしく見えなくはない。

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左右の隙間を隠して、画像サイズを小さくすればあるいは
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屋形船から見る景色みたいっすね
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もしくはスコープで標的を狙っているスナイパー

はい。あまり上手くいきませんでした。こういうこともある。

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窓から落ちる日差しは、それなりにいい雰囲気が出ていた。でももう少しふわっと畳に落ちて欲しい

畳の質感もよくないよなぁと思う。もっと精進が必要ですね。

ただ、ここで終わってしまうわけにはいかない。こんなこともあろうかと、実はこのジオラマにはもう一つのギミックを仕込んであったのだ……!

液晶をつけて部屋のインテリアに

世の中には丸い液晶というのがあって、つねづね「いったい何に使えばいいんだ」って考えていた。でもちょうどいいじゃないか、悟りの窓にするのにうってつけだ、と気付いたのである。

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使い道がなくて数年にわたり自室で眠っていた丸い液晶。ついに日の目を見る
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裏にESP32というマイコンを付けて、自由に写真が表示できるように作ってみた

つまり、窓の形にピッタリと合う丸い液晶を、先ほどのジオラマに組み込むのだ。すると液晶の表示を変えるだけで、自在にいろんな風景を窓越しに見ることができる! はず!

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実はジオラマの窓は、液晶のサイズに合わせて作ってあった。こんなこともあろうかと、っていうセリフを使うときがきた

撮影方法も試行錯誤してみる。まず向かって左側に雑多な風景が写るのがよくない。現地だと左の部屋は真っ暗だったので、黒い板を置いて隠してみた。

向かって右側には、本来は「迷いの窓」があった。ただそちらは再現できていないので、なるべく右側を写さないように撮影してみる。

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悟りの窓 in ビーチ
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都会の高層階にある悟りの窓

外で撮ったときよりは、ずいぶん良くなった気がする。薄目でみると、丸窓越しの景色に見える。たぶんPCよりもスマホの小さい画面で見る方がそれらしく見えるはずだ。

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ただこういう現実感のない風景を写すと、とたんに液晶っぽく見えるようになる。壁掛けの丸いテレビみたいな
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空飛ぶ悟りの窓。ここに動画が表示できたら、もっと情緒が出せたかもしれない。もはや何の窓だという話だけど

さらに試行錯誤。ジオラマ自体が現実のデフォルメだし、塗装の仕方もどことなく絵画調になってしまっている。なので実写を窓に映すのではなく、イラストに近いものを映す方が雰囲気でるかもしれない。

この記事で開発した「デジタル8色写真」がマッチするんじゃないかと思い、液晶に映してみることにした。

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こういう、写真とも絵画ともつかないドット絵みたいなもの
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あ、これはこれでいい
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無理に現実に近づけようとせず、「こういうインテリア」という方向で新しい価値を生み出すのが正解だったかもしれない
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ほら、これはこれで
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謎の味わいが生まれている
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このように棚に祀って、落ち着きたいときに眺める用のディスプレイにするのはどうか

こういうデジタルフォトフレームだと思えば、しっくりくるかもしれない。

最後の方はだんだんと迷走してしまった。悟りを開くはずが、迷走していては本末転倒である。なので「悟りの窓」本来の意味に立ち返り、このジオラマをじっと見つめることによって、何事にもとらわれない大らかな気持ちで記事を読んでいただければと切に願う。


各地にある「悟りの窓」

悟りの窓は禅の教えを表現しているものなので、今回の「源光庵」以外にも、同じく京都の「雲龍院」や、鎌倉の「明月院」などにもあると言う。悟りの窓めぐりもやってみたい。

告知:Maker Faire Tokyo2022に出展します

毎年恒例となったDIYの祭典、Maker Faire Tokyoに出展します。

詳細:Maker Faire Tokyo2022出展します!(9/3~4)&ミニヘボコン出場者募集

斎藤は、磁石で引っ付いて、なんでもぜんまい仕掛けにするおもちゃ「なんでもぜんまい」の試作品を遊べる形で展示予定!

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こちらは製品化が決定していて、現在クラウドファンディングの準備中。そのほか、過去の作品集も販売します。よろしくどうぞ。

Maker Faire Tokyo 2022

2022/9/3(土)12:00~18:00(予定)
2022/9/4(日)10:00〜17:00(予定)
@東京ビッグサイト 西4ホール

https://makezine.jp/event/mft2022/

※感染対策のためチケットを事前にご記入いただいた方のみ入場可能です。

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