ぜんまい仕掛けの静と動
ぜんまい仕掛けのロボットの動きを考えてみる。ぜんまいを巻くとロボットは動き出す。その間、ぜんまいは巻いた方とは逆の向きに回り続ける。
やがて、ぜんまいの回転が止まる。止まった途端、ロボットはまるで魂が抜けたようにその動作を停止する。
この動き方の認識は万国共通で、多くの人類が無意識に
・ぜんまいが回っている=動(生)
・ぜんまいが止まっている=静(死)
と理解している。
ということは……回るぜんまいがついてさえいれば、その物体が何であろうと、生き生きと(ぜんまい仕掛けで)動いているように見えるのではないか?
そんな予感がしたので、試してみることにした。結果はどうなったのか。見てもらえれば、分かる!
なんでもぜんまい仕掛けに見える装置
ぜんまい型の装置を開発した。これの特徴は、磁石で簡単にくっつけられるところ。そして、くっつくと自動的に電源がONになり、ぜんまいの持ち手の部分が回りはじめるところだ。
ためしに、台所にある食洗機にくっつけてみよう。
あれ、予想以上にかわいい……。ぜんまいをデフォルメしているせいもあると思うが、食洗機とぜんまいの組み合わせが意外なほどマッチしている。
なんの変哲もない普通の食洗機が、まるで命が宿ったかのように生き生きと動き出す(ように見える)。これは「ぜんまい効果」とでも呼ぶべきか。
トースターはタイマー部分にぜんまいが使われていて、もともとぜんまい仕掛けと言えなくもない。本体が小さいので、ぜんまいのデフォルメ感がより強調され、なんとも愛らしい見た目になった。
もちろんこれらの家電は電気で動いていて、そもそもこの装置もぜんまいではなく電気で動いている。ぜんまい要素といえば見た目だけだ。
それなのに、一瞬「ぜんまい仕掛け」と錯覚しそうになるし、回っていると「生き生きと動いている」ように感じてしまう。これは、最初に示したぜんまいの動きが私たちの脳に強くインプットされている結果だろう。はー、面白い現象だ。
いろんな物にくっつけてみる
最初の実験が上手くいったので、意気揚々とほかの物にもくっつけていきたい。
動画にまとめたので、手っ取り早く見たい方はこちらをどうぞ。
荒々しい振動を生み出す洗濯機も、よく見るとぜんまいで動いている。なんの根拠もないが、ぜんまいを巻くのが固そうだ。奴隷が回す棒(概念)みたいな感じで、屈強な男が全身を使って巻くようすを想像してしまった。
家から飛び出し、次はバイクにつけてみた。「こういうおもちゃあるよな~」という見た目に。「ぜんまい効果」には、つけた物をおもちゃみたいに見せる作用もあるようだ。幼少のころ、バイクに乗った仮面ライダーのぜんまいおもちゃが好きだったのを思い出した。
※念のため書いておくけど、このまま走ると道路交通法違反になる可能性が高いです(もっとも、振動と風圧ですぐに落ちると思うが)。撮影は私有地で行っています。
「座っているだけなのに、ぜんまいの力でどんどん進める便利な乗り物!」という触れ込みで登場したぜんまい自転車。でも、ちょっと進んでは巻き、止まり、ちょっと進んでは巻き……という手順が必要だったので、人々は少し面倒に感じていた。
「人力が必要だけど、ペダルをこいだら進む自転車を作ったら売れるんじゃないか?」 そんな逆転の発想で作られたのが現代の自転車である(ぜんまい本位の世界での出来事)。
鉄じゃないところにくっつける工夫
この装置、くっつけるためには素材が鉄である必要がある。ステンレスだと引力が弱くて落ちてしまうし、たとえ鉄でも接触面が曲面になっている場合は安定してくっつけることができない。
ぜんまい化できる対象が限られてくるので、どうにか何にでもくっつけられないか考えてみた。
装置を両面テープで直接貼りつけるなど、いろいろ試してみたのだが、結局はネオジム磁石+鉄の安定感がずば抜けていた。この二階建て構造なら、少し曲面になった部分にでもピタッとくっつけることができる。ぜんまい化の幅が広がった瞬間であった。
この手法を使って、扇風機もぜんまい化してみる。扇風機といえば、「レトロ扇風機」が趣味ジャンルとして存在するほどに愛されている家電である。ぜんまいをつけると何でも少しレトロ風味になると感じていたので、扇風機との相性は抜群なんじゃないかと思ったのだ。
やっぱり合う! あとぜんまいをつけると、「健気に見えてくる」という効果もありそう。せっせとがんばって動いている風に見えるのだ。無機質な家電に愛嬌が宿った瞬間であった。
室外機も合うだろうと思ったが、残念ながらうちの室外機は位置的に撮影が難しかった。代わりにといっては失礼だが、室内機をぜんまい仕掛けにしてみる。磁石がつく素材ではなかったので、これも鉄板を貼り付けてぜんまい化。もともとこういう家電なんじゃないか? と思ってしまうくらいの自然さである。
ぜんまい人間になりたい
ここまで来ると、試してみたくなるのは ぜんまい人間だろう。『日常』という漫画に「東雲なの」というキャラクター(はかせが作ったロボット)がいて、彼女の背中にはぜんまいが付いていた。目指す姿はあれだ。
Tシャツに鉄板を貼り付けて、そこにぜんまいを装着してみた。結果、ぜんまいの重みでTシャツが伸びてだらしない姿になってしまった。
かくなる上は、鉄板に紐をつけて体に巻き付け、そこにぜんまいをつける作戦……と、これも垂れてきて失敗だった。おそらく小さい鉄板ではなく、大きい鉄板を背負って背中全体で支えないといけないのだ。これは大がかりになりそうだ。
困っていたところ、Twitterのコメントで「バイクのプロテクタがいいんじゃないか」というアイデアをいただいた。あ、ちょうど持ってるし、いいかもしれない。
脊髄に沿うよう板状のプロテクタが入っているので、そこに鉄板を貼り付ける作戦である。
しかし何だろう。にじみ出る警備員感。男性+プロテクタという時点で、かなり屈強な見た目になってしまうのだ。東雲なのを目指していたはずなのに、ずいぶん遠いところに来てしまった……。もう少しいい方法がないかは宿題とさせて下さい。
いろんなぜんまい
最後にそのほかの物を駆け足で。
ホーロー鍋を持っていたため磁石でくっつけることができた。でも何なんだ、ぜんまい鍋って(ぜんまいの力で湯が沸く?)。
ぜんまい鍋とセットになっているのが、ぜんまい換気扇。この台所で作られた料理は「ぜんまい式料理」とでも呼んでおこう。
もともと動きのまったくない防湿庫(電子式)。ちゃんと動作しているか見た目では分からないので、こんな風に「動いてますよ」って意思表示は重要かもしれない。
OHPって何? という声が若干聞こえてきそうだが、これはもう、やる前から確実にマッチするだろうと思っていた。レトロ+ぜんまいは鉄板である。ライティングの妙もあってか、異様にかっこよくなってしまった。
こんな風にいろいろと試してみた結果、「回るぜんまいがついてさえいれば、その物体が何であろうと、生き生きと(ぜんまい仕掛けで)動いているように見えるのではないか?」という当初の仮説は正しかったと言えるだろう。というか予想を超える「しっくり感」にちょっとビックリしている。
あと副産物として、ぜんまいのかわいらしさにも気付くことができた。ぜんまいかわいいよぜんまい。
※ちなみに磁力に弱い物(HDDとか)もあるので、真似する場合は要注意です。
その後の展開
このぜんまい型の装置、反応をみようと先にTwitterに投稿したところ、とんでもない反響があった。
いいね数24.9万、動画再生385万回(記事執筆現在)……餃子の王将のCMみたいな数字が並ぶ。中国のSNS「Weibo」に転載されてそっちでも話題になっているらしく、中国人のバイヤーから仕入れの相談が来る(!)という異常事態である。
それでツイートからたった一週間でビックリするほどいろいろあった末、記事が出るよりも前にガチャと玩具の発売が決まりました(本当に)。詳細はまた追って報告します。
※意匠、実用新案登録申請中