美術館が休館日だった
熊本の美術館でサンリオ展が開催されている。ハローキティやマイメロディなどのキャラクターを通じてサンリオが発信する「カワイイ文化」をひもとく展示らしい。
…らしい。
実際の展示を見ていないのでよくわからない。サンリオ展目当てで美術館に行ったのだが、運悪く休館日だったのである。臨時休ではなくて毎週火曜の定休日だった。
定休日で失敗するのはリサーチ不足以外に説明できない。責任を逃がす場がなく飲み込むしかないのである。
「休館日」という赤文字、これほどまでに人をガッカリさせる言葉はない。
この階段の先の美術館の中には豊かな世界が広がっている。しかし、言葉が持つ不思議な力が施設への立ち入りを禁止している。もはや神秘に近い。
こうなったら定休日の魔力をもっと味わいたい。いったん自分で「定休日」の看板を作ります。
「定休日」の看板を作る
看板を買うのも大変なので、祖父に頼んで貸してもらうことにした。祖父は神職なので神社のものを借りることになる。臨時駐車場用のがちょうどよかった。
「看板は何に使うと?」と聞かれたが、現物ができてから見せたほうが早いと思って説明をはぐらかした。
無事に定休日の看板をつくりあげた。かなりいい。まずはおじいちゃんに見せてあげよう。
「定休日」が思っていたより強い
「ほら、見てください。借りていた神社の看板ですけど、定休日の看板にしたんです。この横に立つと、がっかりしている人に見えて面白いと思うんですよ。」
そんなふうに説明した。祖父には敬語を使う。敬意があるから。しかし話の内容は敬意薄めである。
実演してみて驚いた。ちゃんとかわいそうな人に見えるし、後ろのシャッターの向こうには素敵なものがありそうな気がする。やるせなさもすごいし、何も困ってないのにみじめな気持ちになっておかしい。
ひとしきり説明すると、祖父は笑いながら「それで神サンにも定休日作ってやってくんない」という言葉で応えてくれた。孫のやることに理解がありすぎる。
よっしゃ。太鼓判も押されたことだし神社にあるものを定休日にしてみよう。
想像以上の威力を発揮している。完全に「定休日」がその場のイニシアティブを取っているのだ。
定休日の看板は汎用性が高い。なんでも定休日にしてくれる。森羅万象の都合を無視してこちらの気勢をそいでくる強さがある。無視できない絶対的なものを感じる。真理って定休日のことさ。
なんでも定休日にする
定休日の看板の横で写真を撮るのが楽しくなってきた。別の場所に移って看板の可能性をまだまだ探るぜ。
ここで沈黙を破ろう。果たして、いったいなにが定休日だと言うのか。誰が休んでいるのだ。
土?草?景色?景色って定期的に休むのか。景色に定期的な休みがあるとして、それを看板が左右するのかね?てっきり太陽と月がそれを担っているもんだと思ってたよ。いやはや、言葉の力とは偉大である。
近くに犬がいる。さて、犬はどうだろうか。定休を与えてもいいのではないだろうか。
ふだんは僕の顔を見るやいなや興奮して飛びついてくる犬が、看板を見た途端物陰に隠れてしまった。
ご、ごめんよ。看板がこわかったのかもしれない。でも休暇中だから人間風情の相手はしないぜと言ってるようにも見える。君、業務で懐いてたのか?
さあ、次にいこう。今度は営業している店の前で勝手に落ち込んでみたい。