特集 2024年6月18日

実物大の白紙で世界中の名画を感じる

宇多田ヒカルの『One Last Kiss』は「初めてのルーブル美術館はなんてことなかった」というような歌詞で始まる。

私はといえば、一生ルーブルに行くことはなさそうだ。「なんてことなかった」とすら思えない。大学では芸術学科に在籍し色々学んだのに、なんと夢のない話だろう。

本物とは言わないまでも、せめて世界中の名画を身近に感じてみたい。

1980年、東京生まれ。片手袋研究家。町中で見かける片方だけの手袋を研究し続けた結果、この世の中のことがすべて分からなくなってしまった。著書に『片手袋研究入門』(実業之日本社)。

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「実物大」という説得力

自分の過去の記事、『有名人と同じ高さの棒で身近に感じられる』を思い出した。有名人の身長と同じ高さの棒を用意したら、本人がそばにいるような感覚を抱けたのだ。

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アビーロードを渡るビートルズ。冗談のつもりが、一瞬だけ本当に四人が見えた

“実物大”というのは思いのほか強い説得力を持つ。ならばそれを絵画にも応用してみよう。

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え?モナリザが?中野に?

な~に、簡単なことだ。世界中の名画と同じ大きさの白紙を用意するだけ。それを林編集長、べつやくさん、橋田さんと共に観賞していく。まずはルーブル美術館で、いや、世界で一番有名な絵画といっても過言ではない『モナ・リザ』だろう。

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モナ・リザ』(レオナルド・ダ・ヴィンチ)。77 × 53cm、フランスのルーブル美術館所蔵。壁とはっきり区別するためにつけた黒い枠はサイズ外

「これがモナリザか~!」。思わず声が漏れた。モナリザじゃなくて白紙なのに。ルーブルじゃなくて中野の貸しスタジオなのに。

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横にキャプションもつけてみた
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見える。見えるぞ

棒の時と同じく、冗談抜きで何かオーラを感じる。実物大、やっぱり凄い。

「意外に大きい」「いや、小さい」。実際に見た人から両極端の意見を聞くモナリザだが、私は小さいと思った。一方、林編集長は大きく感じたようだ。こういう体感こそ実際に見てみることの醍醐味だろう。

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実際に見てはいないけど。でも林編集長は美術館でよくやる後ろに手を組むポーズで真剣に鑑賞

ブラウザ上で見るDPZ読者の皆様に、この“体感”を伝えるにはどうしたら良いだろう?とりあえずA4サイズの紙を横に貼ってみた。

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A4の紙に自分の写真を印刷してしまい、遺影になった

A4の紙のおかげでモナリザのサイズ感、完璧に伝わったと思う。凄さが理解できたら、皆さんも今すぐ紙を切って実際にやってみて欲しい。

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どんどん名画を召喚する

実物大の白紙、これはもうどこでもドアだ。中野が世界中の美術館と繋がる。「北のモナリザ」と称されるフェルメールの『真珠の耳飾りの少女』も並べてみよう。

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左がモナリザで、真ん中が『真珠の耳飾りの少女』(フェルメール)。44.5 × 39cm、オランダのマウリッツハイス美術館所蔵。右は筆者遺影
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真珠の耳飾りの少女

モナリザも『真珠の耳飾りの少女』も、それぞれの所蔵館から貸し出されることは殆どないのに。「ルーブルには一生縁がない」なんていじけていた私はどこ?これは夢?

モナリザの横に並べてみたい作品がもう一枚あった。

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右『麗子微笑』(岸田劉生)、44.2 × 36.4cm、東京国立博物館所蔵

おお…。東西を代表する微笑絵画が遂に並んだ。本来ならありえない並びで作品を観賞できるのも、実物大白紙の利点だ。

デンマークのハマスホイという画家の作品も見てみたい。2020年、『ハマスホイとデンマーク絵画』という展覧会を楽しみにしていたのだが、新型コロナウイルスの影響で見に行く前に閉幕してしまったのである。

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展覧会にあわせて発行された書籍。日本に来ても見られないこともあるのだ

あの日の悲しみを思い出しながら、私は実物大の紙を壁に貼った。そして息を飲んだ。

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「やっと会えたね」。『背を向けた若い女性のいる室内』(ハマスホイ)60.5 × 50.5cm、デンマークのラナス美術館所蔵

実物大、どんなもんだい。

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実物大なら絵画との距離が近い

モナリザと真珠の耳飾りの少女を並べた時はもう興奮してしまい、「全員で微笑を浮かべて下さい!」とお願いした。

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微笑ではなく苦笑していた

当たり前だが、こんなことは実物の所蔵館では絶対にできない。

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例えば『モナ・リザ』の展示風景はこんな感じらしい。気安く近寄らせてはくれない

しかし、実物大なら作品との距離が物理的にも精神的にも近い。

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リビングで読書。でも後ろの壁にはモナ・リザ。どんな大富豪でも叶わない光景

実物大。「ある意味、観賞体験としては実物を超えた」というのは言い過ぎだろうか?梯子を外すようだが、私は言い過ぎだと思う。

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