特集 2024年7月20日

京都・西大路九条、朝10時45分閉店の食堂「かどや」で朝食を

こんなに押しの強い店構えは初めてだよ。

人間には「向き」「不向き」があるものだ。朝起きることは私にとっての「不向き」の代表格で、だいたい「これ以上寝ていたら仕事etcに間に合わない」という時間になってようやく寝床からはい出てくる有様。必然的に、ちゃんとした朝食を摂ることにも不向きである。

そんな私が気力をふり起して、京都・西大路九条にある朝食専門の食堂「かどや」に行ってきた。

変わった生き物や珍妙な風習など、気がついたら絶えてなくなってしまっていそうなものたちを愛す。アルコールより糖分が好き。

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営業は午前中だけ

「かどや」の存在を知ったのは、半年ほど前のことである。デイリーポータルZ編集部の石川さんから

「夜行バスで早朝の京都駅に着くんですけど、なんかいい時間つぶしのスポットはないですか?」

と聞かれ、まったくなにも思いつかなかったのだけれど、正直に「なにも思いつかないですね」などと答えるのもチンケなプライドが許さなかったため、急遽Googleマップを駆使して提案したのが「かどや」だった。

6時15分から営業し始めるこの食堂は、10時45分には閉店してしまう。場合によってはもっと早く暖簾を下ろすこともあるらしい。ストイックなんだか、商売っ気がないんだかわからない店だ。

京都駅から徒歩で40分ほどかかることが判明したためこの案は丁重に却下されたのだが、豚(汁)の看板+朝食オンリーのユニークな食堂への関心は心の底に熾火のようにくすぶり続けたのだった。

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というわけで、やって来た。

京都に住んでいるが、普段の生活でこのあたりに来ることはまずない。最初に訪問したとき、移動に思ったより時間がかかってしまったこともあり、店の前に到着した頃には10時半近くになっていた。

「間に合った!」と思ったのも束の間のこと、目の前で店員らしき男性が暖簾を取り込み、代わりに「本日の営業は終了しました」の看板を置いて店内に引き上げていった。定刻より早く閉まることがあるというのは本当だったのだ。

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1時間かけて到着した者の前に無慈悲に差し出される営業終了の張り紙。

なので、実はこれは二度目の訪問である。前回の涙を飲んだ教訓を活かして、7時半くらいに到着した。

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この看板のインパクトよ。
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近くでよく見ると豚はタレ目でしかも笑っている。

「ぶたじる」「めし」と赤字で大書された店構え。店の売りが何なのか、小学一年生でもわかるデザインだ。

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二度目の正直で入店

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入っていきましょう。
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店内はこんな感じ。

座席は3分の2くらい埋まっていた。7時半なのに。人気があるようである。ご飯を食べながら瓶ビールを飲んでいる人も何人かいた。7時半なのに。

もちろんいつ酒を飲もうがその人の勝手なのだが、店頭に掲げられたでっかい豚の看板といい、なんとなくアナーキーな雰囲気を感じたのだった。

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壁にはメニューがずらり。

ここでメニューの横にある注意書きに目が止まった。「あげものは午前中出来ません」

はて、午後は営業してないはずでは?

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別の壁に並んだ揚げ物のメニュー。
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席に着くとまず、冷たいお茶が出た。

朝食専門という事前情報は間違いで、本当は午後も営業しているのだろうか?

そんなことを考えながら、とりあえず「めし(大)」(320円)と「豚じる」(450円)を注文した。「せっかく遠くから来たんだからたくさん食べよう」という安易な発想で(大)を頼んだが、これはハードな選択だったとこの後思い知ることになる。

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いろいろなおかずに目移り

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おかずは自分で選んで持ってくる方式。
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冷蔵庫の横のスペースにも。種類が多くて迷う!

ところ狭しと並べられたおかずの数々。「数々あるから”おかず”なのかな?」などとくだらない考えが頭をよぎるくらい、目移りするくらいたくさんの種類があって楽しい。定食屋のおかず選びはアトラクションなのだ。

一通り目が落ち着くと、それらの横にあったものが目を引いた。

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定食の食品サンプルだ。
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「ご注文は午前十一時三十分より」と。

壁のメニューといいこの食品サンプルといい、状況証拠がそろってきた。「早朝しか営業していない食堂」ではなくて、「早朝も営業している食堂」なのではないか?これは確かめてみなくては。

おかずを選んで席に戻ると、先ほど頼んだご飯と豚汁が到着していた。

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お、大きい......!

威勢のよい盛りっぷりに、先ほどの「お昼も営業」疑惑のことは一瞬にして頭からはじき出された。本当にこれが胃に納まるのか、不安になるボリュームだ。

そして、そんなご飯のお供にするべく選んできたおかずは

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カレイの煮つけ。
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茄子の煮びたし。
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とろろ玉子。
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そして豚汁にセットでついてくるきゅうりのお新香だ。
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ドドーン!

腹の都合など考えずにいろいろ選んだら、とても朝食とは思えないような陣容になってしまった。

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サイズはこんな感じ。
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しかも豚汁は具だくさんだ。出汁も味噌も濃い目に効かせてあって美味しい!

店の売りとも言える豚汁、味がはっきりしていて美味しかった!目の覚める味だ。豚肉と玉ねぎがたっぷりと入っていて、朝食としてならこの豚汁とご飯だけでも十分満足できるだろう。だてに「ぶたじる」「めし」の看板を掲げていないな。

煮物は味がひたひたにしみて、お新香はしゃっきりとした漬かり具合で、煮物やお新香に我々が期待するものをぴったりと体現してくれる味だった。

家が近ければ定期的に通いたくなる、そんな味だ。

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食べきりましたとも。

なんとか食べきった。朝からこんなに食べたのはいつ以来のことだろう。ちなみに、この日は昼になってもお腹がちっとも空かず、早朝に食べたこの一食が意図せずブランチとなった。次来る機会があったとして、とりあえずご飯は「中」か「小」でいいかなと思う。

そろそろ食べ終わるという頃、となりのテーブルで女性店主が事務仕事をし始めたので、思い切って昼以降も営業しているのか聞いてみた。

「やってへん。前はやってたけど」

とのことだった。メニューの紙の日焼けしていない感じといい、朝食に特化して営業するようになったのは案外ここ最近のことなのかもしれない。

場所を取る食品サンプルが今も陳列されていたり、壁に貼られたメニューがそのままだったり、ひょっとして条件が整ったら再開するつもりなのだろうか。

商売って思ったより自由なんだなと、ふとそんなことを思った。


十日戎(えべっさん)の副笹が

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1000円札は「お客さんがつけていってくれはるんです」とのこと。

十日戎、通称「えべっさん」(関西を中心に人気の高い商売繁盛の神様)の福笹が飾られていた。笹に結ばれた1000円札は「ご利益がありますように」と言って、常連客がつけていってくれるものらしい。そんなシステムなんだ、知らなかった。

お会計の段になるまで意識しなかったのだけれど、ご飯や豚汁はともかく自分で選んで取るおかずには金額が明記されていない。

食事をしたついでにえべっさんの副笹に願をかけていく常連といい、フィーリングで値段のあたりをつけつつ選ぶおかずといい、ちょっと前までどこもこんな感じだったのかな、と思わされるような、濃厚な食堂体験だった。

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