豊穣の黒い飲みもの
ビールは一缶の半分くらい。アイスクリームのほうはカップの3割くらいを掬い取ってグラスに盛り付ければ完成。
アイスクリームが黒ビールに溶け込んで、こころもち粘度を増した褐色の液体をゆっくりと啜る…おいしい。ほうとため息が出るほどおいしい。脳にじーんとくる。
この滋味をいったいどのように表現すればいいのでしょう。たとえばもし、この飲み物を1万人に飲ませて感想を書いてもらい、それをワードクラウドにしたらきっとこんな感じになるでしょう。
解説しますと、まず第一にこれはとてもおいしい。それは間違いない。味わいとしては甘みと苦味と酸味が絶妙なバランスである。そしてどうやら栄養とカロリーにあふれた豊穣の飲み物のようだ。
これらを総合してもう一つ付け加えると、頭の悪そうな感想ですみませんが、”成金”って感じの味です。
実際には材料費数百円でお気軽に体験いただけるので、お酒が飲める方はまず一度、騙されたと思ってためしてみてほしいです。
ナッツのアイスは複雑で上品
うまい食い物を紹介するときは、あれこれとバリエーションをつけるのがデイリーポータルZのならいですので、作法に則っていろいろやってまいりましょう。
まずはアイスクリームに変化をつけて。
一発目に紹介したバニラアイスは王道の味でもちろん美味いのですが、キャラメルやチョコレートは黒ビールとの相性が抜群。黒ビールの香ばしさやほろ苦さをブーストしつつ、がつんとした甘みも加わって隙がない。
普段なら夜にビールを飲み始めると、だらだら1リットルほどは飲んでしまいますが、こいつは確実に1本で打ち止め。お腹から食道から口腔から、”味”に支配されて満足感がすごいのです。
一日の終わりに高エネルギーなものを続けざまに摂るのもどうかと思い、まだまだ陽の高いうちにもやってみました。
このドリンクはすごく乱暴に言えば、エナジードリンクに通ずるところがあると思うのです。苦味と炭酸が舌に刺激を与え、たっぷりの糖質で血糖値を爆上げ。そしてアルコールによる一時的な高揚感(のち倦怠感)。
うおお、これはすごい組み合わせだ。アーモンドの風味が黒ビールにすごく合う。甘みだけでなく、ナッツのくせのある味が加わることで、複雑かつ上品な味がする。おしゃれなバーとかでカクテルとして出してもすごくうけると思います。
そういえばここまで「黒ビール」とラフに表現してきましたが、実は世の中にはアイスクリームによく合うやつと、そんなに合わないやつがあります。ぜひラベルに「スタウト」とか「ポーター」とか書いてあるビールを選んでいただきたい。わざわざラベルなんて読んでられるかという方は、先ほどから登場している「東京ブラック(ヤッホーブルーイング)」を迷わずお選びください。もちろん普通に飲んでもすごくうまいのでいっそ箱で買ってしまいましょう。
変わり種フレーバーもいける
ある日、冷凍庫を開けたら妻が買ってきたファミリーパックのアイスが入っていました。これはやや冒険感があるが、いけるのか…?
パルムの期間限定フレーバー、おいしいですよね。この「安納芋」もイモの香りが豊かでおどろきました。しかしそれがビールとマッチするかどうかは…若干の不安がつきまといます。
いやあ、えへへ。うまかったです。合わせたビールはスリランカのライオンスタウト。アルコール度数が8.8%もあるビールで、ワイルドな苦味と酸味にやさしいイモの香りがよくマッチする。ただアイスの外側をコーティングするチョコレートはビールに溶けず、飲んでると口に障るので要注意です。
イモ味でも合うんだからこれはもう何でもいけるなと、最後にもうひとつ攻めてみました。
昨年登場し、一世を風靡したかじるバターアイス。びっくりするほどバターそのまんまの味で迫力あるんですよね。
しかし。先ほどと同じように棒付きアイスクリームを突っ込んでくるくる回し溶かしていたら、アイスのつぶつぶが浮遊している。脂肪分が多すぎるから…?香りも「灯油」みたいな油っぽさが一瞬よぎり、かなり不穏な雰囲気に。
これはついにハズレを引いたかと思いきや、辛抱強く解けるのを待つと甘みが広がり、だんだんと飲める味に。というか溶け切ったころには、むしろこれが一番うまい可能性まででてきた。ビールのおいしさはちゃんと感じられるんだけど、油脂が思ってもみなかった奥行きを生み出している。ビールの枠を飛び越えてなお美味い、完全に新しいビアカクテルになっている。
余談ながら、あのハリーポッターの世界には「バタービール」と呼ばれる架空の飲み物が登場する。ハリーたちが冬の寒い日にこいつを一杯やって暖まるみたいな描写だったような。ユニバーサルスタジオジャパンのパークフードでも全年齢向けの"バタービール"が売られているけど、大人向けにこのレシピで併売しませんか。バタービール。
再現したかったものがある
最後に、この記事で試した組み合わせのおすすめ度に点数をつけてみましょう。
- 東京ブラック × MOW バニラ(森永乳業)★★★★★★
- 東京ブラック × スーパーカップ キャラメルチョコチップ(明治)
★★★★★★
- 東京ブラック × Uchi Cafe アーモンド(森永乳業)★★★★★★
- ライオンスタウト × パルム 安納芋(森永乳業)★★★★★☆
- ドラフトギネス × かじるバターアイス(赤城乳業)★★★★★★
いやホントなんです!忖度なしで点数をつけちゃうとほぼみんな満点になっちゃうんです!
ところで。黒ビールにアイスクリームという組み合わせ自体は別におれの発明というわけでもなく、昔から存在するレシピです。存在は知っていながら最近になってふいに試してみようと思ったのは、少し前にこんなビールにどっぷりとはまったからでした。
名前の通りピーナツバターが使われた黒ビールで、笑えるほどピーナツバターの風味がするのにびっくりするほど美味しい。すっかり魅了されて一時期買いこんでいましたが、アメリカから少量輸入されてくるので一本700~800円ほどとかなり高価なのです。円高でますます手が届かなくなり、なんとかこれのジェネリックができないかと唸っておったら、アイスクリームが見事に再現してくれました。かなり、雰囲気出てます。