まるで群像劇のような「日のこと」
推しポイント
- ただの道路の開通レポートではなかった
- これはまさしく「道路が開通した日のこと」
- みんなめちゃめちゃ主人公だ(まとめ枠より)
古賀:
これ私もセレクトかぶっちゃった。
石川:
これは家の近所に新しい道路が開通した、その日をレポートした記事です。
時系列でその日の出来事が並んであって、他のライター…例えば僕だったら、道路がどう変わったかとか…道路の様子を多分書いちゃうと思うんですけど、3ykさんは人が行ったり来たりしてる様子をずっと描いてて。
石川:
群像劇っぽいというか。 3ykさん自身は最後に「短編集のよう」って書いてあったんですけど、小説っぽいんですよ。
あとこのへんなんかはセリフだけ抜いてあって、絵本っぽくもあって。
林:
なんかこう、見開きでたくさん人がいて、それぞれ過ごしてるみたいな絵本ないですか。
石川:
あるある。WEBの記事っぽくないですよね。
中でもほんと最高なのが開通の瞬間。ほんと音読したい。これもできたら記事の方で読んでほしいんですけど…
サッと風が吹いた。
と、思ったらパイロンが撤収されたのだった。道路は開かれた。
実際には無風なのだ。風がないどころか、空はどんよりと雨の気配を蓄えていて、高揚した気持ちが肌から冷やされていく。
古賀:
全然浮ついてないよね。文章が。これだけ叙情的なのに。
林:
「あれ?カギ閉めたっけ?ってふと心配になった」みたいなこと書いてないもんね。よけいなこと。考えちゃうじゃん?
安藤:
それもリアルですけどね。ここにいる4人は全員書く。
林:
それ書くのはゼロ年代。
石川:
3ykさんのは関係ない話どころかうまい喩えですらなくて、見たものをそのまま書いてあるんだけど、その書き方が3ykさんにしか書けない表現なんですよ。すごいの。
作業服のおじちゃんも、ジャンパーを着たお兄さんも、散歩歴20年のおじいちゃんも、いつの間にかもうひとり増えていたおじいちゃんも、そしてわたしも、誰も道を行こうとしない。「一番乗り」が現れるのを静かに待っている。
息継ぎがしたくなって口を開こうかというとき、1台の白い乗用車が滑り込んできて、まっさらな道路をゆっくり踏みしめていった。
「きたきた」おじいちゃんが笑う。あのひと、坂の上でずっとスタンバイしていたんだよ。
一台、また一台と車が通って、ああこれは血液と同じだ。手の先に血が通ってじんわりとあたたかい。もう大丈夫。
石川:
一番最後になって、ようやく比喩が出てくるんですよ。血液の。
林:
「もう大丈夫」。
ちょっと危ういくらいナイーブな感じがするんだけど、20年代だね。これは。
安藤:
最近の芥川賞もこういう、僕らの世代と比べると明らかに若いぞっていう文体を感じます。
林:
ニューウェーブ短歌とかもそうだもんね。
石川:
最初に戻りますけど、道路のレポートではなくて、「道路が開通した日」のレポートでした。それがすごくよかった。
「高校時代のバイト先が全部潰れた」書き出しの力
- とにかくテーマがいい。書き出しも最高
- べたべたにエモすぎないのがいい。
- インタビューもあってちゃんとした記事でもある
石川:
タイトルどおり、ネッシーさんがつぶれたバイト先をめぐる記事。とにかく…
石川:
テーマがいい。最高です。
古賀:
いい、いい。
石川:
それから、冒頭。
石川:
それから、冒頭。この一文だけでインパクトあるし、面白いんですよね。
石川:
さっきの3ykさんとは対称的なんですけど、思い出話があんまり叙情的じゃないのも良かったです。 思い出ってエモく書けばいくらでも書けちゃうじゃないですか。そこにハマるとどんどん独りよがりになっていくから、これぐらい抑制が効いてるのがいいと思う。
石川:
それでも写真が出るとちょっとエモくなったりして。いい塩梅。
石川:
というわけでとにかくテーマがいいっていうのと、
一同:
うん、うん
石川:
あとは1件目のお店は今の入居者にインタビューしたりもしてて、単なる自分語りじゃなくてしっかりした取材記事でもあるのがいいなと思いました。
(工作の)作品というものに対する捉え方
- ザ・夏休み。良すぎる。
- 工作を作るということへのスタンスの強さ
- 妖怪をやりながらも面白いエピソードをしっかり拾う筆力
石川:
最後はこれです。
安藤:
これ、僕も選びました。
石川:
写真が全部いいんですよ。 3枚選んだんですけど、3枚だけいいんじゃなくて全部いい。
古賀:
いいな~
石川:
それから、一日の様子を描いた記事なんですけど、限られた時間の中で出会いから別れまでギュッと詰め込まれてて密度が濃い。
石川:
あと、これは工作ライター視点なんですけど、工作記事って作ったもの見せたいのがメインでありつつ、使用シーンを入れるじゃないですか。この化けわらじも一種の工作記事なんですけど、とりもちさんってその「使ってみる」をずっとやってるなと思って。
石川:
記事用の工作って、作るのメインで使用シーンはおまけ、みたいに考えがちで。
それと比べると、とりもちさんはいつもずっと使ったり人にたくさん見せたりする前提で工作を作っていて、作品というものに対する捉え方が全然違うんだなと思って。すごいなと思ってます。
道行く人に、「なんて名前の妖怪なんですか」と聞かれるので、
「化けわらじです!」
と言ったら、
「りんたろうです!」
とすぐ続けて言っており、りんたろうも妖怪みたいになっていた。
石川:
面白いエピソードをちゃんと拾ってるのもさすがですよね。
古賀:
妖怪が子供に会うっていう設定がまず面白いんだけど、それに甘んじない書きぶりだよね。
石川:
中身も手を抜いてないっていう。来年もみっちり中身の詰まった記事をたくさんお届けしようと思います。2024年もよろしくお願いします!!