特集 2019年7月29日

キノコの女王キヌガサタケは美しいけど臭い、でもうまい

タマゴの状態からキヌガサタケの成長を観察してみました。

純白のドレスを纏ったかのような美しい姿から、『キノコの女王』とも呼ばれるキヌガサタケ。その成長はとても早く、朝に地中から出現して、その日の昼には萎んでしまうとか。

その姿をじっくりと観察してきたのだが、可憐な外観とともに驚いたのは、その特徴的な匂いだった。そりゃもう臭いのである。でも食べたら美味しかった。

趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

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キヌガサタケのタマゴを探して

キヌガサタケは梅雨と秋頃の竹林に発生するキノコで、なんでもピンポン玉くらいのタマゴから数時間で一気に育つそうだ。

そのため成長を最初から観察したいのならば、夜明け前にタマゴを発見しておく必要がある。そこで同行いただいたキノコ好きの友人が目星をつけておいた竹林を、夜中のうちからチェックする。

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キヌガサタケのタマゴ、あるいは札束はないかと真夜中の竹林を回る。

集合した時点で降っていた大雨はどうにか小降りになってくれたものの、足元は当然グシャグシャで、腹ペコの蚊は飛びまくりの刺しまくり。

学生時代のバイト仲間だった竹林くんは、みんなからチクリンと呼ばれていたっけ。そんなことを思い出しつつタマゴを探して竹藪を歩き回る。

カブトムシやクワガタでもいれば気がまぎれるのだが、雨上がりなので足が多すぎたり少なすぎたりする虫ばかり。なかなかの辛さだ。

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あった!っと思ったらこんにゃくゼリーの容器。

いくつかの竹林を見て回るも、なかなかキヌガサタケの気配は見つけられない。雨合羽の中が猛烈に蒸れる。

暗いとキヌガサタケのタマゴは見つけにくいという、当たり前のことがよくわかった。でもタマゴから観察したいのだから仕方がない。

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これだ!って思ったらゴルフボール。

ようやくキヌガサタケのタマゴらしきものを発見

そんなこんなで移動を繰り返しているうちに雨はすっかりとやみ、暗闇は朝焼けを静かに迎え入れた。

時刻はすでに4時半。この場所で見つけられなければ、タマゴからじっくり観察という野望の達成は厳しいかもしれない。

ヘッドライトを点灯させるか迷うくらいの明るさの竹藪を焦りつつ歩いていると、同行の友人が「遅かった!」と声を上げて地面を見つめた。

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え、これがキノコの女王?オオグソクムシに食われる死んだ深海魚の映像みたいだ。

彼の視線の先には、頭を下げてうなだれている怪しいキノコが、無残にもダンゴムシに食われていた。遅いってなんだ。これがまさかキヌガサタケなの?

友人の話だと、正しくこれこそが目的のキヌガサタケなのだが、おそらく昨日発生したもののようだ。胞子を飛ばすという役目を終えると、僅か数時間で倒れてしまうのだ。

残念ではあるが、これはまぎれもない吉兆。昨日の亡骸があるのなら今日の分もあるはずと近くを探すと、数歩先でキヌガサタケのタマゴを発見。ほほう、確かにこれはタマゴだ。

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キノコというよりは爬虫類とか怪獣のタマゴっぽい。中からグイっと押されていて、今にも殻を突き破りそうな状態である。

この竹林は今日が当たり日だったようで、これら以外にもいくつかタマゴは見つかった。それぞれが微妙に遠い距離で面倒だったが、グルグルと回って同時進行で観察をする。

タマゴからスッポンの頭が出てきた

キヌガサタケはタマゴからキノコの形になる成長がとても早いという話だが、それはどれくらいの時間なのだろう。

先ほどの発見から30分後には、鳥のタマゴだったらヒナのクチバシにあたる部分が殻を破きだしていた。

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ちょっと指で押してみると、普通のタマゴとまったく違って、生ゴムみたいなムニョンと低反発の押しごたえだ。

ここから45分後、殻を破って出てきたのは緑色をしたスッポンの頭。これがキヌガサタケのカサなのか。

そしてその匂いは、正直かなり臭かった。すごく正直に書かせていただくと、ウンコとオシッコを混ぜて発酵させたような容赦のない香り。食べ物だと韓国のホンオフェ(アンモニア発酵したエイの刺身)が一番近いだろうか。

その匂いに釣られてか、ダンゴムシがワラワラと集まってきている。女王様というか現段階では下働き中のシンデレラだ。

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スッポンの頭みたいなのが出てきたぞ。本当に女王様なのかな?

キヌガサタケはスッポンタケ目スッポンタケ科スッポンタケ属のキノコ。

これはキノコの女王であるキヌガサタケではなく、白いレースのない近縁のスッポンタケ(Wikipediaのページ)なのでは。それならこの匂いも納得できる。スッポンには大変失礼な話だが。

柄がゆっくりと伸びてきた

スッポンタケの成長はキノコとしては驚異的に早いんだろうけれど、じっと観察するにはちょっと辛い速度だったりする。それでも見られる喜びの方が当然大きいから我慢。

さらに30分経つと、スッポンの頭部分は完全に露出して、その下から海綿のようなスポンジ状の柄が見えてきた。

じっくりと顔を近づけて観察する。うん、臭いのよね。

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緑のカサの下に白いヒダがちょっと見える。これがレース部分になるのだろうか。

さらに30分が経過。カサの形はそのままに、柄の部分がクイっと伸びてきた。まだレースは出てこない。

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それにしても不思議なキノコだ。

さらに30分。ゆっくりと柄が伸びていく。

レース部分はまだ見られないため、スッポンタケ疑惑は未だ晴れない。

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さっきまですごい興奮していたのに、ちょっと観察にも飽きてきた。

キヌガサタケのレースが降りてきた!

このタイミングでデジカメに定点観測みたいな機能があることをようやく思い出して、1コマ30秒で設定してみた。その1時間分の動画がこちらである。

ちゃんと撮れていた!

グイグイと柄を伸ばし、そこからカサの下に隠していたレースをフワッと降ろす瞬間のカタルシスたるや。

ギリギリまでスッポンタケと思わせておいて、本当にキヌガサタケだったのだ。

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成長途中、レースの下にあるピンク色の内皮膜(鍔)がチラリと見えたのに感動。

これは見事な成長だ。いきなりベストな状態のキヌガサタケから見るのとは、ちょっとこちらの思い入れが違う。まず老菌でがっかりして、次にタマゴを発見して、この状態に育つまでを見守ったというのが感慨深いじゃないか。

現在の時刻は午前9時。発見から実に4時間半に及ぶ長時間の観察だったが、やっぱりタマゴから観察してよかった。

キヌガサタケコレクション

上記のキヌガサタケを見守っている間に同時進行で頑張っていた子達も、せっかくなので紹介していこう。

今日はみんなが主役だよ。

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これぞキヌガサタケという見事なレース。これくらい成長してしまえば、遠くからでも簡単に見つけられる。
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失礼して触ってみると、エアコンのフィルターみたいな質感だった。
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レースの中はどうなっているんだと、キノコの女王に対するスカートめくりという人生で一番かもしれない蛮行。ごめんなさい。
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優しく引き抜くと、タマゴの殻はムニョンムニョンとしており、波平さんの髪みたいな根がチョロリと一本だけ伸びていた。これで全体を支えているためか、途中で倒れてしまうキヌガサタケも多いようだ。どんな進化を経てこうなったんだ。
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タマゴから抜いてみた。
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柄はスポンジ状で、その中は空洞になっていた。うまい棒みたいだからうまいのかな。
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土に埋まったタマゴからいきなり出てくる場合もあるようだ。
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天使っぽさがすごくないですか。

レースの存在理由を考えてみる

さてキヌガサタケの特徴的なレース部分だが、これは一体なんのためにあるのだろう。動物だったらクジャクの羽やライオンのたてがみのように異性の気を引くためなのだろうが、これは性別のないキノコである。

臭いのは胞子が入っている傘のベタつく緑色部分(グレバ)で、キヌガサタケとしてはこれを遠くに飛ばしたいはず。そのために独特の匂いをあえて発して虫を寄せているのだろう。

できればハエやチョウのような長距離移動型に来てほしいところだが、先にダンゴムシやナメクジが全部食べてしまう可能性もある。そこでネズミ返しならぬダンゴムシ返しとして、立派なレースのスカートを備えたのかもしれない。

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レース部分でダンゴムシが登るのをストップしているように見える。余裕で飛び越えていくのも多いけどね。

それに対してレースを持たないスッポンタケは、そういう進化が面倒だったのだろう。

例えばどんなに晴れていても必ず傘を持っていく人と、今にも降りそうでも面倒だからと持っていかない人がいる。きっとそういう違いなのだ。

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この見事な畳まれっぷり。キャンプでテントとか寝袋を上手に収納できない人は、きっとキヌガサタケになれないスッポンタケタイプ。

この日の観察が楽しすぎて、後日別の場所へ一人で探しにいってしまった。

こうやって毎年少しずつ、その名前と発生条件のわかるキノコを増やしていくのが楽しいのだ。

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これはタマゴが赤いので、アカダマキヌガサタケという種類かな。
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立ったままボロボロになっていた立往生の女王。カサの緑色部分は食べつくされたのか雨で流れ落ちたのか、その下の黄色い部分が露出していた。

キヌガサタケを食べてみる

このキヌガサタケは中国などでは食材としても利用されているそうだが、この美しいけど猛烈に臭いキノコ、果たして美味しいのだろうか。

せっかくなので試してみようと、ブニョブニョしたタマゴ部分を除いて何本かを持って帰ってみた。

ビニール袋に入れていたにもかかわらず、それを入れていたカバンが臭くなってしまったが、美味しく食べられるのだろうか。緑のカサも置いてくるのが正解だったかな。

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本当に臭いんですよ。


家に帰ってビニール袋を開けて、その匂いにもう一度驚いてから、壊れやすいレースをはずして、臭うカサの部分を流水でしっかりと洗う。

すぐに強烈な匂いはしなくなったが(あるいは鼻がマヒしたか)、それでもまだ食べるには不安なので下茹でをしておこうか。

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緑色のグレバの下は鮮やかな黄色だ。

レース部分もせっかくなので茹でておく。

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かなり脆く、持ち帰る途中でところどころ破れてしまった。

こいつをどうやって食べようか迷ったのだが、キヌガサタケ自体に強い味や香りがあるというタイプではないようなので、適当なキノコスープを作って吸わせることにした。

素材の味を生かすのではなく、味を足されることで光る助演タイプだと思うんだ。

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豚肉、ブナシメジ、ショウガを煮込んだスープ。

スープは塩と薄口醤油で味をつけて、15分間煮込んでみた。ちょと豚の脂が強すぎたかな。

例の匂いはもうほぼしない。ほぼというか、知らなければまったく気が付かないレベル。気持ちの問題として少し香ってくる気が脳内からするのだ。

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キヌガサタケのスープ煮込み。

まずはレース部分をいただくと、脆かった割には意外としっかりした歯ごたえで、プルプルというかクニュクニュというか、口から入ってくる食感の情報量が多い。湯葉を丁寧に折って作ったハチの巣のようだ。味自体はほぼない。

続いてはスポンジ状の柄。効果音でいうとシャキシャキで、すごく詰まったきめ細かい食べられるスポンジ。こんなにも弾力があるものなのか。だが味自体はほぼない。

最後に強烈に臭かったカサ部分。こちらは柄よりもさらに弾力が強く、ちょっとプラスチックっぽい食感で、人によってはちょっと嫌かも。もう匂いはまったく気にならない。そして味自体はほぼない。

このように味はほぼないのだが、パーツごとに食感がまったく違う稀有な食材だ。すごくうまいものというよりは、すごくうまいものを受け止める食材。これはフカヒレや燕の巣と同じ特徴といえるだろう。もっと本気でスープを作ればよかった。

これでも十分美味しかったが、次は柄の中に何かを詰めたり、揚げて高級うまい棒にしてみたり、もうちょっと冒険してみようと思う。


憧れのキヌガサタケは、成長の様子が面白くて、その姿に気品があって、でもダンゴムシが集まってきて、そして匂いが猛烈に臭くて、なんと食べると美味しいという、なかなか味わい深い個性を持った女王様だった。

もし竹林を散歩していて、ちょっと匂いがするなと思ったら、あえて近づいてみるとキヌガサタケに出逢えるかもしれない。でもウンコだったらごめんなさいね。

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