その水で食べる美味しさ
いつだったか、パックご飯を作っている会社の方にお話を聞いたことがある。その工場では工場の近くで育ったお米を使いパックご飯を作っていた。その時に聞いたのは「そのお米が育った水で、お米を炊くと美味しい」というものだった。とても感銘を受けた。
それはお米に限ったことではないのではないだろうか。ということで、カニを海水で茹でたら美味しいのではないか、ということに気がついた。カニは海で育った。その海の水でカニを茹でたらさぞ美味しいのではないか、ということだ。
カニを茹でる時は塩水で茹でる。この塩水を海水にするのだ。もっとも買ったカニはどこで獲れたものか知らないので、広く「海」ということで、近くの海に海水を汲みに出かけた。当たり前だけど夏はとっくの昔に終わっている。
海水を汲むぞ!
海水浴シーズンではないので、海で泳ぐ人はいなかった。風は強く、私の短い髪ですらよく揺れた。ここで海水を汲む。手前の方で汲んでもいいけれど、沖の方が綺麗な海水な気がするので、沖で汲むことにした。
誰かに言われたわけではなく、より美味しいカニを食べるために自分で考えたものだ。ただ沖か、、、とは思う。夏ではない時期の海は決して、たとえば温泉のように快適なものではない。それが私の人生でわかった真理だ。
海水はキチンと冷たかった。汲むのをやめようかと思うほどに。しかし、全ては美味しいカニを食べるためだ。美味しいカニと、そうではないカニならば、誰もが美味しいカニを食べたいに決まっているのだ。私もそう思い海水を汲みに来たのだ。
海水でカニを茹でる
無事に海水を汲むことができた。カニを食べるのは大変なのだ。海に行かなければいけないから。もっとも海水で茹でるカニが美味しいのかはまだわからない。美味しいのではないか、という仮説のみを信じて汲んできたのだ。
カニを茹でる際は塩を入れて茹でる。それが海水なだけなのだ。塩水という意味では、海水も塩を入れて茹でるのも変わりはない。どっちが美味しいのか、ということだ。でも、私は信じている。海水が美味しいと。
真っ赤に美しく茹で上がった。カニの美味しそうな匂いがしている。海の臭さみたいなものは感じない。海水で茹でても海の悪い部分は出てこないようだ。早速食べてみたと思う。カニを食べる時は魔法の棒を使うといい。
カニを食べるのは割と面倒なイメージがあるけれど、麺棒を使うと足の部分は簡単に身を取り出すことができる。身も美しい赤と白をしている。食べる前からなんとなく、これは美味しいぞ、という予感を強くに感じる。
食べてみると当然美味しかった。とても美味しかった。臭みはなく、カニの甘みと、それを引き出すための塩味が素晴らしきバランスで成り立っている。カニは海水で茹でるに限る、と言ってもいいほどに美味しいのだ。