こんなに速そうで赤い美しい軌跡まで描いてるんだから、もはやミスじゃないんじゃないのという気にもなってくる。
だが、あくまで不作為の美を愛でるものだし、本当にシャッターチャンスを逃してしまう事もあるので夜のストロボはちゃんとしたいものだとたくさんのミスショットを並べながら切に思った。
夜のフィールドワークでの写真撮影にストロボは欠かせない。
私はえらいのでこまめに電源を切るのだが、えらさに増してうかつなのでいざ撮影するぞという時に電源を入れ忘れてシャッターを押してしまい、世界が崩れ落ちていくようなガタガタにぶれた写真を頻発する。
そんな救いようのないミスショットだが、カニの写真をミスったもの、すなはちカニミスがなんかかっこよかった。動いていないはずなのに、彼らはどうしてこうも素早いのだろう。
ちょくちょくお暇をいただいては奄美・沖縄諸島の夜の森をハブを探して徘徊しているのだが、彼らがうごめく夜の闇の世界は撮影を拒絶する世界である。
普通にカメラで撮ろうとするとシャッタースピードも感度も足りずぐだぐだな感じになるため、だんだんとカメラ・レンズは高価になってゆき、ついにフルサイズのカメラに外付けのストロボを装備する事となった。
高くていい機材だしストロボで明るいしもうこれで撮れないものはない。
生きたお金の使い方だ、よかったなあと目についたいろいろなものを記録するためシャッターを切るのだがそれでもやはりぐだぐだな写真はがんがん生み出されていて、いったいなんなのかというと、外付けストロボのスイッチを入れ忘れるのである。
カメラをぶら下げて歩いていると体に当たってボタンを押してしまい、ホワイトバランスとかの設定が勝手に変わってしまったりするのがいやでこまめに電源を切っているのだがその時一緒にストロボの電源も切る癖がついた。
闊歩しているヘビやトカゲ、虫、変な木の実などを見つけてカメラを向けシャッターを切る時にはストロボの事などすっかり忘れていて、カッ...シャンとゆっくりおりるシャッター音を聞き、カメラのノイズリダクション処理を経て次のシャッターが切れるようになるのを待ちながら自分のおろかさを噛みしめるのだ。
見ての通り写真はめちゃくちゃでどうしようもないのだがそんなミスショットを眺めているとなかには「ほほう」とうなるものがあるのに気がついた。その被写体はカニである。
今までさんざん記事にしてきたように、私はもっぱらハブをメインに探していてカニにめちゃめちゃ興味があるというわけではないのだが、夜のうっそうとした林道や水辺ではカサコソと動きを見せてこちらに存在をアッピールしてくれる彼らの存在は貴重だ。
つまりは全然ハブが見つからない寂しさを紛らしてくれるフレンドリーなやつらなのでありがたくカメラを向けてしまう。
メカメカしくてかっこいいだけでなく動作やポージングもユーモラスでかわいい。
カニを撮ろうとしてミスったもの、カニミソっぽく言うと「カニミス」にはやたら躍動感やスピード感が生まれるのだ。
もちろん実際に動いているわけではない。カニは危険を感じると素早く逃走するがそれまではわりと呑気で撮影がとくに難しいという事はない。こっちが勝手に動揺しているだけだ。
横に広い体型と左右に瞬時に加速しそうな力強い8本の足、なんかフットワーク良さそう(実際速いのは速い)というパブリックイメージもあいまってブレがよく似合うのだろう。
夜道で出会う数多のカニのなかでもカニミスがかなり映える種がいる。ちょくちょく登場してきたが赤いベンケイガニである。
この鮮やかすぎる赤は夜でもしっかり目立ち、「ほら撮れよ」とこちらに目くばせしてくる。そしてなにより我々ガンダム世代は「赤いやつは速い」というのがもはや原理として刷り込まれているのでこれが速いとめちゃめちゃ興奮する。
自分のカニミスで殿堂入り必至のカットはやはり真っ赤なベンケイガニだった。
こんなに速そうで赤い美しい軌跡まで描いてるんだから、もはやミスじゃないんじゃないのという気にもなってくる。
だが、あくまで不作為の美を愛でるものだし、本当にシャッターチャンスを逃してしまう事もあるので夜のストロボはちゃんとしたいものだとたくさんのミスショットを並べながら切に思った。
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