特集 2022年8月22日

カニのミスショット(カニミス)がかっこいい

止まってるのに速いぞ!

夜のフィールドワークでの写真撮影にストロボは欠かせない。

私はえらいのでこまめに電源を切るのだが、えらさに増してうかつなのでいざ撮影するぞという時に電源を入れ忘れてシャッターを押してしまい、世界が崩れ落ちていくようなガタガタにぶれた写真を頻発する。

そんな救いようのないミスショットだが、カニの写真をミスったもの、すなはちカニミスがなんかかっこよかった。動いていないはずなのに、彼らはどうしてこうも素早いのだろう。

 

1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

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> 個人サイト バレンチノ・エスノグラフィー

ストロボおっちょこちょい

ちょくちょくお暇をいただいては奄美・沖縄諸島の夜の森をハブを探して徘徊しているのだが、彼らがうごめく夜の闇の世界は撮影を拒絶する世界である。

普通にカメラで撮ろうとするとシャッタースピードも感度も足りずぐだぐだな感じになるため、だんだんとカメラ・レンズは高価になってゆき、ついにフルサイズのカメラに外付けのストロボを装備する事となった。

ソニーα7IIIにストロボはニッシンi40。これにディフューザーをつける。

高くていい機材だしストロボで明るいしもうこれで撮れないものはない。

生きたお金の使い方だ、よかったなあと目についたいろいろなものを記録するためシャッターを切るのだがそれでもやはりぐだぐだな写真はがんがん生み出されていて、いったいなんなのかというと、外付けストロボのスイッチを入れ忘れるのである。

なにげにカメラ本体と別なのです。
当然シャッタースピードがまるで足りないので西野カナも引くほどふるえる。
キモカワいい実、コミノクロツグとかかな?(西表島)

カメラをぶら下げて歩いていると体に当たってボタンを押してしまい、ホワイトバランスとかの設定が勝手に変わってしまったりするのがいやでこまめに電源を切っているのだがその時一緒にストロボの電源も切る癖がついた。

闊歩しているヘビやトカゲ、虫、変な木の実などを見つけてカメラを向けシャッターを切る時にはストロボの事などすっかり忘れていて、カッ...シャンとゆっくりおりるシャッター音を聞き、カメラのノイズリダクション処理を経て次のシャッターが切れるようになるのを待ちながら自分のおろかさを噛みしめるのだ。

何事だ!
カメラ:Sony α7Ⅲ,レンズ:Sony FE100mm F2.8 STF GM,絞り値:8,シャッタースピード:2.5秒,ISO:200
なんの変哲もないミドリスズメ(西表島)
地震だ!
カメラ:Sony α7Ⅲ,レンズ:Sony FE90mm F2.8 MACRO G,絞り値:8,シャッタースピード:2.5秒,ISO:200
揺れても落ちなさそうなサキシマキノボリトカゲ(石垣島)
お目当てのハブもこうなる。露出5秒て。(奄美大島)
カメラ:Sony α7Ⅲ,レンズ:Sony FE90mm F2.8 MACRO G,絞り値:7.1,シャッタースピード:5.0秒,ISO:200
で、あわてて撮り直すと目が隠れている。

見ての通り写真はめちゃくちゃでどうしようもないのだがそんなミスショットを眺めているとなかには「ほほう」とうなるものがあるのに気がついた。その被写体はカニである。

カニっす。
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カニのミスショット(カニミス)

サササッ!
カメラ:Sony α7Ⅲ,レンズ:Sony FE24-105mm F4G ,絞り値:7.1,シャッタースピード:1.8秒,ISO:250
クロベンケイガニかな※カニの同定はまったく自信ありません(久米島)
シュシュッ!
カメラ:Sony α7Ⅲ,レンズ:Sony FE90mm F2.8 MACRO G ,絞り値:7.1,シャッタースピード:1.8秒,ISO:250
令和への改元時に話題になったカクレイワガニ(伊平屋島)

今までさんざん記事にしてきたように、私はもっぱらハブをメインに探していてカニにめちゃめちゃ興味があるというわけではないのだが、夜のうっそうとした林道や水辺ではカサコソと動きを見せてこちらに存在をアッピールしてくれる彼らの存在は貴重だ。

つまりは全然ハブが見つからない寂しさを紛らしてくれるフレンドリーなやつらなのでありがたくカメラを向けてしまう。

夜に出会う甲殻類でヤシガニに次ぐインパクトをほこるでかいカニ、オカガニ。これはムラサキオカガニ※たぶん(竹富島)
アンバランスなハサミがかっこいいイヘヤオオサワガニ※ほんとたぶんです。

メカメカしくてかっこいいだけでなく動作やポージングもユーモラスでかわいい。

怒る!カクレイワガニ(小宝島)
海が見えるペントハウスで葉巻をくゆらせる。泥だらけすぎてなんだかよくわからないがたぶんオカガニ(久米島)

カニを撮ろうとしてミスったもの、カニミソっぽく言うと「カニミス」にはやたら躍動感やスピード感が生まれるのだ。

はやい!
カメラ:Sony α7Ⅲ,レンズ:Sony FE24-105mm F4G ,絞り値:6.3,シャッタースピード:1.6秒,ISO:200

もちろん実際に動いているわけではない。カニは危険を感じると素早く逃走するがそれまではわりと呑気で撮影がとくに難しいという事はない。こっちが勝手に動揺しているだけだ。

ぼーっとしている子持ちのサカモトサワガニ(奄美大島)
飛びかかってきた!
カメラ:Sony α77M2,レンズ:MINOLTA 100mm F2.8MACRO ,絞り値:5.6,シャッタースピード:1.3秒,ISO:200
手に持ったモクズガニすらぶれる。落ち着け。(沖縄本島)
赤い閃光が走る。ちゃんと撮れたやつがないのだがたぶんベンケイガニ。(石垣島)
カメラ:Sony α7Ⅲ,レンズ:Sony FE90mm F2.8 MACRO G ,絞り値:7.1,シャッタースピード:2.5秒,ISO:200

横に広い体型と左右に瞬時に加速しそうな力強い8本の足、なんかフットワーク良さそう(実際速いのは速い)というパブリックイメージもあいまってブレがよく似合うのだろう。

この動き、ついてこれるかな。これもサカモトサワガニ(奄美大島)
カメラ:Sony α7Ⅲ,レンズ:Sony FE90mm F2.8 MACRO G ,絞り値:7.1,シャッタースピード:2.5秒,ISO:200
セリヌンティウスのもとへ急げ! ベンケイガニ(奄美大島)
カメラ:Sony α7Ⅲ,レンズ:Sony FE100mm F2.8 STF GM ,絞り値:8.0,シャッタースピード:2.5秒,ISO:200
ちょっと違う話になるけど昼間のカニミスもあった。与那国島のオカガニ。
これはカニが動いたやつ。
カメラ:NIKON COOLPIX P900 ,絞り値:4.0,シャッタースピード:1/15秒,ISO:400

カニミスするなら赤いベンケイがおすすめ

夜道で出会う数多のカニのなかでもカニミスがかなり映える種がいる。ちょくちょく登場してきたが赤いベンケイガニである。

赤っ!もう調理されてんじゃないのかと心配になるくらい赤い。

この鮮やかすぎる赤は夜でもしっかり目立ち、「ほら撮れよ」とこちらに目くばせしてくる。そしてなにより我々ガンダム世代は「赤いやつは速い」というのがもはや原理として刷り込まれているのでこれが速いとめちゃめちゃ興奮する。

自分のカニミスで殿堂入り必至のカットはやはり真っ赤なベンケイガニだった。

まさに赤い彗星!(西表島)
カメラ:Sony α7Ⅲ,レンズ:Sony FE100mm F2.8 STF GM ,絞り値:7.1,シャッタースピード:4.0秒,ISO:100
量産型の3倍速い。
カメラ:Sony α7Ⅲ,レンズ:Sony FE100mm F2.8 STF GM ,絞り値:7.1,シャッタースピード:2.5秒,ISO:100

こんなに速そうで赤い美しい軌跡まで描いてるんだから、もはやミスじゃないんじゃないのという気にもなってくる。

だが、あくまで不作為の美を愛でるものだし、本当にシャッターチャンスを逃してしまう事もあるので夜のストロボはちゃんとしたいものだとたくさんのミスショットを並べながら切に思った。
 

南西諸島はヤギもいっぱい撮ってるんでこんどやりますね。

 

 

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