特集 2025年11月17日

書き出し小説大賞 297回秀作発表

書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)

雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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小学生の息子が、図工で余った木片をここ数日ずっとサンドペーパーで磨いている。小学生特有の無意味行動を微笑ましく眺めていたが、仕上がった表面は思わず触りたくなる魅力がある。「触らせて」と頼んでも首を縦に振らない。
その夜、息子が寝たあと机の上の木片をこっそり触ってみた。すべすべの感触を堪能し、ふと裏返すと、鉛筆で「艶道」と書かれていた。どうやら宗家を名乗る気だ。

書き出し自由部門

王国で最後の魔法使いが、呪文を忘れた。
箭田儀一

冒険ファンタジーのはじまりです!

謝罪に向かうのには新幹線が速すぎる。
カズタカ

気が進まない用事なのに身体だけは高速で進む。

ハナムグリおじさんのくしゃみで花粉が爆ぜた。
寂寥
木の家具は死んでいるから冷たかった。
みよおぶ
景色がグッと胸に詰まった。君があの日のままだったから。
夜借/とおる
腰骨から男鹿半島が生えてきてから、もう3日が経った
なかもりばなな
パラシュートをつけたまま上司が忘年会にやってきたので、店員さんが何度もパラシュートをまたいでビールジョッキを運んでいた。
もんぜん

配膳にとっては邪魔でしかなかったが、ビールをこぼした際、広がったパラシュートが畳を保護するなどの利点もあった。

今日はちょっと皆さんに、物産展を催してもらいます。
ガンダーラ磯崎

物産展の開催は思わぬ困難の連続であったが、クラスの絆はより深まった。

数合わせだけの新語・流行語を、青空に浮かべてみる。
たこフェリー
いったん広告です
俺が飛ばした「いいね」は、貝殻の様なあの月に弾かれた。
タカタカコッタ
コンパスを使うよりきれいな円を描いて、先生は消息を絶った。
七世
きみの口内の熱に溶かされて、アルフォートの帆船が沈みゆく。
さくさく
きみの膝の裏のにおいが嗅げるのなら、ぼくは四足の獣になろう。
さくさく

このソフトバンク会長の座を捨てても!

噛んだオヤジギャグを言い直す図太さと刺繍が趣味であることは両立する。
いずも
ギャルが言うなら「ゴザがKAWAII」も信じよう。
たこフェリー

巻いて立て掛けたゴザがくたっとなってかわいい!

すのこが割れたよ。
もろみじょうゆ
かさぶたを剥がして出てきたのは思いがけずまだ鮮血で。
井沢
壮絶な三角関係の果て、師匠は隻眼となった。
いちもくれん
ふいに、誰か、全く知らない人に話を聞いてほしいと思う。小学校の頃にどんな給食が好きだったとか、いつまでも片方が見つからない靴下のことだとか、そんな類の話を。
たうる

そういう人同士のマッチングアプリがあるといいね。

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続いては規定部門。今回のテーマは「音」でした。耳を澄ませてお読みください。

書き出し規定部門・モチーフ『音』

追いかけて来て欲しい。力任せにドアを閉めた。
タカタカコッタ

音量には込められたメッセージがある。久々のタカタカコッタ氏、流石のクオリティ。

猫の喧嘩に混じって親父の悲鳴が聞こえた。
ぐるりん
彼女の両親との食卓、マヨネーズが下品な音を立てた
寿三郎

それが破談の原因

黒板に爪を立てテロリストはクラス中を威嚇した。
早百合

⏩ 彼の三三七拍子は裏拍だった。

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