特集 2025年10月20日

書き出し小説大賞 296回秀作発表

書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)

雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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大谷選手がまたやってくれました!ポストシーズンワールドシリーズが決まる試合で10奪三振、三本塁打っですって!もはや化物。やってることはバイオレンスですよ。そしてそんな活躍を目の当たりにするたびに、思い出すのは水原一平氏のことです。やはりあの巨額の使い込みは、世界のバランスを取るための必然だったのでしょう。なあ、みんなもそう思うだろ?!
それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しましょう!

書き出し自由部門 

二流の雨乞い師が霧雨を降らす。
ガンダーラ磯崎

若干しっとりした田畑と村民。

羽根に秋が反射した。
みよおぶ
僕らは星座が違う双子だ
ナックルボール
空想の夜に栞を失くした。
寂寥
10月なのに真夏日の大阪、俺はピザを切るやつで殺された。
葱山紫蘇子

乾いた狂気に一滴のユーモア。新しいタイプの殺人鬼。

海の「凪」が、そのまま漂って校舎に直撃してきた。
青一月
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学級委員長は豹柄のタオルハンカチで汗を拭った。美しい、とぼくは思った。
たうる

「豹柄のタオルハンカチ」キャラクターは小物で充分表現できる。

「ぬ」の右下の丸に糸が絡まって取れないという要請を受け、当直の私は夜中3時の高速を走らせている。秋口に多い依頼だ。
なかもりばなな

事態を書きつつ理由は明かさない。「どういうこと?」ってなるのは、書き出しとして優秀な証拠。

闇茶道界に君臨する地下千家の猛者どもは茶筅で人が殺せると聞いた。聞いた時点で俺はもう躙口に頭を半分突っ込んでるも同然だ。
リアル次男坊
「座席、倒してもいいですか」「それならこの銀の剣を持っていきなさい」
さくさく

傾いた座席の隙間からずっと他人の後頭部を見る旅がいまはじまる。

湖面に映る月が二つ三つと増え続ける。
白石ポピー
群れからはぐれたペンギンは、ただただ星空を見上げていた。
田中えっぬー

のちにガムのパッケージになったペンギン。

つい最近まで四単でも快適だったのに、式部は急いで残りの八単を引っ張り出した。
prefab

今日は何単?

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絵の具のパレットみたいにスーパーのお弁当をこうして、それはもう、食べてましたね。
井沢
きんたまがのびなくなっちゃった。
正夢の3人目
女子が次々に振りむく。悲鳴のミルフィーユができあがる。
いちもくれん
偶数は優しく、奇数は厳しかった。
ねもっ血風クン
銭湯の幽霊は三角コビトを怖がる。
ぐるりん
連休明けのサドルが他人行儀だ。
タルク石

実際、他人のサドルと入れ替わってたりして。

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つづいては規定部門。今回のテーマは「ゆるい絶望」でした。きついけどちょっとだけ気持ちいい……感情のストレッチとしてお読みください。

書き出し規定部門・モチーフ『ゆるい絶望』

極限まで伸び切った身体の先にリモコンがある。
小暮公延

「惜しい」の概念を忠実に体現。

次のバス、明日の12:51だわ。
吉田髑髏
残尿はグレーのパンツに染みた。
タルク石
朝食ビュッフェが楽しみで完全に忘れていた。振り返る前にドアが締まる音がした。
お北さん

⏩ 『ゆるい絶望』続きます

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