特集 2025年9月16日

書き出し小説大賞 295回秀作発表

書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)

雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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サウナのテレビって、たいてい壁の凹みに収まり、アクリル板で遮られてますよね。我々は強制的にその一画面だけを見せられる。
「チャンネル権」という人なら当然もっていいはずの自由は、経営者の手のひらに完全に握られている。しかもそのことに無自覚なまま、我々は灼熱の小部屋に自ら閉じ込もっているのです。

――狡猾な支配構造って、こんな些細な日常に紛れているんだな、と。先日サウナで“ととのった”とき、ふとそう悟りました。
それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご招待しましょう!

書き出し自由部門 

鈴虫が鳴きやむ。庭にうすぼんやりと幽霊が立つ。小説家は窓を開けた。
七世

場面が立ち、現象が起き、行動が描写される。物語への見事な導線。

あなたも妄想の中だけは血反吐を吐いてください。
もろみじょうゆ
僕が昼間のローラー滑り台の熱を思い出してる時、両親は離婚した
なかもりばなな
花束を抱えながら、謎のアンケートに答えさせられている。
なかもりばなな

謎の状況に想像が広がる。花束が顔に当たってすごく邪魔。

餃子の皮の裏に書いた6の下に線を書き足す。
たこフェリー
「南国に慕情なんて無ぇ」と定食屋の主人は言った。俺は俺に食わせるタンメンを頼んだ。
リアル次男坊

河本のギャグ「お前に食わせるタンメンはねえ」をいじくり回すことで独特の世界観を獲得。

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自販機から吐き出される十円玉27枚を、彼女は、信じられないという顔で眺めていた。
カニカマもどき
死んだ人の曲を聴いている。枯葉が燃えると歌ってる。
小鳥待て
音楽の趣味が合う女には、欲情しない。本なんか読むなよ。
小鳥待て

振り向いてもらえない男の強がり、みたいなものがすごくリアルな台詞になっている。

「さびしい」と誰かに言うと、よく困った顔をされた。それをわたしは「さびしさの終点」と呼んでいた。
もんぜん
麦茶のパックを縫い合わせて作った筏を海面に浮かべると海がうっすら茶色になった。
もんぜん

すごい寝小便してそう笑

朝冷えする信用金庫の自動ドアから、金木犀が入ってきた。
さくさく
霊安室に響いた慟哭には、産声が混ざっていた。
さくさく

毎回ホラーみを漂わせるさくさく節。そこがよい。

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原宿が終わる場所で買った服です。
井沢
大雨の日、道を案内してくれた女にあげた飴は一瞬で噛み砕かれた。
にかしど
ヘビをまっすぐに育てたい。
白石ポピー
夜の闇に溶け込んでいる啓示。そこで踊れと、ステップを踏めと、頭の後ろから語りかけくる。
カズタカ
壁紙の凹凸を撫でて指先の感覚が変な感じになるのを楽しんでいたら、いつのまにか日曜の朝が終わっていた。
三軒茶目
5回目のカーテンコールはカツラが取れかけていた。
g-udon

新しいハラスメント、カテハラが爆誕しました。

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続いては規定部門。今回のテーマは『中学生視点』。どんなに世の中が変わろうと思春期のバカっぷりと、それゆえの愛しさは変わりません。ではどーぞ。

書き出し規定部門・モチーフ『中学生視点』

女子って、いい。
いちもくれん

人生の本編がやっとはじまりました。

どうして僕だけ人間じゃないのだろう。
もんぜん
雨に濡れたエロ本を蹴ってめくる。
人馬一体勘

⏩ 『中学生視点』続きます

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