もっと些細なことを知りたい
これは贅沢な旅なのではないだろうか。地元の人にガイドになってもらって、ガイドブックにもブログにも書いてないこと、書くほどでもないことを堪能するのだ。
でもその「書くほどでもないこ」をこうして記事にしているのだがら空気から肥料を生み出すような企画である。
とんだ金脈かもしれない。リリカルな小見出しを書いたが、金の話になってしまった。
地元の人の話を聞きながら知らない町を歩くのが好きだ。
その話が個人的であればあるほどいい。
このコンビニで同級生の女の子が働いていた。地元の不良がたむろっていたベンチ。
そんな話を聞くと、はじめて見る店も道路も違って見える。
当たり前だけど、僕が知らない場所で知らない人が生活しつづけていたのだ。
町に人の記憶のレイヤを乗せて眺める旅。今回は鹿児島です。
今回は鹿児島です、っていきなり書いたが第1回目は5ヶ月も前である。
鹿児島市内を教えてくれるのは中園さん。鹿児島のローカル情報サイトKagoshimaniaXを運営している。
まずは昼ごはんを食べながら鹿児島の記憶を聞いた。
中園さん「20年ぐらい前、鹿児島市外に住んでいた中学生にとっては天文館に行くのがステータスでした。でもカツアゲも多かった」
天文館というのは鹿児島の繁華街である。駅から市電で8分ぐらいの場所にある。駅から離れた場所にアーケードのある繁華街があるという地方都市によくある構造だ。
中園さん「歩いてると2〜3人のヤンキーに声をかけられて、『きょう金かして〜』とか。返さないのに(笑)
だから帰りの電車賃はなくならないように靴下のなかに1000円入れてました。服装は短ランボンタン、ダボダボのジャージとかで。でも最近ヤンキーはいなくなった」
荒堀さん「喧嘩もありました。路駐が多いから封鎖されている道路があったり」
とんだバイオレンスシティの話になってしまったのでメブキのハンバーガーの写真をどうぞ。
中園さん「いまはヤンキーはいないです。新幹線が鹿児島に来て、街の中心が天文館から鹿児島中央駅にうつって、渋谷109鹿児島ができたりして街がおしゃれになるにつれてだんだんいなくなった」
荒堀さん「10年前までいましたね」
7年前、鹿児島に来たときに、バスに乗るのにまったく並ばない町だなと思った記憶がある。でも今回来てみたらみんな並んでいた。この7年になにがあったのだろう。
今回、おもに教えてもらうのは当然天文館である。
濃い記憶がある天文館への道すがら、大久保利通の生家の碑があった。今回、こういうちゃんとしたスポットを紹介する記事ではないのでスルー…
中園さん「ここはポケストップなので人がたくさんいました。ルージュラがたくさん出たので」
そう、そういうの!大久保利通の生家はルージュラがたくさん出る。
中園さん「天文館に行く道がすこしだけ坂になってるんです。それをブラタモリで紹介してました。そのロケをしているとき、仲間内で『天文館にタモリがいる』というメールが飛び交いました。」
後日、中園さんから「ブラタモリで紹介されたのはここではないかもしれません」と連絡をもらったが、大事なのはタモリが来てる!と盛り上がった瞬間があったことである。
ブラタモリのロケ地ではそんな盛り上がりがあるのだろうか。弘法大師みたいである。
白熊で有名なむじゃきという店の向かいに立ち呑み屋がある。その店の入り口にある人形が面白い顔だった。
頭が徳利のように見える。泡盛を入れる陶器(カラカラ)にも似ている。似たものが鹿児島にもあるのだろうか。
中園さん「このあたり昔ゲームセンターでした。この入り口の人形はゲームセンターの時代からいますね。」
人形ごと居抜きの店だった。カラカラとか全然関係ない。
中園さん「むかしは他の色もいたような気がしますが…」
たくさんいたうちのひとつなのだ。(存在が)気にならないですか?と聞いたら、気にしてないとこと。
もう気にならないぐらい馴染んでいることがたまらない。
2011年のストリートビューを見ると店はないけどこの人形だけ立っている。道祖神のようだ。
中園さん「当時流行っていたゲームはストツー、あと音ゲーが出はじめで、ダンスダンスレボリューションが流行ってました。ヤンキーはダンスダンスレボリューションはやってなかったですね。格闘ゲームに乱入するときは相手を(怖くないか)確認していた(笑)。」
次に教えてもらったのがタカプラというビルである。
中園さん「中学生の頃にヤフーチャットに鹿児島というチャットルームがあって、そこによく出入りしてました。そこの人と遊ぶときに待ち合わせ場所がタカプラでした」
「タカプラ前に集合」。中学生がオフ会に参加するどきどきがこの8文字に含まれているのだ。
中園さん「ハンドルネームで呼び合う怪しい集団で」
中園さんの名前は何だったんだろう。
中園さん「boraemon2000です。ドラえもんのdをbにした名前で」
甘酸っぱい。
そのタカプラは今年の夏に閉店して解体される
中園さんの話を聞くとタカプラがなくなることの喪失感がわかる。僕はきょうはじめて見たビルなのだけれど。
中園さん「ここで待ち合わせるときは『殺し屋の前で』と言ったりします」
天文館のアーケードを歩いていると、中園さんが思い出したように教えてくれた。
中園さん「ここにミニ四駆やガンプラ、エアガンを買いに来てました」
しばらくのあいだ休業させていただきますと書いてある。
中園さん「鹿児島の子はエアガンが好きで、10歳以上向けのエアガンの弾の売り上げが売上が全国屈指だったと聞いたことがあります。
おじいちゃんの山を開墾してサバゲーのフィールドにする人がいたり」
開墾という言葉を会話で使ったのははじめてかもしれない。
中園さん「鹿児島って山を持ってる人が多いので。鹿児島って市内から少し離れると山だらけですよ」
「山持ってる人が多い」という文章ははじめて聞いた。タカプラの記憶のように共感できる話もあればとんだパワーワードも登場する。
天文館にある山形屋は鹿児島の老舗デパートである。
中園さん「山形屋の名物は地下の金生饅頭。屋上の遊園地で遊んでレストランフロアの焼きそばを食べます。おばあちゃんおじいちゃんと来るところですね。」
昔の立派な百貨店である。
「山形屋は家族で来るところ、天文館は友達と来るところ」だそうだ。
これを読んでいるあなたの地元でいう◯◯◯みたいな場所である。(◯◯◯のところは各自地元の名門デパートの名前を埋めてください)
この山形屋に40年以上手品の実演販売をしている人がいるのだ。なんと96歳(自称)である。
中園さん「鹿児島で育った人はみんな知ってます。鹿児島子どもはいちどはこの店で指ハブをはめられたことがあるから」
地元の超有名人だ。
これまでは思い出の話だったがついに生きる伝説にたどり着いた。中園さんの記憶でもあり、まだそれが続いているのだ。
ミスターマリックが弟子だという話、昔のマジックショーでもらったご祝儀袋の束、手品用品全部セットが50万だったりとひとつひとつ濃い。
いつのまにか中園さんの記憶に同化して気分はすっかり鹿児島ローカルである。
これは贅沢な旅なのではないだろうか。地元の人にガイドになってもらって、ガイドブックにもブログにも書いてないこと、書くほどでもないことを堪能するのだ。
でもその「書くほどでもないこ」をこうして記事にしているのだがら空気から肥料を生み出すような企画である。
とんだ金脈かもしれない。リリカルな小見出しを書いたが、金の話になってしまった。
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